20:バイト使用人と爆発現場

地下から移動を開始し、別フロアの一階へと到達する


「俺たちの目的地はこの先らしいが、加菜と師匠は?同じか?」

「うん。私達も一緒だよ。ね、紫乃さん」

「うんうん。師匠の心配とはいい心がけではないですか、弟子」

「しのさん?」

「お褒め頂きありがとうございます・・・師匠」

「穂積さん、師匠とは?」

「ああ。師匠・・・冷泉さんにお願いして、学院内で今の俺に足りない使用人として必要な技術を教えてもらうことになったんだ」

「なので師匠です。岩滝様は優先させますので、ご安心ください。立派な使用人に鍛え上げますので」


最初は私が優先とか言っていなかったか、師匠

一方、お嬢の反応は・・・


「冷泉さんなら安心ですね。穂積さんをよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。お預かりいたします」


「しのさん、ちょっと、さゆくん、でし、どゆこと!?」

「弟子は弟子です。お嬢様には関係ありませんよ」

「関係大アリだよぉ!事情を説明してほしいよぉ!」

「煩いなぁ・・・」

「!?何この扱い!ちょっと紫乃さん!?流石に横暴では!?」

「はぁ・・・面倒くさい」

「面倒!?」


師匠から扱いが滅茶苦茶な加菜を連れて、俺達は全員の目的地である出口まで向かおうとする

そういえば・・・


「そういえば、水仙様、異羽さん」

「はい、どうされました?」

「爆発があったと思われる部屋。この階ですか?」

「ええ。薄暗いからわかりにくいのですが・・・あの部屋ですよ」


確かに、廊下は非常灯がついている程度。薄暗くてよくわからない

明かりがあれば見えるだろう

懐中電灯の類はないが、俺にはあれがある


「師匠、スマホを返してもらえますか?」

「えぇ・・・」


俺の私物なのになんで返却を拒まれているのだろうか


「充電無駄遣いするなよー?」

「しませんから・・・まったく」


スマホのライト機能を使って「あの部屋」を外から見ておく

黒焦げ・・・かなり酷いな

二人はこの部屋に入って毛布を持ってきてくれたのか

・・・しかしこの状態で無事の毛布とは。なかなかに凄い毛布なのかもな、あれ


「ライト、あったのですね」

「スマホなので光量はお察しですけどね・・・」

「すまほ・・・?」


やはりと言うべきか。水仙さんはそれを不思議そうに眺めていた

今の端末「A-LLFE」が本格的に普及し始めたのは、俺たちが産まれたぐらいの年代だ

使わなければ、存在を知っているものは少ないだろう


「使われている方、いらっしゃったのですね・・・そういう専門の方ならともかく。何か事情が?」

「うち、貧乏なんで。お嬢に雇われることになったのも、元を辿れば実家の問題なんですよ」

「なるほど。道理で三ヶ月というとんでもないワードが・・・色々と拙いのも理解できます。気苦労が多かったでしょう。大変でしたね」


厳し目の人かと思ったら、意外と優しい人のようだ

やはり態度が問題だったのだろうか。異羽さんも、俺たちを・・・俺を、信用しきれていなかったのかもしれない

少しだけ改善できるよう、努力していかないとな


「実家の問題はどこでも大変ですよね・・・なにか困ったことがあれば、遠慮なく頼ってください。今の協力関係だけではなく、使用人仲間としてこれからも仲良くして頂けると嬉しいです」

「いいんですか?」

「ええ。幸いにしてお嬢様たちは二人共「月」。同級生にもなりますから」

「合格できれば?という言葉は?」

「あら。もう合格間近ですよ。必要ないかと思います」

「ですよね。これから、色々と頼らせていただくかと思います。よろしくお願いします」

「こちらこそ。穂積さん」


うん。うん。環に異羽さん。そして師匠

順調に使用人の仲間が出来ている

・・・皆を見習って、少しでもステップアップをしないと。今回みたいに、足を引っ張りたくはない


「しかし・・・異羽さんはスマホをご存知で?」

「ええ。弟がそういう機械が好きで、よく集めてきていましたので。何度か触らせてもらったこともありますよ」

「へぇ・・・弟さんがいらっしゃるんですか」

「はい。その趣味他、得意なことを買われて・・・今年から法霖に入るお嬢様についたと聞いています。よろしければ、仲良くして頂けると。十五歳なので、年齢も近いでしょうから」

「ええ。ひとつ下になるようです。男は少ないですもんね。俺としても仲良くなりたいです。できれば、紹介して頂けると」


「了解です。あら、穂積さんは私と同い年だったのですか」

「異羽さんも、十六歳?」

「そうですよ。もう少し上だと思っていました?」

「しっかりされているので・・・同い年だったとは」

「・・・しっかり、していますかね?」

「ええ。俺はそう思ったからこそ・・・」

「ありがとうございます。そう言われること、全然なので」


異羽さん。自己評価低すぎでは?

