9:落ちこぼれ令嬢とうさぎな使用人
「それで、なぜ春小路様はあの場所で、あんなことを・・・」
「船にプールと見つけたら・・・水着になるしか無いなと・・・」
何を言っているんだこの人は
気温十度ですよ。なんでその選択肢だけになってしまうのですか
「・・・もちろん身体を温めた後、自分でも何をしているんだろうと思いましたわ」
「でしょうね・・・」
「これも何もかも、水槽を見たら・・・」
「水槽を見たら?」
「い、いえ・・・家の事情ですわ!」
彼女の家業は水に関することのようだ
水辺に行くと、癖で水着になってしまうのはどうかと思うが・・・
癖はともかく、彼女は家業を嫌ってはいないと思えた
「だから、プールでの出来事は自分でもなかったことにしたいの。こうして岩滝様とお話するきっかけになったのは事実だけどね。恥ずかしいの・・・」
「わかりました。私も、先程の件は忘れます」
「ありがとう。でもね、あの出来事はなかったことにしても、貴方との繋がりはこれからも大事にしたいわ。だから、その・・・これからもよろしくお願いしますわ」
「いいのですか?」
「何を言っているのですか。あのことはなかったことになっても、貴方は私の恩人なのは変わりませんわ。これからもお付き合いを続けていきたいの」
「あ、ありがとうございます。こちらこそお願いいたします。で、でも・・・」
「なにかしら」
「春小路様も、私のことはご存知ですよね。その・・・」
「落ちこぼれな話?もちろん知っていますわよ」
大体の家なら、大体の人なら知っている話
だから、なぜ彼女がそれでも私と関係を続けてくれるのかわからなくて問いを続ける
穂積さんは信じてくれたから
茨は私自身を見てくれた上で・・・私と関わりを持ってくれている
では、彼女はなぜ・・・
「それなら、そのなぜ私と付き合いを」
「私、これでも人を見る目があると自負していますの。それに、噂に惑わされる人間は春小路の人間としてふさわしくない。己の目で見た事実が事実だと、お父様から教えられましたわ」
「いい、お言葉ですね」
「ありがとう。だからね、私は貴方が噂みたいな人じゃないと思えるのよ。確かにあの時の私の格好はおかしかったわ。けどね、そんなおかしい私に声をかけてくれたのは岩滝様たちだけだったのよ」
あの時、あの場所には私達しかいなかったが・・・どうやらその前に何人か訪れていたそうだ
けど、春小路様を見て・・・何も見なかったことにしてその場を立ち去ったようだ
彼女は見ていた、しっかり・・・私達がいた物陰のところまで
「優しい人。その優しさを誰かにあげられる人は立派な人。噂は知っていたけど、私は貴方を見て、貴方と関わりたいと思えた。それだけの話で、それ以上の理由はないわ」
金髪ドリルを片手で華麗にはらい、彼女は自信たっぷりに微笑んでくれる
いかにもお嬢様な彼女の振る舞いに、自然と目が彼女に惹きつけられる
同級生とは思えないその容姿。中身まで同級生だとは思えないぐらい、格好良かった
少し、ずるさを覚えるぐらいに格好良かった
「私達はもう子供ではないのよ。だからといって大人でもないけれど・・・自分で関わりたいと思う人ぐらい、自分で選べるようになるべきだと思うわ」
「ありがとうございます」
「お礼を言われることはしてないわ。けど、そうね・・・もう少し、自信をつけるべきよ。貴方は噂通りの人間ではない。それをわかっている人は私以外にもいると思うわ。だからね、貴方は信じてくれる人の為に強くなるべきよ」
「・・・が、頑張ります!」
「その意気よ。私にも手伝えることがあれば、なんでも相談してちょうだいね。力になってみせるから」
「ありがとうございます、春小路様」
「だからお礼を言われることはしていないわよ・・・全く」
それから軽く他愛ない話をしていく
春小路様の家業は「水族館の経営」らしい
彼女自身も資格を取って、水族館にいる家族のお世話をしているそうだ
たまに、イルカショーとかにも出ているらしい
しかしそれは本当に「たまに」の話だそうだ
彼女のお父様は学生時代に学生らしいことを重視しているようで、世話は彼女の強い要望で譲歩しているようだが、それ以外は「仕事」になるので滅多なことがない限り関わらせてもらえないらしい
けれど彼女自身も、今の学生時代にしかできないことを全力でやりたいそうで、その方針をきちんと受け入れているそうだ
そんな彼女の家の話題から、話は私の家・・・ではなく、なぜか穂積さんの話にシフトしていく
「そういえば、なぜ穂積さんはうさぎなのですか?」
「だって見えない?ふわふわの白い髪に、灰色の瞳。うさぎさんみたいじゃない」
・・・い、言えない。あれ
・・
二月ぐらいだっただろうか
髪色が気になった私は、休憩中の穂積さんに髪の件を聞いてみることにした
純粋な
私達一般人が立ち入ってはいけないような別世界の人々
穂積さんも、もしかして・・・なんて思ってしまったのだ
「穂積さん」
「んー、どうしたの、お嬢」
「髪、その・・・」
「ああ。黒に染めろって?」
「え?」
「元々黒だったんだけど、八歳ぐらいの時にいつの間にか白くなっててさ。やっぱりやらないとだよね。
「しらがぞめ」
「一応、地毛なんだよ。これ・・・小さい頃の写真は無いから、証明はできないんだけど。坊主にしてもらえれば、
「いや、流石にそこまでは・・・本当なんですか?」
「うん。嘘はないよ」
その時、私は彼の言葉を信じると共に
・・・これまでの彼が歩んできた人生の全てを、怖く思った
・・
あの後、私は
穂積さんの話だと、昔は黒髪だった
唯一の救いは、彼の周囲の殆どが・・・黒髪の彼を知らなかったこと
なんなら
流石に長期間面倒を見てくれていた弁当屋のご夫婦は穂積さんが黒髪だったことを知っていたようだが・・・それ以外は知っている人がほとんどいないらしい
その弁当屋夫婦も、なぜ穂積さんが
穂積さんは八歳の時に、とある場所へとアルバイトに行ったらしい
年齢不問で「列車で眠った人を客室に運ぶ仕事」だったそうだ
泊まり込みだったそうなので、弁当屋夫婦に妹さんを任せて、一ヶ月ほど出稼ぎに行ったそうなのだ
その仕事へ行く時は黒髪だったけど、帰ってきたら
タイミングも、その仕事の内容も覚えていないそうだが、とにかく「怖かった」ことは覚えている
後、その時から苦手になってしまった事があるらしいが・・・それは流石に教えてくれなかった
「可愛らしい容姿ですわよね、本当に」
「じ、実はあれ・・・本人結構気にしているようなんですよ」
「確かに若い方で白髪はあまり見ませんが・・・とてもお似合いですもの。素敵。格好いいですわ・・・」
・・・穂積さん。貴方の行動は私と彼女の交流を良き方向に運んでくれました
けど、春小路様のハートを奪ってしまっています
・・・なぜでしょう。少し、複雑です
なぜ複雑なのかもわからないまま、残りの時間は学校生活に対することや、互いの趣味のことを話していく
時間はあっという間に過ぎ去り、気がつけば夕方になってしまってしまうほど
私と春小路・・・いえ
私と、文芽は他愛もない「いつでも話せる」ような、なんでもない話を互いに続けていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます