FILE.4 協力者でも

『だから、大久保さん。その時はゲームの続きをしよう。ウチを止めてみナ。』

まさか、17歳から挑戦状を貰うことになるとは。しかも、夜惠の場合、マジで殺りかねない。新大久保で捕まった時にトイレ行くの許可したり、病院の付き添いしただけなのに、ここまで絡んでくるとは。

さて、あまり先の未来のことばかりを考えてもしょうがない。夜惠の取り調べから、一週間経った今、俺はまた新たな事件と向き合っている。

被害者は泉谷良太イズミヤリョウタ。27歳。悪い仲間と手を組んで、半グレまがいのことをしていたらしい。

遺体は廃ビルの一室にあり、酷い有様だった。四肢は切断され、胴体は滅多刺し。局部は切り取られた上に、燃やされていた。それだけでも中々だが、更にその上から近くのゴミ箱から取って来た生ゴミをかけられていた。ただでさえ臭いが恐ろしいのに、現場が現場なため、遺体発見が少し遅れてしまい、腐敗が少々進んでいた。お陰で、現場の刑事数名が吐いた。俺は何とか意識を保っていたが、碌に呼吸なんて出来たもんじゃなかった。

死体の第一発見者は、雑誌記者の大柴國重オオシバクニシゲだった。どうやら、廃ビルの辺りは、ここ最近治安がかなり酷いらしく、裏の取引なんかが平気で行われている。その有様を記事にしようと思ったらしい。そして、偶然例の廃ビルに入ったら、異臭に気付き、発見に至ったらしい。

今日もまた俺は現場の廃ビルの前にいた。はっきり言って、もう何も得られないと思っていた。だが、職場デスクで池本とじゃれ合ってるよりかはマシだろう。

「あー、何しよっ。」

「ねね、もしかして警察の方?」

「ん?」

振り返ると、女が一人いた。

「えーと、どちら様で...?」

「ボクは耶雲七波ヤクモナナミ。ところで煙草持ってない?」

俺の周りには少し癖の強い女が多い気がする。

「いや、あの。俺、煙草吸わないんすけど...」

「あっそ、残念...」

ライターを俺の前でチラチラさせる。

「あの、急に何すか?」

「んー?」

「いや、だから、何の用すか?」

「協力さして。」

協力?何のことだ?

「きょ、協力...?」

「だ・か・ら、捜査に首突っ込ませて。」

おいおい、何言っちゃってんの、この姉ちゃん。

「いやいや、どこの馬の骨かもわからない部外者をそう簡単に...」

「女のコに対して、馬の骨とは失礼な。名誉毀損とかで訴えちゃおっかなぁ...!」

駄目だ。理解が面白いくらいに追い付かない...。

「宜しい...。」

「何が...?」

「ボクのことを教えてあげよう!」

「へ...?」

「耶雲七波、20歳...!大柴と同じ、「彬栄ヒンエイ社」に勤めている。誕生日は丁度来週の11月22日。身長171cm、体重50kg。スリーサイズは...流石に言えないな。趣味、漫画を読むこと!あと、喫煙...!大学は、星方セイホウ大だけど、中退した...。後は...えーと、処女...!」

「...」

マジかよ。え、いや、確かに人通りはあんま多くないよ、ここ。でも、にしてもよ。個人情報を公に晒し過ぎやしないか?

つーか、そういうことじゃないだろ...!

「あんなぁ...耶雲さんよぉ...」

「『七波ン』と呼んでくれてもいいのだぞよ!」

「えーと、そのおぉ...ん?」

待てよ...大柴...つった?

「大柴って、大柴國重?」

「無論ッ...!」

何でそんな奴がここに...?

「何で、大柴の所のが...?」

「ボクね、さっき勢い任せに呼び捨てちゃったけど、大柴輩先パイセンが、現場見てしょぼくれちゃってるのを見たらさ、世話になった人をこんなにした犯人が許せなくてさ...!」

「耶雲...」

「輩先、光景が頭にしがみ付いて、仕事にすらならないんだ...」

「...」

「じゃあ、何で俺を協力者に選んだんだ?」

「さっき、漫画読むのが好きって言ったしょ、ボク。一番好きなのは、子供の頃から変わらない。その推理で、真実を日の光の下に晒し、皆を救う、井手重一茂イデシゲイチモ先生の「True Heros」の主人公、大和太陽ヤマトタイヨウに顔が少し似てるんだもん。何つーか、信頼度マシマシ!」

何じゃそりゃ...。

「だから、」

スッ

急に耶雲が近付く。

「皆を救って...。」

「お、おう...尽力、させて、貰うよ...」

「...」

何、何か俺ミスった!?

