6:バイト使用人と今後の予定
割り振られた部屋に到着した俺達は、事前に預けた荷物が全て届いていることを確認してから一息つく
「穂積さん、それ・・・」
「ああ。真純さんから選別でな。真純さんが知り合いの「紅茶好きな人」に頼んで、一式用意してもらってな。いいものだぞ、これ」
「ああ、それは何となく分かるのですが・・・それを持ち歩いていたのですか?」
「ああ。どんな時も落ち着ける時間が大事・・・お茶の時間は疎かにするな。それがこれを用意してくれた人の言葉なんだ」
その人とは、完全オンラインのみでやり取りを行った
本人がつけたとは到底思えないハンドルネーム「茶器マニア」と女性だということ以外、情報は全然なのだ
「確かに、心が落ち着いていれば・・・思考も安定しますね」
「俺もそう思ってな。だからこれを持ち歩くことにした」
その知り合いさんの厚意で一式収納できるトランクも譲って頂いた
だからこうしてここにも持ち運べているわけだ
「いつか茶器マニアさんに会ってお礼を言いたいぐらいだよ。色々と手を回してもらったから」
「そうですね。その時は私もご一緒させてください」
「お嬢は、茶器マニアさんの正体知らないの?」
「そうですね・・・心当たりはあるのですが・・・男性なんです。茶器マニアさんは女性のようですから、誰なのか全然心当たりが無かったりします」
「なるほど・・・。はい。口に合えばいいけど」
「ありがとうございます」
茶器マニアさんの指導通りに用意した紅茶を、お嬢の前に差し出す
温かい紅茶の香りを楽しんだ後、彼女はゆっくりとそれを口へ運んでくれた
三ヶ月の間、彼女には何度も試飲係をお願いしてきたが、中々彼女の口にあうものを用意できなかった
しかし俺だってこの三ヶ月、何もしなかったわけではない
・・・今度こそ、口に合うものを用意できていればいいのだが
「ふぅ」
「・・・どうかな?」
「美味しいです。三ヶ月前からかなり上達しましたね」
「ありがとう。喜んでもらえてよかったよ」
紅茶を飲んで、一息ついてくれた彼女
それからしばらくした頃、俺達は本題の話を始めていく
「それで、お嬢。これから探索にいこうと思うけど、準備はいいかな?」
「そう・・・ですね。まずは自室を見ましょうか」
「うん。もしかしたら俺たちが見逃しているだけで船内マップがあるかもだし」
「ですね」
とりあえず、二人で備え付けの引き出しやベッドの下を確認していく
けど目的のものは全然だ
客室で使うもの・・・アメニティの類以外は全然見当たらない
そういえば・・・ここ
「この部屋はベッドが一つしか無いね・・・。俺どこで寝ればいいんだろう。床?」
「下のフロアに小さな客室が用意されていますよ。使用人はそこで寝るようになっていると入学案内に記載がありました」
「んー・・・そうなると距離があるよね。不便じゃない?」
「ですよね。なぜ分けたのでしょうか」
「主人と一緒に寝るのもどうかと思うけど、階を隔てる必要って普通は無いと思うんだよね。最低でも隣室ぐらいだと思っていた」
「寝る場所の決まりはありませんし、穂積さん、こちらで寝られてはどうですか?」
「お嬢と寝るの?え、なんかいいのそれ、色々な意味で・・・」
「私は別に構いませんよ。何かある前に対策をするのは当然の義務です」
「お嬢も、ここで何かあると思っている?」
会話の節々で感じた違和感の話をする時が来たようだ
感じていたのは俺だけかと思ったが、どうやら彼女もしっかり感じ取っていたらしい
「通知が来た時点で少しは疑っていましたよ。けど、姉の話しぶりで確信しました。入学試験はまだ終わっていません」
「・・・制服とか用意されているのに?クラスだって分けられているのに」
「油断を誘うためと思われます。なんせ私達は入学案内を受け取りはしたけれども、合格通知は受け取っていませんからね。ここに来られた時点で入学できると思わせて、油断した人間をこの最終試験で、振り落とす」
