第9話 大事件勃発
「こんな所で立ち話もなんだから、お家へ入りましょ、って言いたいところなんだけれど、見ての通りあいつらに全部燃やされちゃってね。お茶も出せなくてほんとにごめんね?」
元の接し方に戻ったシーナが暗い顔でそんな事を言ってきた。あのクソ盗賊共め!俺の可愛いシーナにこんな悲しい顔をさせるなんて絶対に許さん。まあ家については何も問題は無い。無ければ作ればいいんだし。
「いや全然大丈夫さ。それよりちょっとこの辺使っていいか?」
「ええ。全然いいけど、何するつもりなの?」
まあ見てろって。地獄の修行期間で加工スキルと土魔法がLv10になった今、普通の一軒家など10秒あれば建つ。今から作るのはちょっと広めのオシャレな一軒家。では、匠の技をとくとご覧あれ!
「けんちくかんけーとんとんとーんっ!」
ズドォオオン
はい、完成!オシャレハウスー!
「「「「「えええええええ!」」」」」
ふはは!どうだ。これがS級建築士(今つけた)の実力だ。ああ超気持ちいい!素晴らしいリアクションどうもありがとう。驚いてる顔もみんなとっても可愛くて凄く微笑ましかった。おじさん思わずモッコリしちゃった!間違えた。思わずホッコリしちゃった!
なに!同じ失敗は繰り返さないこの俺が2度もモッコリさせてしまっただと?信じられん。これは何かの病気に違いない。早急に回復魔法で治療せねば。
「じゃあ入ろうか!」
「「「「「……………」」」」」
さあ家に入ろうと思ったんだが、あれ?なんかみんなフリーズしてる。まさか時が止まったのか?俺はいつの間にか時魔法を取得していたようだ。ふむ。どうやって時間を動かせばいいんだろう。まあそのうち動き出すだろうし、それまで家の中で待ってるか。一応声はかけて置く。
「先行ってるからなー」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
おお、動き出した。なるほど、声をかけるのが時魔法の解除方法なのかもしれないな。シーナ達はスタスタとこちらに走ってくると、ピッタリと俺の後ろを着いてきた。あらま、なんとも可愛い。
今作ったオシャレハウスの1階にあるリビングは広めに作ってあるので、そこにみんなを案内した。ダイニングテーブルを囲うように椅子を全員分並べて、とりあえず座ってもらった。
「あたしこんなオシャレな家見たことない!一度でいいからこんな素敵なお家に入ってみたかったんだー!ほんとに夢みたい!」
そんな嬉しいことを言ってくれた青髪の女の子は確か、サリアだったな。
「そんなに気に入ったならサリアがここに住めばいいさ。他のみんなもこんな感じの家で良かったら直ぐに建てるぞ?まあ他にこんな家がいいって要望があったら言ってくれな」
「そ、そんなの無理だよ!こんな素敵な家、一体いくら払えば…」
「そうですよ!大体、ルティーさんには盗賊から助けてもらったお礼も、私達の身体を治してもらった治療代だってまだ払えていないんですから!」
「そもそもA級治療師の治療代だって、一般的な平民が10年必死に働いて払えるレベルなのに、彼らでも不可能な欠損の治療なんて到底私達じゃ…」
サリア、サーナ、シーナがそんなことを言っているが、安心してほしい。俺、ホワイトジャックは絶対に患者から金は取らないのだ!むしろお金をあげちゃうくらいだよ!今は一文無しだけど。
「まあまあ、そんな暗い顔するなって。盗賊を殺ったのも、みんなを治療したのも、この家を建てたのも、全部俺の気まぐれだ。俺が勝手にやった事だから金なんか取らないよ」
とちょっとカッコイイ事を言ってみたのだが、彼女たちはなかなか納得してくれず、挙句の果てには「私達を奴隷商に売って、そのお金を…」とか言い出したので無理矢理話を終わらせて逃げ切った。
それよりも彼女たちには、この世界についてとか、なんで盗賊に襲われていたのかとか山ほど聞きたいことがある。
だがその前に、まずはやらなければならない事がある。まず彼女たちの身に付けている服があまりにもボロボロすぎるので、親分さんに頼んで直してもらった。おそらく新品で買った時よりも更にいい品質になったと思う。なにせ国宝レベルになってるはずだからな。みんな大変喜んでくれたが、誰よりも喜んでいたのが、ピンク髪の女の子のリリーだった。確か身体を治してあげたときに、ぴょんぴょん跳んで喜んでた子だ。