ニコッ

「そうこなくっちゃ!」

合ってた、良かったー!

「頼んだよ、大和太陽...!」

「いや、俺、大和じゃねぇし。大久保だし。大久保聖斗。」

「OK、聖斗!」

急に下の名前を呼び捨てかよ...なら、

「宜しくな、七波...!」

「ふふっ、マジで漫画みたいじゃん。」

すると、

「先輩ー!」

「何やってたんだ、池本ー!」

池本が遅れてやってきた。

「す、すんません...!ハァ、ハァ...近くで喧嘩あって、ハァ...。抑えるのに...ハァ...梃子摺てこずっちゃって...ハアァァァ...」

「たっく、もう...」

「誰?」

「ん?ウチの後輩、池本彰馬。」

「OK。じゃあ、名前は遅く来たから、『ビリ彰』ね?」

「あ?『ビリ賞』?つーか、先輩、この人誰っすか?失礼極まりないって奴っすよ...!」

「はは...」

ちょくちょく粗相しまくってるテメェが言うなよ...。

「コイツは、耶...」

「ボクは耶雲七波。彬栄社の記者だよ。宜しく、ビリ彰ッ...!」

「だか、ら...誰がビリ賞だよ...嗚呼ぁ?」

「止めろ、池本。七波は悪意ゼロだ。」

「なッ...!?(え...?なら、余計にタチが悪くないかい?)」

「てか、こんな所でいつまでも油売ってて良いのか?」

「そだな。そろそろ行くか。ゲロ現場...」

「マジすか...俺、この調子であそこ行ったら、吐くんじゃ...?」

「かもな。まあ、その時は、いや。やっぱ面倒。我慢だ。」

「へえぇぇ...そんな非情なぁ...」

「時には試練が必要なのだよ、池本君。」

「こんな試練いるかあぁぁ!」

「そういや、大和の相棒の須垣立佐スガキリッサもよくゲロ吐いてたな。似たモン同士ィ?ククッ」

「あぁん?誰がゲロ垣と一緒じゃぁ...クソアマァ...」

「コイツ、マジ刑事?」

「一応。」

「一応って何すか!先輩イィィッ...!」

「てか、True Heros、わかんの?」

「ちゃーーーんと、全巻家にあるわい。ハッ...!」

「へー、じゃあ、今度語ろうよ。」

「ふっ。我が知識量について来れるか?松江八臣マツエヤオミィ?」

「あぁん?誰があの阿婆擦あばずれじゃぁッ!」

「オイオイ、先行ってるからなー!」

「「ハッ!」」

「「待ってー!」」

「あっ」

「あっ...」

「あっ。」

足が引っ掛かった池本が転ぶ。

「ぶへっ」

「やーい、ゲロ彰ー!!」

「このおぉ...」

俺も読んでみよっかな...。その漫画。


「この先だ。確か。」

「吐く準備出来た?」

「五月蝿ぇッ!」

ガチャッ

扉を開ける。

もう既に泉谷の死体もなく、周りにあった泉谷の所持品も消えていた。臭いも換気しまくったのか、感じない。だが、惨劇が繰り広げられていたことを、静かにこの部屋は伝える。それくらい、暗く重苦しい不快極まらない空気が俺達を包んでいる。

「くっ...」

「でも、何で犯人は泉谷をあんなにむごい殺し方で?」

「まあ、一番妥当そうなはのは、深い深い...『恨み』だろ。」

「恨み...」

「あいつは、性格が相当糞だったらしい。恨んでる奴なんて湧く程いるだろうな。後は敵対してる半グレとかとの抗争とかか。」

「そんなに、酷かったん...?」

「おうよ、バラバラの滅多殺しだ。」

「うぇ...マジか。」

「マジマジ。」

「まあ、確かに泉谷の噂とかは耳にしたことあるけど、碌なのはなかったな。」

「噂...?」

「嗚呼、あいつ猟気的な一面があって、女をさらっては、レイプした後に、色々とやってたらしいぞ。それこそ、バラしたり、八つ裂きにしたり、生きたまま焼いたり...。いやぁ、ボクは何としてもそんな目に遭いたくねぇな。」

バラす...八つ裂き...焼く...?