「なるほど。じゃあ俺も交流会終了後はここにいさせてもらうよ。夜に何があってもいいように」
「お願いしますね」
今後の予定も一緒に軽く
しかし一晩ねぇ・・・床で寝るにしても、春の夜は冷える
毛布だけでも移動させて来ようかな・・・
「お嬢、別の部屋から物を移動させるのって認められているのかな」
「ええっと・・・案内ではダメ、のようです」
「じゃあジャケット羽織って寝るしか無いか・・・」
「んー・・・ベッド、無駄に広いですし、一緒のお布団を使います?」
「それは流石にまずいでしょ!?」
年頃の男女が同じ布団でなんとやら
妹と一緒という状況ならともかく・・・雇い主とは言え女の子だぞ
なにもないわけがない・・・間違いを起こさない自信がない
「そうですね。自分で言って何なのですが、普通にダメですよね・・・では私が床で」
「もっとダメだから!」
「ではどう譲歩をするべきでしょうか?」
「・・・俺がジャケットを羽織って、床で寝るのはお嬢的には嫌なんだよね」
「はい。春とは言え夜は冷えます。体調を万全な状態に整えるのも、穂積さんのお仕事なのですから」
「でもだからと言って、お嬢が俺の代わりに床に寝ようとするのもどうかと思うんだよ」
「・・・状況を考えて、別々の部屋にいるのも避けたい話」
それは俺も同意見だ
抱いていた違和感が正しかった。それが俺とお嬢の共通認識だ
何があるかわからないし、なるべく別行動は避けておきたい
・・・ここは、最初の案を飲むしか無いか
「・・・わかった。最初の案を飲もう。その代わり、寝る前に俺の両手を縛ってほしい。ついでに目隠しもお願いしたい」
「さ、流石にそこまでは・・・それに有事がある可能性があるのは深夜です。肝心な時に遅れを取るわけには行きませんから!」
「でもいいの?お嬢」
「なにがでしょう・・・」
「俺は自分の寝相がどこまで酷いか知らないよ」
「は、はあ・・・仕方のないことなので、今回は」
「手癖が悪くて、お嬢の身体触っちゃうかもよ!いいの!?」
「・・・あっ、あう・・・ほじゅ、穂積さんっ!?なんでその一瞬でそんなこと考えちゃうんですか・・・!?」
身体を守るようにしつつ、お嬢は涙目と震え声で俺に対して抗議を述べてくる
ありえない話じゃない。俺が何をしでかすか寝ている間のことだからわからないのだ
俺の寝相は未知数
もしかしなくても、全身を弄ったりするかもしれないからな!
「ありえない話じゃないから!」
「なんで嬉しそうなんですか!」
「俺だって興味ないわけじゃないし。いいの、寝ぼけた俺に全身弄られても」
「きょ、興味が・・・そうですよね。年頃の男性ですし、それなりの興味は・・・で、でもですね!こういうことはストレートに言うことじゃありませんからね!」
「でも事実だし」
「たとえ事実だとしてもです!でも、その・・・今回は仕方がありません。わざとじゃなければ許しますから!」
「許してくれるの!?」
「わざとじゃないことが条件ですからね!寝ぼけているふりとか絶対にしないでくださいね!」
前フリだろこれ。寝ぼけたふりして触ってやろ
俺はお嬢のある部分を触ってみたくて仕方がなかったのだ。こんな合法的なチャンスはもう絶対にないだろうし
絶対に触る・・・触ってみせる!
「穂積さん?」
「いいや、なんでもない。じゃあ今日の寝床問題は解決!さ、お嬢。そろそろ探索に行こう。船の中は広そうだよ」
「そうですね。わかりました」
茶器を片付けて、道具の全てを併設された流しで洗った後・・・乾燥棚に置いておく
その間にお嬢は探索する準備を整えてくれていた
「準備はできましたか?」
「ああ。できたよ。それじゃあ行こうか」
巡る場所は船全体。それでも見て回る場所は意外と多い
自分がいる階を見て回り、簡易マップをお嬢が作り上げる
フロアを一周し、念の為と非常階段を確認した後、俺達はまず一番上・・・デッキへと向かうことにしてみた
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