「すごーい!わたしの服があっという間に生まれ変わっちゃったー!こんな綺麗な服生まれて初めて着たよー!ほんとにありがとー、ルティー!大好き!」
「ぐはっ」
リリーの不意打ちに俺は絶大なダメージを受けた。くっ、レベル83の俺の防御力を貫通するとは、なんという破壊力。
「どうしたのルティー?大丈夫ー?」
「あ、ああ。ちょっと持病のモッコリ病が出ただけだ。ほんとに大した事ないから心配するな。それよりリリーは服が好きなのか?」
「無理しちゃダメだよー?うん、そうなの!わたし昔からずっとお洋服屋さんを開くのが夢だったんだー!」
「そうなのか。じゃあちょっと後で俺に似合う服をデザインしてくれない?作るのは俺がやるからさ」
「うん!わかったー!ルティーに似合う服、頑張ってデザインしてみるねー!」
なんだこのホワホワした可愛い生き物は。俺はこの時、なんとしてでもリリーの夢を叶えてやろうと心に誓った。
みんなの服が生まれ変わったので、次は食事だな。長い間貧しい暮らしをしていたせいで、みんなの頬は少しこけてしまっている。せっかくの可愛さが非常にもったいない。絶対に何とかせねば。回復魔法は欠損や病気などは治せるけど、栄養不足に関しては守備範囲外だからな。というわけで、ここで食事を摂ろうと思う。ちょうど今お昼過ぎくらいだしな。
「なあなあ、みんなにはちょっと色々教えて欲しいことがあるんだけど、その前にお昼ご飯にしようぜ」
「もちろん、何でも聞いてもらって構わないわ。ルティーは私達の命の恩人だからね。でもね、あの、その、とても言いづらいのだけれど、実は食料庫も燃やされちゃって、今この村には食料が…」
シーナがまたもや暗い顔になってしまった。盗賊共、やはりお前たちはもっと苦しめてから息の根を止めるべきだった。くそ!俺がもっと早く駆けつけていれば!こんなに可愛い女の子がこんな暗い顔をしなきゃいけない世の中なんて絶対に間違っている。この子には笑顔が1番似合うのだ!
「シーナ、何も心配することは無いぞ。だってほら、食べ物はこんなに沢山あるんだぜ」
俺はアイテムボックスに入れておいた数々の料理をどんどんテーブルの上に並べて行った。もちろん全部料理スキルがLv10になってから作った超絶品料理だ。こういう事もあろうかとLv10になってからもひたすら料理を作ってはアイテムボックスに突っ込んでおいた。俺にはLv10以外の料理を女の子に食べさせるという選択肢はない。彼女たちには常に極上のものを食べて幸せになって頂きたいのだ。
「「「「「え?え?え?え?え?」」」」」
突然現れた数々の料理に混乱するシーナ達。ふふふ。すごく楽しい。
「い、一体どこからこんな豪華な料理を…もしかしてこれも全部ルティーが作ったの?」
「ああそうだぞ。みんな遠慮せず思う存分食べてくれよ!おかわりはいくらでもあるからな。具体的には今出てる分の5000倍くらい」
「ご、5000倍?は、はぁ。なんだかもうルティーの事でいちいち驚くのはやめた方がいい気がしてきたわ。心臓がいくつあっても足りないわ」
シーナが半分諦めたような顔でなにやら言っているが、それは困る。俺はみんなの驚いた顔も凄く好きなのだ。
「というより本当にいいの?本来なら私達がルティーをもてなさなきゃいけない側なのに」
「いいからいいから。言ったろ?ほんとにこんなのいくらでもあるんだって。それに美味しいものを沢山食べたら、みんなの可愛い笑顔が見れるだろ?俺には得しかない」
「「「「「か、可愛いって……えへへ」」」」」
俺の心からの本音を伝えるとみんなは頬をぽっと赤く染めて喜んでくれた。なんだその反応、可愛いすぎるじゃないか!持病のモッコリ病が発動したのは言うまでもない。
「ほら、早く食べないと片しちゃうぞ?」
「わ、わかったわ!有難くいただくわ!じゃあみんなも食べましょう?」
遠慮してなかなか食べようとしないので、少しイタズラしてみたらシーナが慌てて皆に指示を出した。俺も腹が減ってるし一緒に食べるとするかな。ではでは早速、
「「「「「「いただきます!」」」」」」
まずはこの厚切りに焼いたレッドボアのステーキ。こいつは体がデカい上になかなか強くて倒すまでに結構時間がかかった。まあその分、手にする経験値も肉も膨大なので、俺的には有難いモンスターだった。おっ。どうやらみんなもレッドボアのステーキから食べるようだな。
モグモグ。ゴクリ。
さて、みんなの反応はいかに。
「「「「「………………」」」」」