あんたがしっかりしてない人間ならこの場にいる誰が一番しっかりしているんだ。お嬢と水仙様か


「しかし、穂積さん。なぜあの部屋を?もしかしなくても私とお嬢様を疑っていました?」

「あ、いやそういう訳ではなく・・・ただ、どういう状況だったのか気になってまして」

「気になる、ですか?」

「ええ。船内で爆発となれば遠くだろうが気がつくじゃないですか。俺たちが気付かない程度の爆発があったとして・・・その被害にあったであろう部屋はどれぐらいの規模で破損があるのか気になっていまして」


「言われてみれば、確かに・・・何かしらありますよね」

「けど、一部屋一部屋に防音がされていれば、爆発音は」

「お嬢様、流石にこの規模の爆発があれば船が揺れるかと」

「あ、そっか・・・」


そう。それなのだ

俺たちが今いるのは船上。爆発音は水仙様の出した予想が当たっているとしても、流石に船全体が揺れないはずはない

なにか引っかかるんだよな、この爆発したと思われる部屋


「師匠、俺のスマホでクリアできる見込みがあるなら、先に行って出口の扉を開けてもらえないか?」

「師匠使いが荒いぞ。まあ、嫌な予感はするし鍵の解錠は任せろ!行きますよ、お嬢様!」

「さゆくんが紫乃さんの弟子・・・あばば」


なぜか意識を飛ばしている加菜を引きずりつつ、師匠は俺のスマホを受け取って出口の方へ向かってくれる

問題は、この部屋


「穂積さん、なにか気になることでも?」

「・・・お嬢。水仙様たちと師匠たちの方へ。嫌な予感がする」

「そうですか。水仙様たちは水代様達の元へ。私は穂積さんの予感を確かめるためにここへ残ります」

「・・・わかりました。けれど何か危険があればすぐに引き返してください。出口でお待ちしています」

「これ、役に立つかわかりませんが、一応預けておきます。なにか使えるかと」


去り際に異羽さんが俺にマッチの箱を持たせてくれる

水仙様と共に出口に向かった彼女が預けてくれたものは、使えるかはどうかわからないが

少なくとも、護身程度にはなるだろう


「危険だよ、お嬢」

「それでもです。貴方一人を置いていくほど、薄情ではないんですよ」

「今は薄情でいてほしいんだけどなぁ・・・」


その瞬間、何かが俺たち目掛けて飛んでくる

一瞬でそれがなにか把握は出来なかったが・・・形状は長筒

先端には、火花が散っていた


「穂積さんっ!」

「わかってる!」


それを見たお嬢は、今まで聞いたことがないような大声で俺を呼ぶ

彼女的には、俺に避けろといいたかったのかもしれない

けれど俺はお嬢が声を上げた瞬間にそれを拾い上げ、来た方向に投げ返した


「伏せてください!」

「もちろんだっ・・・!」


それが部屋に落ちる前に、俺はお嬢に覆いかぶさり、床に伏せる

同時にそれは大きな爆発を起こして、廊下近くまで火の海を発生させた


「・・・あれ、やはり爆弾だったのですね」

「なんでこんなところに爆弾なんて・・・」


スプリンクラーは作動しないらしい

なぜ停止している。この火事で作動しないわけがないだろうに・・・

まさか


「「非常装置が意図的に止められている」」

「そのとおり!最底辺つきぐみでもそれぐらいは察しが付くか!」


火の海から、誰かが現れる

あんなところに人が・・・いや、爆弾が投げ込まれている時点で誰かがいるのは当然か


「あんた誰」

「おいおい口の聞き方がなってないなぁ、使用人風情が」

「・・・ただの不審者にしか見えないよな、お嬢」

「穂積さん。流石にそれは・・・船に乗り込んでいるということは同級生ではないでしょうか・・・?」

「使用人も使用人なら主人も主人だな!とてもじゃないが、高嶺様の妹とは思えん!」

「高嶺って、お嬢のお姉さんだったよな。あの放送の」

「ええ。そうですよ」


改めて振り返っておく。間違いがないように

岩滝高嶺。お嬢のお姉さんだったな。ここの三年生だ


「お前らここ火事なのわかってる?和やかに会話しすぎだろ!」

「・・・だからだよ」

「・・・だからに決まっているではないですか」


お嬢と俺はわかっている。こいつがどこまで聞いているかわからないが・・・危険人物なのには変わりない

こいつを、解錠にかかっている師匠たち四人の元へ向かわせないようにする

時間稼ぎが、俺たちの仕事なのだ

今の俺達にできるのは、これぐらい。解錠は四人に任せるしかないのだ


「で、あんた誰」

「またこの会話に戻るのか!いいだろう!耳の穴かっぽじって聞け!」


火の海で無駄なターンをした後、彼女は変なポーズを決める

控えめに言って真似したくないような格好が格好いいと思っているのだろう

見ているだけで恥ずかしいな、あれ


「あたしの名前は「氷野花彼岸ひのはなひがん」!お前らの先輩だ!」

「先輩だったのかぁ」

「あ、あの。学年は」

「三年生だ。このネクタイは見えるか?ん?」

「「眩しくて見えないなぁ」」


実際は見えるけど、見えていないことにして置こう

・・・あの恥ずかしい人間性で三年生。しかも花組らしい

彼女はあんな成りだが、俺達が目指すべき場所にいる先輩の一人ということらしい


「そうだろうそうだろう・・・一応聞いておくが、どういう眩しさだ」

「「火が眩しいと言うか、煙で目がしょぼしょぼしてきて」」

「だろうな!」

「氷野花先輩は平気なんですか?」

「あたしは平気だ。慣れている。軟弱者め。ふん!そんな軟弱者は法霖にはいらない!ここで失せろ!」


「・・・いやいや。流石に専門ではないので、氷野花先輩のような目は手に入れることが出来ませんよ。何かコツとかありますかね?」

「ない!慣れだ!ここで死ね!」

「すぐに人を殺そうとする脳筋女が!お嬢、こっち!」

「はい!」


大量の爆弾を投げつけられながら、俺はお嬢の腕を引いて走り出した

爆風で足がもつれつつ向かう先は地下。もう一度、あの波が荒れ狂う場所へ向かっていく

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