第12話 忠犬ポチ公

 クレアさんの店まで戻ってきた。みんなは店の奥の部屋に入れてもらったようだ。


「悪いなクレアさん。ここでみんなを待たせてもらって」


「かまいやしないよ。それよりちゃんと買取りしてもらったのかい?」


「ああバッチリだよ。あ、そうだ。これ、お世話になったお礼に。食べてもいいし売ってもいいし好きにしてくれ」


 俺はゴールドリンゴ50個ほどをクレアさんに渡した。


「ちょっと!こんなの受け取れないよ」


 遠慮するクレアさんだが、これはゴルドフさんを紹介してくれたお礼と、みんなをここで待たせてくれたお礼、そしてなにより店内で勝手に飲食してた事を誤魔化すための俺の作戦なのだ。受け取らないならここで全部燃やすと言って受け取ってもらった。ふふふ。我、策士なり。


「おかえりルティー。無事買取りできたみたいね」


「おかえりなさいルティーさん!」


「ルティーおかえりー!」


 店の奥からシーナ達が出てきた。


「おう、みんなただいま。バッチリ買取りできたぞー。あ、そうだシーナ。街に入る時に借りた金、今返しちゃうな」


 そう言って俺はシーナに金貨が100枚入った袋を渡した。1000倍返し、いや、1万倍返しだ!


「いや返さなくていいって何度も言って…って何この金貨!」


「なにって、ただの金貨100枚だぞ?」


「受け取れるわけないでしょ!もう!」


 断られてしまった。その後も結構粘ったのだが、シーナの意思は固く、俺の完全敗北に終わった。くそっ、この借りはシーナを幸せにすることで返そう。


「じゃあ金が手に入った事だし、さっそく街を見て回るか!」


 俺たちはクレアさんのお店でいくつか品物を買ってから、再度お礼を言ってから店を出た。


「じゃあまず種を買いに行きたいんだが、みんなはどこか行きたいとこあるか?」


「私は特にないわね。日用品を買っておきたいぐらいかしら」


「私は本屋さんに寄ってみたいです!」


「わたしお洋服屋さん行きたーい!」


「よし、じゃあ順番に回っていこうな。金は全部俺が出すから欲しいものがあったら遠慮なく言うように。我慢は禁止だぞ!」



 そういう訳で、俺たち4人はノーゼンの街観光を楽しんでから、サリアたちのもとに帰ったのだった。



「「「「ただいまー」」」」


「おかえりみんな!ルティー!このお家ほんと凄いね!何時間でも見ていられるよ!」


「ルティー君、あのお肉もうないの?」


 オシャレハウスに帰ってくると、サリアとマリアが出迎えてくれた。マリア、君まだ食うのかよ。結構な量置いていったはずなんだが。とんでもない胃袋だな。


 さて、買い物も終えたことだし早速我が家へ出発と行きたいところなんだが、今日はもう日が落ちるので、出発は明日にしようと思う。彼女たちも今日は盗賊に襲われたり、街へ行ったりと色々あったので疲れてるだろうし、今日はしっかり体を休ませて欲しい。


 この日の夜は、みんなに俺が必死に生き抜いたあの激動の2週間の話をしたり、サリアとマリアのために街でのあれこれを話したり、みんなでワイワイ楽しく過ごした。さすがに金貨2万3000枚を手にした話をした時はみんな固まってたけどね。


 そんなこんなでリビングで談笑していると、だんだんみんなウトウトし始めたので、みんなにクリーンをかけてから寝室に案内して、ベッドを5つ並べてあげた。みんな「ふかふか〜」とか言いながら、すぐに夢の世界に旅立って行った。最高に可愛かったです!


 みんなが寝たことを確認すると、俺はリビングに戻ってソファの上で寝た。なんで一緒に寝ないのかって?なぜなら、あそこだと一切寝れる気がしないからだ!急性モッコリ中毒で死に至る気がする。


 では、おやすみ。




 ー朝7時ー


「ル………さん!ル…ィーさん!ルティーさん起きてくださーい!朝ですよー!」


 俺を呼ぶ声で目を覚ますと、目の間にはニコニコ笑顔のサーナが居た。ああ。可愛い女の子に起こしてもらうとは!なんて贅沢な目覚めなのでしょう!


「おはようサーナ、それにみんなも」


 リビングには既にみんなが集まっていた。どうやら俺が1番寝坊助だったようだ。


 それからみんなで朝ごはんを食べ、出発の準備を整えている間に俺はふと思った。


 そういえばどうやって俺ん家まで行こう。俺はここまではぴょんぴょん大作戦で来たけど、さすがに彼女たちにあれをやらせるのはどうかと思うんだ。だとすると街に行った時に使った馬車か?でも森の中は木が邪魔で馬車が通れないんだよなぁ。うーん、どうすっかなぁ。ああ、邪魔なら消せばいいのか!なるほど!さすが天才の発想はひと味もふた味も違うぜ!



