理由

辻 褄

外の景色

 家からはしょっぱい味がする。海水と汗に似ている味がする。海からはそれほど近くないだろうし、車が通る音で毎晩起こされるほど都会に家があるのだろう。

 

 家からは何とも言えない臭いがする。生ごみと金属の臭いがする。外を見ると、通行人がこの家を避けているように見える。

 

 私は、外を見たことはあるが出たことはない。外に出るのを止められていたから。そのせいで、外に出るのが不安に感じる。


 外には、背丈の高い建物や黒い煙を出している車がよく見える。だけど、小説でよく見る、青い空なんて一度も見たことがない。

 私の親は、病院に毎週行き、叔父母は、毎日宗教染みた服装で外に出ている。外に出る度、「外に出ると悪魔が取り付いて殺されちゃうよ。家にいたら神が見守ってくれる」と訳の分からないことを毎回言い聞かされ、私は家に閉じ込められる。



 親も祖父母もいないから、今日こそは、外に出てみようと思う。親たちの車が来ていないか窓から確認する。ドアを開けると、見ていた景色はなくただの部屋で、景色はハリボテで、外から聞こえた音は、ラジカセから流れる録音した外の音だった。その部屋には、何もないし、汗の味と金属の臭いだけがあった。そこで私は、携帯を取り出し親に電話をかけた。すると、着信音が部屋の外から聞こえてきたのだ。リビングに置いてあったはさみを使って、部屋の壁紙を剥がす。


 そこには、曇った空、ゴミで汚くなった砂、黒く濁った海水。さらには、動物の死骸やその死骸からあふれ出る虫が、海中に広がって飛びまわていた。肝心の親たちはどこにもいなかった。私の謎であった、家からしょっぱい味がするのと、なんとも言えない臭いは、この海が原因だと判明した。また、私の家が、海に建てられた家だと初めて知った。周りの人が私を止めていたのも、この光景から理解した。


 勇気を出さずに、無意識に一歩外に出た。そのまま、無意識に目に入ったクジラの死骸の方に向かう。そのクジラは死んだのが最近のように見え、虫も他の死骸と比べて飛んでなかった。肌は綺麗で、酷い外傷はなかったが、口の中にはビニール袋やプラスチックごみが張り付いていた。

他には、何かの骨が喉に刺さっていたり、口の奥には赤い水が溜まっていた。赤い水の中には、人骨らしきものが浮かんでいた。


 死骸の周辺を探索すると、身に覚えがあるスマホが転がっていた。念のため、携帯で電話をかけると、そのスマホからさっきかけた時と同じ着信音が流れた。

 何で死んだかは分からないが、親たちが死んだのを確信した。悲しくは無かったし、逆に嬉しかった。外がこんな酷い有様で私を守るために家から出さなかったのは分かるが、生まれてから一度も外から出してくれなかったのだから。


 一旦家に入り、工具箱を探す。ハンマーを取り出し、元の場所に戻り、親と祖父母だと思われる骨をかき集める。それを粉々にして、半分はコップに注いだ水に入れかき混ぜて飲んだ。あとの半分はゴミ箱に捨てた。あの人たちが使っていたスマホもかき集め、すべてのデータを削除してハンマーで潰した。


 他の動物の死骸やゴミは放置して、海側の家の壁を破壊して家の中にも虫が侵食するようにしたが、家を燃やしたくなったので、作業が終えて家を出る準備を進めた。家のすべてのお金とお金になりそうなやつ、必要そうなものは、全てバックに入れた。


最後にガソリンを家中に巻き、去り際にライターを家に向かって投げた。


火山のようにメラメラと燃え、空に向かって煙が出ていた。


行く当てもないが、警察が来る前に燃えている家をバックに歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理由 辻 褄 @tuji_tuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