第12話

「今日のデートはどうだったの!?」



帰宅した途端母親がリビングから出てきて勢いよく質問してきた。



舞はその勢いに圧倒されながら「まぁまぁだったよ」と、答えた。



「それよりお母さん、今日は早かったんだね」



「お昼から出勤して3時間だけよ。バイトの子の変わりだったから」



そうだったのか。



そうとわかっていればもう少し早く帰ってきたのに。



「それより、なによまぁまぁって! あの子、小学校の頃一緒だった青木君でしょう? 大きくなって、男前になったじゃない!」



「お母さん、青っちのこと覚えてるの?」



舞はリビングへ向かいながら驚いて聞き返した。



「覚えているに決まってるでしょ。あの子、泣き虫で舞がいつも助けてあげていたじゃない」



娘が気にかけていた男の子だから、しっかりと覚えていたみたいだ。



舞はリビングのテーブルに沢山のお土産を並べながら「見た目が変わったから、わからないと思ってた」と言った。



「わかるわよ。雰囲気は同じだもの」



母親はカエルのぬいぐるみを持ち上げてしげしげと見つめながらそう言った。



他にもブタやウサギのぬいぐるみもあるし、遊園地限定のお菓子もある。



「ところでこのカエルのぬいぐるみはなに? すごくブサイクだけど」



母親の一言に舞は吹き出して笑ったのだった。


☆☆☆


その日母親の手作り肉じゃがを食べた舞は頬がとろけるような思いだった。



いくら料理が上達したとはいえ、まだまだ母親には届かないみたいだ。



そうして布団の中に入り込むと自然と頬が緩んでくる。



今日の1日の出来事、帰ってから食べた母親の手料理。



本当に明日もこんないい日になるんじゃないかと思えてくるほどだ。



しかし、朝起きて学校へ向かった時現実はそんなに簡単じゃないことを身にしみて理解することになった。



昇降口へ向かったとき、あの3人組が舞を待ち受けていたのだ。



「ちょっといい?」



質問しながらも、恵美の顔は笑っていないし否定を許さない声色をしていた。



舞は靴を履き替える暇もなく、3人に囲まれて、恵美には腕を掴まれて、校舎裏へと連れてこられてしまった。



その間に数人の生徒たちとすれ違ったけれど、みんな見て見ぬ振りを決め込んでいる。



面倒事には巻き込まれたくないのだ。



舞にもその気持はよくわかる。



校舎裏は相変わらず人がいなくて、花のひとつも咲いていなくて寒々しい。



舞は後から肩を押されて思わず地面に膝をついてしまいそうになった。



寸前のところで体制を建て直して向き直る。



「あんた青木と付き合ってんの?」



恵美の言葉に舞は唖然として目を見開く。



どうしてそんな風な勘違いをさせてしまったのか。



一瞬にして昨日の遊園地デートのことを思い出していた。



まさか。



という思いで3人を見つめる。



体からどんどん血の気が引いていくのを感じる。



「昨日遊園地で見たんだけど」



淳子に言われて舞は息を飲んだ。



「嘘……」



思わず漏れた言葉に恵美が詰め寄ってくる。



舞は自然と後ずさりして、背中に壁がついてしまった。



「私達もあそこにいたから」



そう言われて、出口ゲート付近で視線を感じたことを思い出した。



あの時はなんてことない。



気のせいだと思ってやり過ごしてしまった。



でもあれはやりすごすべきではなかったのだ。



舞は唇を噛み締めた。



絶対に知られたくない3人に知られてしまっていた。



どう言い訳をしようか考えようにも、頭の中は真っ白でなにも考えられない。



変に言い訳をしてしまうと、余計にまずいことにもなりかねない。



もう、八方塞がりだった。



「あんたも可哀想だね。あんな怪物に気に入られてさぁ」



そう言ったのは愛だ。



愛はさっきから含みのある笑みを浮かべている。



これから私を傷つけてやるぞと企んでいる、そんな深みのある笑みだ。



「愛は青木が元々いた学校に友達がいるんだってさ。だからさ、青木がどんなヤツだったのか聞いてもらったの。舞が騙されてたりしたら、可哀想だし?」



恵美の言葉に他の2人が笑い出す。



舞はなにも言えずにただ時間が過ぎ去っていくのを待つばかりだ。



この3人がなにを企んでいるのかわからないが、早く終わってくれればいいと考えている。



「あいつ、前の学校で暴力事件を起こして、いられなくなったらしいよ?」



愛の楽しげな声が聞こえてきて舞は息が止まりそうになった。



青っちが暴力事件?



自分の知っている青っちと暴力事件とが結びつかない。



確かに体格は良くなったと思う。



だけど青っちは青っちで、優しい人のままだった。



昨日1日一緒にいてそれは確信にかわった。



舞は自分でも気が付かない内に左右に首を振っていた。



「そんなわけない。青っちは、そんなことしない」



この3人組の意見を否定したらどうなるかなんて、考えていなかった。



舞の言葉を聞いた愛がニヤリと口角をあげて、舞は口を閉じた。



「そう言うと思った。これ見て」



そう言って眼前にkざされたのはピンク色の愛のスマホだった。



画面には友人とのメッセージのやりとりが表示されている。



《愛:そっちの学校に青木航って生徒いた? こっちに転校してきたんだけど、どんな生徒だった?》



《トオコ:青木ってあの青木? あいつまじでやばいよ?》



《愛:なにそれ、なにかしたの?》



《トオコ:動力事件だよ。しかも1人で3人ボコボコにしたらしい》

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