第11話 ゴルドフさん

 シーナ、サーナ、リリーと共にノーゼンの街の近くまで来た。ここまでの移動手段は、親分さんに頼んで馬車を作ってもらって、そこに3人を乗せて走った。俺が。だって馬なんて居ないもーん。まあ重力魔法で馬車も3人も軽くしてあるので全く疲れなかったけどね。


「そういえばシーナ、俺身分証とか持ってないけど街には入れるのか?」


「問題ないわよ。検問をちゃんと受ければ普通に入れるわ」


 おお、良かった良かった。これで無事に街へ入れそうだな。さて、いよいよ街へ入場だ!



「それじゃあ4人で銅貨35枚だ。ひとりずつ払うか?」


「いや私がまとめて払うわ。はい、どうぞ銅貨35枚よ」


 なにぃいい!通行料がかかるだと?くそっ、女の子にお金を出させてしまった!ハーレム王として一生の恥だ。この借りは1000倍以上にして返そう。


 どうやら街へ入るのに1人銅貨10枚が必要らしい。身分証を持っていると銅貨5枚で済むようだ。シーナが商人ギルドの身分証を持っていたので、4人で銅貨35枚だった。


「悪いなシーナ、金が入ったらちゃんと返すよ」


「気にしないでいいわよ。私たちにはルティーに返しきれないほどの恩があるんだから」


 そんなことを言ってくれるが、これは俺のプライドの問題なのだ。何がなんでもシーナには金を返そう。そう、1000倍返しだ!


 それしてもノーゼンの街の中は相当人で賑わっているな。さすがマール王国有数の商業都市なだけある。サーナとリリーもこの街に入るのは初めてらしく、賑やかな街の風景に目を輝かせている。


「そういえばルティーさん、この街には何を買いに来たんですか?」


「そうだな。まあ色々見て回りたいんだけど、1番の目的は畑に植える種だな」


 そう、俺が買いたいのは種。マッスルモンキーの集落で拾った種は7種類。トマト、キャベツ、レタス、ニンジン、ジャガイモ、キュウリの野菜6種とリンゴだ。これだけでも生活はできるが、もっと種類が欲しい。だから今俺が持ってない野菜、果物や穀物の種があったら片っ端から買っていこうと思う。でもその前に俺、金ないんだよね。


「シーナ、ちょっと俺が持ってるものを売ってみたいんだけど、どこに行けばいいんだ?」


「そうねえ。ちなみにどんなものを売るつもりなの?」


「そうだな。割となんでもあるぞ?モンスターの肉とか素材が2万体分に、野菜6種がそれぞれ3万個、リンゴに関しては10万個はあるな。あとは俺が作った皿が5000枚に、あとは…」


「も、もういいわ!十分よ!あなたが何でも持ってるのはわかったから!」


「さすがルティーさんです!」


「ルティーすごーい!かっこいいー!」


 ふっふっふ!可愛い女の子に褒められるというのは非常に気持ちがいいものだな。採取スキル名人のおかけで、アイテムボックス内の品々の数がだいぶ偉いことになっている。さすが名人といったところだ。それより何を売ろうか。ふむ。こういう時は1番多い物を売るべきだな。


「リンゴが多いからリンゴを売ることにするよ」


「わかったわ。じゃああそこのお店に行きましょう?私がいつも野菜を買い取ってもらっているところなの」


 というわけで、俺たち4人はシーナ御用達のお店に向かった。


「あらシーナちゃん、今日も野菜を持ってきてくれたのかい?」


「こんにちはクレアさん。ううん、今日は違うのよ。こっちのルティーがリンゴを売りたいらしいんだけど買い取って頂けるかしら?」


 店に入ると、給食のおばちゃんという言葉をそのまま擬人化したようなおばちゃんが声をかけてきた。


「あら坊や、見ない顔だねえ。あたしゃクレアっていうんだ。なに、リンゴを売りたいんだって?うちのお店でもリンゴは扱っているから買取り可能だよ。物の品質によるけど大体3つで銅貨1枚ってところだね。どれ、まずは坊やの持ってるリンゴを見せてちょうだい」