あれ、フリーズした。どうやらまた時魔法が発動してしまったみたいだ。まあ対処法はもう知っているから大丈夫だ。声をかければまた時間は動き出す。
そう思って声をかけようとしたその時、事件は起こった。
「美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!美味い!」
バグった。サリアが。
「あはははは!あはははは!気持ちいい!気持ちいいよお!うっひっひ!うっひっひ!もうだめ!もうだめー!あっひゃっひゃ!あっひゃっひゃ!う、うひぃ……」
イった。シーナが。
「ぐはは!ついに我は見つけた!天空の波動を超えしエンドオブダークネスの力を!もう誰も我を止めることは出来ない!闇と光の混沌の世界よ、今こそ我が力にひれ伏すがいい!」
「あれ?お父さん?おじいちゃんもおばあちゃんも!ははっ!みんなで迎えに来てくれたのね!ちょっと待ってね、今この川を渡るから」
逝った。サーナが。
「ちょっと待てぇえーーーい!」
なにこれ。思ってたんと違う。あまりの美味さに脳に何らかのダメージを与えてしまったのだろうか。なんだかみんなの開けてはいけない扉を開けてしまった気がする。特にリリー。あのホワホワした君はどこに行ってしまったんだ。あとサーナ、その川は絶対に渡ってはいけない。
あれ?そういえばあと1人は?
「ルティー君!このお肉すっごく美味しいね!こんなに美味しいご飯、生まれて初めてだよ!どうやったらこんなに美味しく作れるの?」
まさかの生存者がいた。俺を君付けで呼ぶ、満面の笑みを浮かべた赤髪の女の子は、たしかマリアだったな。
「そりゃあ良かったよ。なんだ、マリアは料理に興味があるのか?」
「うん!私、昔から料理が好きでね、いつか自分のお店を開けたらいいなぁなんて思ってるんだ!この村でもみんなのご飯はいつも私が作ってるんだよ!」
えっへんと胸を叩いて笑うマリア。ああ!おっぱい大先生が揺れた!今、確かに揺れましたぞ!
「そうなのか。よし、じゃあ今度俺にもマリアの料理食べさせてくれよ」
「ええ!こんな美味しい料理食べたあとじゃちょっと自信ないなぁ…で、でもわかった!ルティー君のために頑張って作ってみるね!」
そう言って、またパクパクと幸せそうに食べ始めるマリアを見て俺は思った。俺は何としてもマリアの夢を叶えてやらなければならないと。
だがマリアよ。ご飯に夢中になるのはいいんだが、お前さんの仲間たちが絶賛大変なことになっているけど大丈夫か?全く気にしている様子がないけど。
「あはは!ルティー君、なんかみんな面白いね!」
なるほど。マリアはド天然という属性持ちらしい。とにかくサーナが三途の川を渡切る前にみんなを何とかせねばならない。俺は料理Lv10の被害者たちにエリアヒールをかけてあげた。
「わ、私は一体なにを…」「な、なんだか身体がピクピクしてるわ」「あれー?わたし何してたんだっけー?」「はっ!危ないところでした!」
サリア、シーナ、リリー、サーナが無事にこちらの世界に戻ってきた。ちょっとLv10の料理をマリア以外に食べさせるのは辞めた方がいいな。常にLv10を食べさせてあげたかった俺としては心惜しいが、しばらくは料理レベルが低いものから徐々に慣らしていこう。
「すまん。ちょっと出すものを間違えた。代わりにこっちを食べてくれ」
俺は一旦みんなの前の料理(マリアのものを除く)をアイテムボックスにしまって、料理Lv6の時に作った料理を机に並べていった。俺の感覚だと、料理Lv5で地球の三ツ星レストランくらいの美味しさだから、今出したLv6はそれよりもちょっと美味しいくらいだと思う。三ツ星レストラン食べたことないけど。これならまだ彼女たちでも自我を保つことができるだろう。
「美味い!美味い!美味い!美味すぎだよ!」
「あはは!あはは!なんて美味しいお肉なの!はぁはぁ」
「すごーい!我こんな美味しい料理食べたことないよー!」
「す、凄く美味しいです!なんだか川のせせらぎが聞こえてきました」
ちょっとヒヤッとしたが、みんなかろうじて自我は保てているみたいだ。みんな俺の出した料理を幸せそうに頬張っている。ああこの光景だ。俺はこの光景が見たくて必死に料理を鍛えたんだ。あの血のにじむ努力がやっと今報われた気がする。
さて、みんなのお腹が満たされたことだし、ちょっと色々聞いてみようかな。
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