昼餐はイベントを呼ぶ

 それから、午前中は課題考査が行われた。課題を真面目にやっていれば難なく高得点が取れるだろうといった内容であった。



 そうして時が経つのも早く、既に昼食時である。


 この学園には購買や食堂も充実しているが、もちろん自分で弁当等を持参してもよい。そして、僕は弁当を持ってきている。購買や食堂を利用するとなると、どうしても待ち時間が生じてしまう。勿論、自由意思の結果としてその待ち時間を消耗する行為は全く愚かしい行為ではないと思うのだが、僕の脳内功利計算では自分で弁当を作って持ってくる方がよいという結論が下されたのだ。あと、料理は普通に好きなので、それも踏まえた上での答えである。


「瑛人もお弁当?」


 と、左隣の席から話しかけてきた佳菜の手には、弁当箱が握られているどうやら佳菜も弁当派の人間らしい。僕は「うん」と返事をしながら、弁当箱をカバンの中から取り出す。


「はるのんも?」


 ついで、笹野にも確認をとっている。「はるのん」というのは笹野陽乃のことらしい。


「はい。お二人もお弁当ということでしたら、良ければご一緒しませんか?」


 ここでまさかの両手に花のお弁当イベント(ただし2人とも変人)発生である。決して駄洒落とか韻とかは意識していない。


「僕は問題ないぞ」

「佳菜も」


 と、そのイベントに着手されていた。



「ふぅー……。購買戦争きちぃー……。って、島原!?」


 ここで購買戦争にもまれてきたらしい須藤が教室に戻ってきて、そして狼狽の声を喧しくあげていた。


「どうしてだよ島原? 何でお前がこんなイベントに参加してんだ!?」


 そして、イベントは男の嫉妬イベントという定番イベントへと昇華していく。確かに、2人とも見かけは美少女に分類される面持ちであるため、傍から見れば羨ましい限りであろう。今は人が購買に流れていることもあって教室はあまり飽和していないが、それでも男共の嫉妬の視線が突き刺さるのを感じる。


「何でかって……。まあ、主人公だからかな?」

「何じゃそら」


 主人公補正最高なり。


「だったら、お前も参加すればいいじゃないか。僕は歓迎するぞ」


 別に、僕はこのイベントを独占しようだとは全く思わない。それに、人は多ければ多いほど楽しいだろう。……多すぎるのも勘弁だが。


「え、いいのか? 笹野と谷崎もいいか?」

「はい。私は須藤さんを歓迎しますよ」


 笹野は歓迎し、佳菜は無言でうなずいた。


「それで、購買はどうだった?」

「あぁ。熾烈な争いだった。でもほら、焼きそばパンゲットだぜ」


 ボールの中に収納されるポケットサイズのモンスターみたいに、須藤は戦利品を掲げている。


 購買戦争。それは、学園におけるデイリーイベントの1つである。体力・知力・時の運を全て駆使して好みのパンを確保できるかという、人智を超えた仁義なき争いなのだ。


「まあでも、立地的には一番近いし、有利なんじゃないか?」


 最も大きな要素を占めるのが、この時の運である。単純に教室と購買との距離が近ければ近いほど有利となるのだ。あるいは、移動教室というウィークリーイベントや職員室呼び出しというエマージェンシーイベントが発生などしようものなら、他の要素では取り返しがつかなくなるほど不利になってしまうのだ。


「ん? 一番近くはないんじゃないか?」


 ここで、須藤が謎に首をかしげる。……距離的には一番近いと思うんだけどなぁ。


「確かに2階だからそこはまだ有利だけど、廊下の一番奥だぞ。階段まで結構距離あるぞ?」


 ……合点。


「僕が話してるのは道のりじゃなくて直線距離の話だ」


 その違いは小学校でもやる。このいずれを採用するかによって、速さの式の覚え方が「みはじ」となるか「はじき」となるかが変わってくるのだ。ちなみに、「木の下の禿げ爺」なんて派生形も存在する。


「つまり、島原さんは窓から飛び降りればいいとおっしゃってるのですね?」

「できるかぁー!!」


 まさかの大ツッコミであった。


「いやいや、2階なら余裕だろ。3階なら少し危ないけど」

「2階でも危ないだろ!」

「まあ下に人がいるかの確認は必須だけど、授業終了直後だったら人も少ないだろうし……」

「そういう問題じゃねぇー!!」


 ここでまた大ツッコミを食らってしまった。


「じゃあそこまで言うんだったらお前明日弁当持ってくんな! そんでオレの分の焼きそばパンもセットで買ってこい!」


 今度はまさかの逆ギレである。


「あ、じゃあ佳菜の分もよろしく」


 そして、何故か佳菜にまで催促されてしまったのだ。これじゃあ従者でもなくパシリではないか。


「まあ別に構わんけど、ちゃんとお金は請求するからな」


 かくして、僕は自由意思に基づいて契約を締結してしまった。ただ、お金の話は確実に。僕とて、金銭的余裕はさしてないのだ。

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