「ああわかった。はい、これ」


 俺はアイテムボックスからリンゴを1つ取り出してクレアさんに渡した。


「ちょっと坊や!今どっから出したの!ってこれゴールドリンゴじゃないの!こんなのうちじゃ買い取れないよ!ちょっと待ってな!今ゴルドフさんを呼んできてあげるから」


 そう言ってクレアさんは店の外に走って行った。


「なんだったんだ?」


「リ、リンゴってゴールドリンゴの事だったのね…いいルティー?リンゴっていうのはね、あそこにある赤いものを言うの」


 ふむ。


「あなたが出したのはゴールドリンゴ。市場に出れば1つ金貨1枚で取引されるわ」


「へ?」


 なにぃいい!確かに普通のリンゴより美味いとは思ってたけど、このリンゴにそんな価値があるとは。金貨1枚ってことは10万円?リンゴ1つに10万円払うとかどこの貴族だよ!ああ、貴族か。貴族って金持ってるしな。貴族からしたら金貨1枚なんて息をするように使いそうだもんな。まあこのリンゴが凄いってのはわかったけど、なにしろまだ10万個以上あるんだ。そんなに大事にするもんじゃないだろう。


「すげえんだな、このリンゴ。食うか?」


「いいわよ!私の話聞いてた?」


「いただきます!んー!とても美味しいです!」


「食べるー!わー!すごくおいしー!幸せー!」


 ゴールドリンゴを切って皿によそってやると、サーナとリリーがすぐさま手を伸ばした。シーナは最初は断ったが、2人が遠慮なく食べているのを見て、結局シーナも幸せそうな顔をして食べていた。うんうん。女の子は遠慮なんてするもんじゃないんだ。サーナとリリーはもう俺に遠慮はしなくなった様だが、シーナはちょっとまだ慣れないようだな。彼女たちはもう俺のハーレム王国の国民なのだ。国民は王様にわがままを言うもんだ。シーナも早くこの2人を見習って欲しいものだ。


 そんなことを思いながら4人でゴールドリンゴを食べていると、クレアさんが戻ってきた。


「ゴルドフさん、この坊やだよ!ってゴールドリンゴ食べてるじゃないの!」


 そういえば人の店の中で勝手に食ってたな。さすがにマナーがなってなかったな。めんごめんご。お詫びに後でゴールドリンゴを渡そう。


 クレアさんの後ろにいる40代くらいのおじさんがどうやらゴルドフさんという人らしい。すらっとした体型に、上質そうな服、そして整った髭。まさにイケおじ、といった容姿だ。


「あなたがクレアさんの言っていたゴールドリンゴを売りたいという方ですね?初めまして。私、ナーガ商会ノーゼン支部の番頭をしています、ゴルドフと申します。以後お見知りおきを。早速ですが、ゴールドリンゴを拝見させてもらってもよろしいですかな?」


「あーどもども!ルティーです。いいですよ。あ、せっかくなんで食べてみます?さっき切ったばかりの物があるんで。クレアさんもどうぞ」


「よろしいので?ではお言葉に甘えて」


「あらいいのかい?じゃああたしも頂くかね」


 お2人にもさっき切っておいたリンゴを渡し、実際に食べてもらったところ、2人とも食べた瞬間目を見開いて驚いていた。


「なんて品質の高いゴールドリンゴだ!市場に出回っている物の数倍の価値はあるだろう。このゴールドリンゴは一体どこで?」


「ああこれはね、自分で作ったんですよ。それより気に入っていただけました?出来たら買い取って欲しいんですけど」


「自分で…まあ詳しいことは聞かないでおきます。私にとってこのレベルのゴールドリンゴを扱える事が何より重要ですので。ええ、もちろん買い取らせていただきますよ。ちなみにおいくつほどお持ちで?」


「んっと、10万個くらい?」


「はっはっは。ルティー殿、冗談はよしてください。それで本当はいくつほどで?」


 んー。困ったなぁ。本当に10万個あるんだけどな。


「いや冗談じゃないですよ?まあ見せた方が早いですね。クレアさん、ちょっとこの辺使いますね」


 俺は広いスペースを見つけると、まずそこに広めの絨毯を敷いて、その上に大量のゴールドリンゴを積み上げていった。


「な、なんと…」


 まあこれでもスペースの問題で2000個くらいしか出せていないんだけど、俺が沢山持ってるっていうのは信じて貰えそうだ。


「どうです?信じて貰えました?」


「え、ええ。こんな大量のゴールドリンゴにも驚きましたが、まさかあの伝説のアイテムボックスをお持ちとは。ルティー殿、あなたは一体何者なんです?」


「ん、俺はただのハーレム王になる男ですけど?」


 すっごい微妙な顔をされたが、まあゴールドリンゴの件を信じて貰えたのでよかった。これでやっとお金が手に入りそうだ。それにしてもアイテムボックスはこの世界では凄く珍しいようだな。シーナ達には既にアイテムボックスの存在を伝えてあるが、その時は「ふーん。まあルティーだもんね」という反応だったからイマイチ凄いのかわからなかった。だがゴルドフさんの反応によって今、アイテムボックスが伝説のスキルだということが判明した。ふっふっふ。つまり俺はその伝説のアイテムボックスを持っている伝説の男というになるな!なにそれ超カッコイイじゃん!