「気付いた?」

まさか...

「そう、泉谷の死体と同じ殺られ方。」

「てことは先輩...コレって...」

「嗚呼、復讐劇だ...。」


俺らは七波と別れた後、職場に戻った。

「うえ、マジっすか、コレ。人の所業かよ...?」

俺たちが現場にいた頃、他の連中が泉谷の根城の廃倉庫に行ってくれたらしい。そこで、色んなモンを押収してきてくれた。(ついでに、数人が薬物所持とかで捕まったらしい。)

「うーわ、頭から真っ二つ。」

押収された物の中に、泉谷が殺した女性の死体の写真があった。それも膨大な量の...。

「何か、泉谷の奴。最初はあんな殺され方して、可哀想なんて思いましたけど、これ見たら、因果応報って奴っすね。」

「だな。」

しかし、ここまで被害者が多いと、容疑者が絞り込めたもんじゃない。

「吐いてきます...オエッ...」

「おう、気ぃ付けろよ。」

「うい...ウッ...」

「糞...どうしたらッ...」


トゥッ...トゥルルルル...ブルンッ...

車のエンジンを付ける。

「...」

本当はあまり車の運転は好きじゃないし、得意でもない。

「こっから、どう動くんだろうな...?」

でも雑音ノイズわずらわしい公共交通機関も別に好きではない。

グレーな今の気持ちは、煙草メビウスが晴らしてくれるだろう。

「あ...」

懐にあったのは空き箱だけだった。そうだ、もう昼頃には全て吸い尽くしたんだった。

「コンビニ、寄ろ...」

窓を開けて、近くのゴミ箱に狙いを定める。右手で軽く投げられたソイツは、弧を描いて、ゴミ箱に進んでいった。

だが、

ガンッ

フチに当たって、手前に落ちていった。

何か悔しかった。

「ねえ...」

ボクは右足の爪先に力を入れた。

「ボクを救ってよ...大和太陽ヒーロー...」

いつもなら拾ってちゃんと入れる空き箱ソレを、右後輪で踏み潰した。


次の日から、俺達は現場周辺を駆け巡っていた。聞き込みもしたが、時間が深夜なモンだから、誰も応えられなかった。

「先輩、俺ちょっとあることしていいですか...?」

「え...?何だよ、あることって?」

近くの防犯カメラ映像を見ていた池本が急に立ち出す。

「まあ、待ってて下さい。」

いつもの倍、池本が凛々しく見えた。

「結果、出しますッ...。」

そういうと池本はどこかへ行ってしまった。

取り残された俺は、手元の泉谷の手にかかってしまった被害者達の情報を見る。

何人目かすらわからなくなり、睡魔が活動し始めた時、俺はある被害者の情報がなぜか目に止まった。

風間瑠花カザマルカ。当時、20歳。星方大学2年生。去年の11月13日に殺害される。泉元が遺した写真やメモから、風間瑠花は陵辱された後、近くの山中で生きたまま焼かれ、灰はゴミと一緒にゴミ袋に詰められていた。通行人が燃え残った部分を不審に思い、通報。燃え残った皮膚や遺留品から、身元が風間瑠花だと判明。また、風間の家は遺体発見2日後の11月16日に火事に遭っている。中から、2つの遺体が発見された。身元は母の奈緒美ナオミと弟の瑠輝ルキということがわかった。泉谷のメモによると、泉谷は奈緒美をレイプし、抵抗してきたため、殺害したらしい。また、母を助けようとした瑠輝も殺害したらしい、滅多刺しにして...。後に、出勤していたことにより巻き込まれなかった父・暁生アキオによると、瑠輝は瑠花の死に強いショックを受け、学校にすらいけなかったらしい。なお、暁生は、瑠花・瑠輝・奈緒美の葬式の後、仮住まいのアパートの中で首をくくって死んだ。警察は泉谷が怪しいと睨んだが、奴の根城には一切の証拠が無く、証拠不十分で逮捕には至れなかった。


池本はある防犯カメラに、犯行推定時刻の頃、現場付近を歩く一人の不審者に気付いた。だが、帽子で顔なんかは見えなかった。そこで、この時、偶然道を走っていた車のドライブレコーダーに映っているという可能性に賭けてみた。持ち主に事情を話して許可を貰って、確認してみた。一瞬で、粗いが、姿を捉えてる。後方カメラの方もだった。その後、ドライブレコーダーを預かり、解像度を上げると、不審者の顔が映っていた。


星方、20歳、焼死...