 そういう訳で、今後の作戦はこうだ。


 まず俺が1人で、ここからハーレムタワー目掛けて一直線の道を作りながら我が家に向かう。道が完成したらここまで戻ってきて、彼女たちを馬車に乗せて俺がひとっ走り、といった感じだ。


 俺がぴょんぴょんバッタ大作戦でこの村に来たときは確か片道4時間ほどかかったけど、道が完成すればもう少し短い時間で来れるようになるだろう。なにせぴょんぴょんバッタ大作戦が弧を描きながらの移動に対して、道での移動は2点を結んだ最短距離を走ることが出来るからな。まあぴょんぴょん大作戦の方が楽なのは確かだが。


 ここからハーレムタワーまでの距離はかなりあるので、道を完成させるのは凄く大変だろうが、ノーゼンには定期的に行くつもりだし、道があった方が今後も便利だろうから頑張って作るとする。ちなみにただ邪魔な木を退かすだけでも良いのだが、せっかくなのでコンクリート舗装を施してしまおうと思う。


「みんなちょっと聞いてくれ。さっそく俺ん家に案内してあげようと思ったんだが、ちょっとやらなきゃいけない事ができた。今からみんなが乗る馬車が通れるように、ここから俺ん家までの道を作ってくるから、しばらくここで待っててくれるか?」


「ええ、かまわないわよ。それよりモールス大森林に道なんてどうやって作るのかしら?」


 ふむ。いい質問だシーナくん。今回俺がどうやって道を作ろうか考えているかと言うと、まず土魔法で深さ1メートル、幅10メートルの穴を掘りながら、採取スキルで木を伐採していく。これを走りながら行い、そのまま穴を掘り進めながら俺ん家まで向かう。向こうに着いたら、できた穴に最大出力で水とセメントを流し込んで完成、といった感じである。


 今回使用するスキルたちは、どれもLv10になってMP効率がかなり良いのと、ボーナス兄貴によってすぐにMPは回復するので、MP切れの心配はない。うん。全然いけそうだな。


「大丈夫だシーナ。このS級道路工事作業員(今命名)に全て任せとけ!」


 キリッとドヤ顔を決めてやると、みんなから拍手大喝采の歓声を浴びた。若干1名ため息をついていたが気にしない。それにしても俺はなんでもS級と付けとけばかっこいいと思ってる節があるな。まあ本気でかっこいいと思ってるので今後も命名していく予定だけどね!


「じゃあちょっくら行ってくるわ!夕暮れ前には帰ってくるつもりだからそれまでよろしくな」


 俺はみんなの昼飯と万が一遅くなった時のための夕飯をテーブルに並べてから家を出た。ちなみに、別でマリア専用のでっかいテーブルを作ってそこにレッドボアの肉をテーブルいっぱいに置いておいた。



 モールス大森林の前まで来たので、早速道路工事を開始したいと思います!


「そんじゃ、土魔法さん、名人、よろしくお願いしゃーす!ていやー!あ、ちょっと勢いつけすぎた!」


 ズドドドドドドドド

 スパッ


 おお!土魔法でも木を伐採できるようだ。土魔法さんと名人が手を組んだようだな。これなら穴を掘るついでに一緒に木も切れるから作業スピードが一段と早くなるぞ!そしてちゃんとアイテムボックスで木を回収するのも忘れない。




 それから2時間半ほど穴を掘り進めたところで一旦休憩を取ることにした。


「ふう。だいぶ進んだな。今ちょうど半分くらいか?」


 前方にはだいぶ大きく見えてきたハーレムタワー。土魔法さんと名人が手を組んだことで、思ってたよりだいぶ早く作業が進んでいる。ああ今頃みんな何してるかなあ。「ルティーのかっこいい所100選!」とか「ルティーの好きな仕草ランキング!」とかやっててくれないかな。


 そんな事を考えながら、休憩を終えてまた道路工事を再開しようとした時、近くにモンスターの気配を感じた。


 気配を感じたところまで行ってみると、体長3メートルの巨大な赤いイノシシ、レッドボアがいた。そしてそのレッドボアの先には、


「犬?」


 チワワくらいのサイズの子犬が今にもレッドボアに食べられそうになっていた。動物愛護の精神を持ち合わせる俺には許せない状況だ。レッドボアの野郎、俺が月にかわっておしおきしてやる。


 俺はレッドボアに近づくと、奴の首を真っ二つに切り落とした。ふふふ。今やもうこのボーンソード・真に切れぬものなど無いのだ!


