第13話
なにこれ……。
舞はメッセージを何度も読み直して、その内容をどうにか把握した。
でも惑わされるのは早い。
愛が舞を傷つけるためにでっち上げたことなのかもしれない。
舞はそう思い直し愛を睨みつけた。
「信じてないみたいだねぇ? でもこれ、本当のことだから」
愛は楽しげな表情を崩さないまま言った。
「暴力者とイジメられっ子なんて、いいコンビじゃん」
恵美がそう言って大きな声を上げて笑った。
他の2人もつられるように笑い出す。
舞は唇を引き結んで3人を睨みつける。
「じゃ、今はそれだけ伝えておきたかっただけだから。あんたも、付き合う相手考えたほうがいいよ?」
恵美は最後にそう言い残して、3人と談笑しながら行ってしまったのだった。
☆☆☆
あの3人の言葉なんて信用する必要はない。
どうせ嘘ばっかりだ。
あのメッセージで細工して作ろうと思えばいくらでもできる。
それでも、そうやって考えていること自体が、愛から聴いた噂を気にしているということだった。
舞がC組に入ったときにはすでに2人で遊園地に行ったことは噂になっていて、教室に入るやいなや陰口を叩かれた。
それもよくないものばかりだ。
転校生に手を出したとか、その転校生は暴力事件を起こしたとか。
みんな舞に聞こえるような声で話をして、時折節操のない声で笑い出す。
いつもはこれくらいのこと気にしない舞だけれど、青っちのことが絡んでいるのでみんなの声がいちいちトゲになって突き刺さる。
できるだけみんなの声を聞かないように自分の席につき、すぐに文庫本を取り出して読み始めた。
辛いとき、逃げ出したいことがあったとき、活字の世界へなら簡単に逃げ込むことができる。
現実がどれだけ辛くて厳しくても、小説の中なら自分を傷つける人はいない。
それでもなかなか読書に集中できなくてモヤモヤとした気分になっていたとき、不意に教室内が静かになった。
顔をあげてみると青っちが登校してきたところだった。
「おはよう舞!」
青っちは相変わらず子供みたいな笑みを浮かべて舞に近づいてくる。
「おはよう……」
舞は周囲の目を気にしつつ、小さな声で挨拶をする。
「どうしたの舞、あまり元気ない?」
青っちはすぐに舞の異変に気がついて心配そうな表情になった。
「な、なんでもないよ。大丈夫だから」
余計な心配をかけたくなくて慌てて笑顔をとりつくろう。
青っちはそれでも心配そうな表情を崩さないまま近づいてきた。
「本当に? 顔色悪いよ。一緒に保健室に行く?」
「青っち……」
やっぱり青っちは優しい。
暴力事件を起こしたなんて噂、信用できない。
「わ、私達のこと、もう噂になってるよ。同じクラスの子に目撃されてたみたい」
一瞬前の学校のことを質問しようとしたが、寸前のところで話題を変えた。
「え、そうなんだ?」
「うん」
「そっかー」
青っちは特に気にしている様子ではない。
「噂とか、気にならないの?」
「え、別に? だって遊園地に行ったことは事実だし。もしかして舞、そんなこと気にしてたのか?」
そう言われて舞はあいまいに頷いた。
本当はそれだけじゃなかったけれど、なんとなく言えない雰囲気になってしまった。
「そんなこと気にしなくて良いんだよ。噂なんて、言いたいヤツに言わせておけば」
青っちの言葉に少しだけ胸が軽くなるのを感じる。
青っちの気にしない性格が今は救いだった。
ただ、恵美たち3人はそんな青っちを見て不服そうに表情を歪めていたのだった。
☆☆☆
放課後になると、青っちはすぐに教室を出ていった。
今日は母親に買い物を頼まれているのだと、昼休憩の時に言っていたことを思い出して、舞はその後ろ姿を見送った。
青っちが教室からいなくなると、舞に話しかける生徒は1人もいなくなる。
1人でトロトロと帰宅準備をして、ようやく立ち上がったときにはクラスの半分がすでに教室にいなかった。
私も、早く帰って夕飯の準備しなきゃ。
今日は宿題も出てるし。
そう思ってC組組の教室を出ても、なんだか足が重たい。
青っちのあんな噂を聞いてしまってから、どうにも気持ちが沈みがちだ。
青っちが言っていた通り、噂なんて気にしなければいいのにと、自分でもわかっている。
それでも気になってしまうのは、きっと噂の内容が自分ではなく、青っちに向いているからだ。
舞は今まで散々噂されてきた。
その中の大半が恵美たちが考えたデマだ。
それでも、なにを言われても気になんてならなかった。
それは自分に関することだったから。
でも、噂の矛先が青っちに向いてしまったら、やはり無関心ではいられなくなってしまう。
これってまるで、私が青っちを好きみたい?
昇降口までやってきてふとそのことに気がついて、頬が熱くなるのを感じる。
舞は頬を両手で包み込むとブンブンと左右に首を振った。
青っちとは久しぶりに合って、昔とのギャップに驚いているだけだ。
それに加えて愛の言ったあの噂話のせいで、妙に気にしてしまっているに過ぎない。
自分自身にそう言い聞かせて足早に校門を抜ける。
のんびりすればするだけ、青っちのことを考えてしまいそうで、そんな自分が少しだけ怖かった。
足早のまま家に向かおうとしたとき、電信柱の影から誰かが出てきて舞は足を止めた。
それが3人組だと理解した瞬間、体の力が抜けていくような感覚があった。
同時に胸の中には嫌な黒いモヤが広がっていく。
「舞、偶然だねぇ?」
どう見ても帰宅途中の舞を待ち伏せしていたのに、恵美はそう言って微笑んだ。
「なにか用事?」
普通に質問したつもりなのに、声が掠れてしまった。
情けない声になったことが悔しくて下唇を噛む。
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