『大学は、星方大だけど、中退した...。』

『そう、泉谷の死体と同じ殺られ方。』

あーあッ...。最悪だぜ、ホント。


池本は不審者の顔に見覚えがあった。というか、会って間もなかった...


犯人は、

「「耶雲七波...。」」


「何か、急に寒くなってきたなー...」

煙草と一緒に買ったココアを飲みながら、ボクは違和感を覚えた。

誰もいない深夜の工業地帯の光は、少しボクにはまぶし過ぎる気がした。

何もしたくない時は、夜にこうやって適当な所で寛いでいた。何もしたくないなら、さっさと家に帰れば良いのに、なんてことはボク自身もわかっている。

でも、家にはいたくない。一人暮らしを始めて3年。あの家が嫌いな訳ではない。ただ、いることが嫌だった。

「ボクを助けに来てくれたのかな...」

違和感の正体を推察しながら、ココアを飲もうとする。

「ん?あー、あれ...?」

ようやく、一滴が這い出て、ベロに落ちてくれた。そういえば、缶が軽い。

グレーな日は、何時間経ってもグレーだ。「たのしいこと」や「いやなこと」をどんなに混ぜても、中和されちゃう。

天気も曇りグレーだ。でも、天気の中なら、ボクは曇りが好きかもしれない。

少なくとも、今のボクは晴れになることも、雷雨のように、深く沈むことは出来ない。

だったら、やっぱり、曇りが一番似合っている気がする。

薄いピンクに染まったこの髪の色も灰色にしたくなってきた。そんな気がする。

死装束に少し興味が湧いてきた。


「池本!」

「先輩!」

「犯人わかったぞ!」「犯人わかりましたよ!」

「「...え?」」

俺と池本は互いに過程を説明した。

「池本...お前、やる時はやるんだな。」

「伊達に刑事名乗ってないっすよ、エッヘン!」

「つーか、先輩、よく星方大学と年齢で耶雲七波に辿り着きましたね。記憶力、恐ろしいっす。」

「嗚呼。後、現場での発言さ。」

「え?あいつそんなに変なこと言ってましたっけ?」

「池本、耶雲に死体の状況を説明する時に、バラバラに切断されたことと、滅多刺しだったことしか、言ってなかったよな?」

「えぇ。」

「なのに耶雲は焼かれたことについても言っていた。死体が無い現場だけを見ても、流石にそれを見抜くことは不可能だ。」

「で、先輩。どうするんすか。」

「耶雲の狙いは、端から泉谷だ。もう罪を重ねることはない。だが、なぜ俺達に協力しようとしたのか、そこが気になる。」

「...」

「明日、ケリを付けよう。」

「...はい。」


「耶雲は何でここを選んだんでしょうね。」

「わからない。だが、今の俺達にはあいつから話を聞く以外に道はない。」

耶雲は都内のある大型商業施設を指名してきた。

「出張、何でも取調団ですね。」

「...そだな。」

「確か、22階のカフェですよね。」

「嗚呼。しかもテラスな。」


寒気が強くなるのを感じる。きっともう近くまで来ているんだ。

屋内なかの方が良かったかな。」

出来立てのミルクティーを頼りに、寒さを凌ぐ。


「よう、耶雲。」

「...」

「...」

「大久保さん...」

気色の悪い会話をしていると、我ながら思う。きって向こうもだろう。


もし今が8月でも、もう寒さを凌げない。

風邪を引きそうだ。

今日も空は灰色だ。でもボクは今、生まれ変われる。そんな気がなぜかする。

「単刀直入に言おう、泉谷良太を殺したな。」

席に着きながら、大久保が言う。


「珈琲2つ。」

池本が店員にオーダーする。

「証拠は?」