 レッドボアをアイテムボックスにしまって、襲われていた子犬の元へ向かう。


「うわ、こりゃひでえな」


 身体中傷だらけで、それにあばら骨が見えるほどやせ細ってしまっている。恐らく何日も何も食べていないんだろう。子犬はぐったりとしていて、今にも息絶えてしまいそうだ。だが安心しろ、ホワイトジャックが今お前を助けてやるからな。そんじゃ早速、


「あっちゃんぶりけー!」


 俺は子犬に回復魔法をかけてから、レッドボアのステーキを細かく刻んで皿によそってあげた。回復魔法で傷が癒えた子犬は、ステーキに気づくとすごい勢いで食べ始めた。うん、いい食べっぷりだ。しっかり食べろよ!



「わん!」


 それから皿を空にした子犬が俺に何かをアピールしている。なんだ、まだ足りないってか?よしわかった。俺は追加の肉を刻んでやると、子犬はまた勢いよく食べ始めた。


 これを20回ほど繰り返すと、子犬は凄く元気になった。いやー良かった良かった。そして今俺の目の前には体長3メートルほどの銀色に輝く毛並みのデカ犬がいる。


「いや誰だお前」


「わん!」


 いやわかってる。こいつがあの子犬だって事は肉をあげてた俺が1番よく知っている。食べる毎にどんどん身体がデカくなるからおかしいなー、とは思っていたんだけど、あまりに腹が減っていそうだったから気にせず肉をあげ続けていた。そしたらこうなった。まあでっかくなっても全然可愛いまんまだから何も問題は無い。


「お前、1人なのか?」


「わん!」


「というか俺の言葉がわかるのか?」


「わん!」


「おすわり」


「わふっ」


「おて」


「わふっ」


「お前天才だな!」


「わん!」


 おお、完璧だ。こいつは稀に見る天才犬のようだ。犬の芸大会とか出たらぶっちぎりで優勝できるレベル。よし決めた。こいつは俺が飼おう。


「行くとこないなら俺と来るか?毎日あの肉食わせてやるぞ?」


「わん!わん!」


 よし、交渉妥結だ。早速名前を付けてやるか。


「ところでお前オスか?メスか?オスならおすわり、メスならおてだ」


「わふっ」


 そうかオスか。だったらかっこいい名前を付けてやらんとな。銀色の毛だからギンタ?うーん、なんか違うな。ギン助、ギンギンタロー、ギンギン丸、それから…


「よし、じゃあ今日からお前はポチだ」


「わん!」


 いや銀はどこ行ったんだって?すまんどっか行った。


「よろしくな、ポチ。俺はルティーってんだ。あそこに高い塔が見えるだろ?今あそこまで道を作ってんだ。とりあえず俺の後ろを着いてきてくれるか?」


「わん!」


 ふむ。素直でいいやつだ。ちゃんと元気になってくれてよかったぜ。


 という訳で、ポチを仲間にした俺はまた道路工事を再開するのだった。



「着いたぞポチ!これがハーレムタワーだ!これ俺が作ったんだぜ?凄いだろ!」


「わん!」


 それから2時間半後、無事に俺たちはハーレムタワーの下まで辿り着いた。ここまでちょくちょくモンスターには遭遇したが、全部土魔法で石をぶつけて瞬殺しておいた。ポチがなんだか戦いたそうにしていたが、ポチはまだ病み上がりだから戦闘は遠慮してもらった。


 それじゃあ早速、完成した穴に水とセメントを流し込んでいこうか。


「よいしょー!」


 ドババババババババ


 過去最大出力で注ぎ込んでいくと、30分くらいで穴が満タンになった。


「よーし完了。ポチ、ちょっと道が固まるまで待っててな。ほれ、肉をやろう。そうだ、リンゴも食うか?」


「わん!」


 コンクリートが固まるまでポチに肉をあげたり、ゴールドリンゴをあげたりして待った。その間、ポチに色々質問しながら話を聞いたところ、どうやらポチは群れの中でいじめられていたらしい。原因は自分だけ毛の色が違かったからだと思っているようだ。そして1週間ほど前に、ついに群れから追い出されてしまい、様々なモンスターと戦いながら1人で森をさまよっていたらしい。うう。なんて辛い日々を送っていたんだポチよ。俺はお前を助けられてほんとに良かったよ。


 ちなみに、体がこんなに大きくなったのは自分でもびっくりしているようだ。それに今ならあのレッドボアにも負けないくらい力がみなぎっているそうで、次会ったら絶対に倒してやると意気込んでいた。うんうん、わかるぞポチ。俺もマッスルラビットに敗れた時はめちゃくちゃ悔しかった。男としてやっぱり負けられないよな。絶対にリベンジしてやろうな!


 だがすまんポチ、あいつは俺がすでに殺ってしまった。まあ似たような奴はいっぱい居るからそいつらに挑もうな。


 そんな事をポチと話していたら流し込んだコンクリートがしっかり固まったようなので、みんなの元に帰ろうと思う。


 待っててねみんな!

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