「そ、それで買い取りの件なのですが、まずは1000個を買い取らせていただきたい。あまり多く市場に流してしまうと市場の混乱を招く恐れがあるので。大体一般的なゴールドリンゴの買取相場は1つ銀貨40枚といったところなのですが、このゴールドリンゴの品質だと間違いなく数倍の価格で取引されるでしょうから1つあたり金額1枚でどうでしょう」


「ふむ。まあよくわからんからそれでお願いします」


「ありがとうございます。まずは市場の様子を見てから、また再度追加の買取りを行いたいと思うのですが、ちなみにお住まいはどちらに?」


「んー、今はさすらいの旅人って感じですかね。近々家を構える予定だけど。まあここには定期的に来る予定だから、その都度ゴルドフさんのとこに顔を出すようにするよ」


「かしこまりました。では早速買取りの方進めさせて頂きたいのですが、今後の事も考えて私がいつも居るナーガ商会の建物に場所を移してもよろしいですかな?」


「ええ大丈夫ですよ。じゃあ悪いけどみんなちょっとここで待っててくれるか?」


「ええ、わかったわ」


「もちろんです!」


「待ってるねー!」


 3人に声をかけてから、俺とゴルドフさんはナーガ商会が所有する建物に向かうため、クレアさんの店を出た。



 それから10分ほど歩いた所にナーガ商会の建物があり、最上階の豪華な客室に案内された俺は、早速ゴールドリンゴ1000個の査定をお願いした。


「では、ゴールドリンゴ1000個で金貨1000枚になりますね。どれも素晴らしい品質のものばかりでした。ちなみに白金貨でのお渡しも出来ますがどうされますか?」


「いや俺にはアイテムボックスがあるから金貨で大丈夫です。あ、ちなみに他にも結構色んなものがあるんですけど、買い取ってもらえたりします?」


「ええもちろん。言い値で買いますよ」


「そうですか。じゃあこれとこれとこれと…」


 それから俺は野菜やまだ加工スキルレベルが7とか8あたりの時に作った皿とか絨毯をゴルドフさんに見てもらった。


「こ、これはなんて上質な野菜だ!そしてこの皿や絨毯、王宮で使われている物と同等のレベルと言ってもいい。一体これはどこで?まさかこれも…」


「あー、そうです。これも全部俺が作りました。ちなみに野菜はそれぞれ3万個ほど、皿とか絨毯なんかは5000枚程ありますよ。あ、それよりもうちょっと出来のいいやつもありますけど見ます?」


「ほ、本当にルティー殿は規格外でございますな。ええ、拝見させていただきます」


 なんか面白くなってきたので、加工Lv10で作った皿と絨毯を出してあげたら、なんだかゴルドフさんの様子がおかしい。なんか手プルプルしてるし。40代のイケおじが手プルプルしてるのシュールでめっちゃ面白いな。


「こ、こ、これは…まさに国宝級ではないですか!さすがにこれを市場に流すのは危険すぎます!買取りはできません!」


 あれ、買取り拒否されちゃった。お金には変えられない価値ってことなんだろうか。仕方ないので加工Lv9で作ったものを出したら、一般の市場には出さずナーガ商会独自の販売ルート限定で売りに出すと言われた。ちなみにLv9の皿が1枚金貨600枚、絨毯が金貨1500枚でそれぞれ10枚だけ買い取ってもらった。追加注文があった場合にまた買取りをお願いするそうだ。


「それでは合計で金貨2万3000枚の買取になります。さすがに全部金貨でお渡しは難しいので、白金貨200枚と金貨3000枚でお渡し致しますね。それとルティー殿は今後ナーガ商会の特別客人として対応させていただきますので、こちらのカードをお渡ししておきます。色々便利なので持っておいて損はないと思いますよ。それと今後はルティー殿は必ず私が対応しますので、くれぐれも他の人の前であの国宝級の品々は出さないようにお願いします」


「はーい」


「それでは今後とも宜しくお願い致します」


 俺はゴルドフさんからお金とカードを受け取ってアイテムボックスにしまうと、ほくほく顔で建物を出た。いやー売れた売れた!金貨2万3000枚って日本円でいくらだ?えーっと、23億円か。あははは!なんて事だ!1文無しの男が1時間足らずで大金持ちになってしまった!今なら服屋で「ここからここまでください」とか「ちょっとあの店買ってくる」とか言えそうな気がする。


「そんじゃ、シーナ達を迎えに行くかな!」


 こうして、無事にお金をゲットした俺は3人を迎えにクレアさんの店まで戻ったのだった。

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