「現場付近の防犯カメラで、犯人と思わしき不審者の姿が確認された。」

「そこで、俺は偶然その瞬間通りかかった車のドラレコを調べました。すると、このような結果が...」

池本が懐から写真を取り出した。

そこにはボクの顔がはっきり映っていた。


「動機は?」

この決定的な証拠を前にしても、引き下がらないか。良いだろう。


「泉谷良太の凶行の被害者を調べたところ、ある人物に辿り着いた。」

今度は瑠花の写真が出てきた。

「風間瑠花。よく知ってるだろ?」

嗚呼、勿論モチロンだ。

「星方大の関係者に聞いたところ、あんたと風間家はとても親交が深かったらしいじゃないか。」

「つまり、動機は、風間家を皆殺しにした、泉谷への復讐。」

過去が脳裏でザワ付き始めた。

止めて...思い出したくない...。


「...」

流石に観念したのか、耶雲は下を俯いたまま黙っていた。

「三角...」

え...?今何て...

「三角だよ...今の...解答...」

顔を上げた耶雲には大粒の涙が浮かんでいた。


「三角...?」

大久保聖斗...貴方は大和太陽にはなれなかった。

所詮はボクのためだけど、ボクが自分で真実を語ったら、ボクの非が誰からも追求されない気がした。


「ボクは...あがないたいんだよ...」

贖い...?

「泉谷が手にかけた中に、野末喬霞ノズエキョウカっていた筈。覚えてる?」

野末喬霞...野末喬霞...思い出した。風間瑠花の少し前に殺害されていた...

俺は頷いた。

「そ。なら、良いんだ。喬霞はボクと瑠花と昔から仲が良くて、よく一緒に遊んでいた。学校こそ違えど、大学生になっても交流は続いていた。で、喬霞が殺される少し前...」


ボクは喬霞と夜の歓楽街にいた。ボクが20才になる前の予行だとか、喬霞は言ってたな。

最初は潜んでいた背徳感は、静かに増えていった。そして今まで、あまりそんなのを感じたことのないボクには効果が2倍だったろう。

カラオケやろ、って喬霞が言うから、お店に入った。ここからが、間違いだった。

中で、ガラの悪いのが2・3人いて、ボク達を見るなり、迫ってきたんだ。強気な喬霞が暴言をかますけど、全く通じてなくて。遂にアイツら暴力を使い始めたんだ。そこに、一人の男が現れたんだ。泉谷だった。泉谷は、暴漢達を圧倒していったんだ。今思えば、あんな猿芝居で引っ掛かってしまったのはボク自身でもよくわからないけど。

泉谷は、ほら、顔が良かったから、喬霞が乙女みたいに目を輝せちゃって。それを見た泉谷は、ボク達をよくわからない店に誘った。そこでボクは軽率なことに、喬霞に瑠花を呼ぶことを提案した。喬霞と泉谷は勿論OKで、瑠花も快諾してくれた。そりゃそうだ。ボクと喬霞っていう安心要素があったからね。

瑠花と謎の店で集合して、暫く経ったら、泉谷が特別な奴だの何だの言って、よかわからない飲み物を飲ませた。

ボクはあんまりそれの臭いが好きじゃないから、飲むのを躊躇ためらったんだ。

でも、喬霞はすぐに飲んだ。そしたら、急に様子がおかしくなったよ。多分、イケナい薬が入っスたんだろうね。

異変を覚えたボクは、すぐに声をかけた。それがいけなかったのかな。


「喬霞、喬霞...!どうしたの...!?」

「え~、ナニもないよ~」

「さ、七波ちゃんも飲んで飲んで。」

「え。嫌...。嫌...!」

「何でよー。ほら、喬霞ちゃんを見て御覧よ、楽しいそうじゃん?ね?」

「あは...はは...ひ...あはは...」

楽しい...?!狂ったの間違いでしょっ...!?

「さあさあ」

「喬霞...!しっかりして!」

「ったく、いいから、飲め...!」

「んぅぅ...うぅ...んぁぁぃぃ...!んぁがぁ...!」

「気持ちいいでちゅねー!」

泉谷の顔は悪魔そのものだった。

死んだと思った。だけど、その時。

バリッッン

「ぐわぁッ...!」

瑠花が空き瓶で泉谷を殴ったんだ。

「泉谷さんッ!」

「逃げるよ!七波...!」

「るぅ...かぁ...」

抵抗したけど、少し薬が入ったらしく、ボクはやばかった。

「七波...!しっかり...!」

その時、

「瑠花チャ~~ン!良いスイングだね~!ソフトでもやってた~?まあいい。生きて帰しはしないよおぉ...」

その時、救世主ヒーローが来たんだ。

「糞餓鬼共、何してんだ。コラ。」

店に偶然いた井手重先生だった。

井手重先生、何か武術極めてるらしくて、泉谷達を一掃したんだ。

「早く行きな。」

「はい。」

無事、ボクも井手重先生も逃げ出した。

でも、先生は一つミスを犯したんだ。

倒れた暴漢の下敷きになってた喬霞に気付かなかったんだ。

起きた泉谷達は、全てを空になった喬霞にぶつけた。

そして、あいつら、卑怯なことに、井手重先生に敵わないのは分かってたんだ。だから、狙いをボクを襲うのを邪魔した瑠花にしたんだ。

瑠花は、大学の帰りにボクと別れた後、泉谷達に攫われた。


「うっ...うっく...くっ...ボクが...ボクッ...っく...がッ、瑠花ッ...をッ...呼ぼう...くっ...なんで...っく...提案じぢゃっだ...がらッ。っく...。ボクがッ...泉谷ッ...にッ抵抗...でぎながっだ...っく...からッ...。ボクが...瑠ガをッ...いっく...一人ッにッ...じだからッ...!瑠花は...瑠ガはッ...うっ...あぁ...あ...あああああああ...」

「…」

聖斗は七波の話を黙って聞くしか出来なかった。

大和太陽は、まだ読んだことないから知らないが、きっと、真実で1人残らず、救うのだろう。

七波は救うどころか、巻き込んだ。

井手重一茂も、全員は救えなかった。

しかし、俺はどの道、大和太陽になれたかはわからない。真実は、時に残酷だ。漫画みたいに何事も上手く包み込める訳じゃない。

恐らく、大和太陽は、永遠に幻の存在になる。

しかし、信じ続けることは悪ではない。

七波が俺の下に来た理由は、自分を救って欲しかったから。自分よりも早く全ての真実を知って、最適な道へ誘導して欲しかったから。

今回は俺が応えられなかった。俺はそう思うことにした。


その後、風間家の火事を聞き付けた七波は、暁生と紅蓮の前でただ呆然とするしかななかった。そして、暁生が自ら命を絶つと、大学を辞めて、彬栄社に就職。七波だって既に泉谷の仕業ということくらい、わかっていた。だが、何をしてくるかわからない泉谷にあと一歩、足がすくんだ。

しかし、野末喬霞や風間家のことを糧に、七波は覚悟を決めた。

風間瑠花の命日に泉谷を葬るため、その少し前に偶然を装い泉谷と接触。七波のことに気付いた泉谷に、わざと降伏した。


「泉谷との日々は、最悪だった。仕事が終わったボクはその足で、泉谷の所に行って、いいように使われた。思い出しただけでも、吐き気がしそうだよ。瑠花や喬霞達にあんなことした奴に、尽くしてんだから。」

「僕は決めたよ。殺るなら、瑠花の命日にしようって、だから、一年待った。その間、あそこ通ってると、色んな見たくないモン見ちゃったよ。ボクの顔に血飛沫が飛んで来た時は絶句したよね。」


で、ボクはあの日、泉谷をあそこに誘い出したよ。適当なこと言って。

「おいおい、本当にこんなところにその女いんのかよ。」

「そう言ってるから、しゃーないでしょ。」

「おい、敬語は?」

「...うっす。」

「チッ...」

そして、あの部屋に入ると、ボクはアイツの首に毒針を刺した。

「なッ...おマッ...」

「ずーっと、この瞬間待ってたよ...。」

そこから、自分でも何やってんだと思いながら、只管ひたすらアイツを切り裂いた。


「これで終わりだけど、質問は?」

「...いや、何も。」

「そう...」

「じゃ、逮捕して。」

「...わかった。」


手錠はかけなかった。何故かは知らない。

「この雨じゃ、暫く喫茶店ここで雨宿りっすね。」

「そうだな。」

カリンに七波を任せた。鷺姫は何をするかわからないから、止めておいた。

「なぁ池本、真実って何だ?」

「何すか、哲学の話っすか?俺、そういうの嫌いっすよ。」

池本なんかに聞いたのが、間違いだった。

そう思いながら、冷えた珈琲を只管に見つめた。

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何故貴方は其の人を殺しましたか 原田案山子 @hrdream

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