第2話 スライム先輩

 歩きながらステータスを確認する。


「ステータスオープン!」


 名前:ミナギ=ルティンコ

 年齢:16

 種族:人間 Lv3

 HP:14/14

 MP:14/14

 攻撃:5

 防御:5

 敏捷:5

 知能:5

 装備:なし

 スキル:体術Lv1 痛覚耐性Lv1

 SP:0


 取得可能スキル

 なし



 ああ何度口にしても良いな、ステータスオープンは。何度でも言いたい、ステータスオープンと。


 ふむ。レベルが1上がる毎にHPとMPが2、その他が1ずつ上がる仕組みと見た。いや全然上がらないじゃん。この世界の一般的なステータスがわからないから強いのか弱いのかわからないけど、恐らく、いや間違いなく弱い。このままでは俺の野望が危ういのでなんとかせねばならぬ。


 あとはスキルにもレベルがあるんだな。いい仕様だ。レベル上げ中毒の俺からすると非常に嬉しい。でもどうやってスキルレベルを上げたらいいんだろうか。SPを使用して上げるのか、熟練度によって上がるのか。取得可能の欄に体術Lv2とか痛覚耐性Lv2とか載ってないことから恐らく後者だろうな。うひー!レベル上げの血が滾るぜ!


 まあ確認することはこのくらいでいいだろう。あとはHPとMPの回復については、後々確認しよう。今は全快だからね。ふはは!誰にも負ける気がせん!


 というわけで、デーモンラビットがいた場所へ俺は舞い戻ってきた。そして奴はそこに居た。


「グルルルルル」


「おいこら筋肉兎!お前を倒しにきてやったぞ!いいかよく聞け。実はさっきの俺は少しも本気を出しちゃいない。これから俺の本気を味わうがいい!」


 きまった。ふはは!どうだ筋肉兎め。恐れ入ったか!奴は全然理解してなさそうだけどまあいいだろう。前回の屈辱、晴らしてやらあ!


 ゴーン


 試合開始のゴングが鳴った。俺は筋肉兎に向かって走り出す。体術スキルのおかけで、身のこなしは以前とは比べ物にならない。戦闘経験0の格闘技ド素人レベルが格闘技初心者レベルになったのだ。


「ん?初心者レベル?ってうわ!へぶしっ」


 普通に人生2度目の右膝蹴りを食らった。所詮はまだ体術Lv1なのだ。そんなに人生甘いものでは無い。ぐぬぬ、解せぬ。


 くっ、なかなかやるじゃねえか筋肉兎。痛いけど、前回よりは痛みは感じない。レベルが上がって防御が上がったことと、痛覚耐性スキルの恩恵だろうな。HPは3減って、残りは11。うん、なんかいける気がする。てか普通に痛い。前よりはマシだけど普通に痛い。ああなんかイラついてきた。


「コノヤロー!痛えじゃねえか!」


 痛みによってちょっとイラッとした俺は力任せに筋肉兎を蹴り飛ばした。いかんいかん。俺としたことが冷静さを失うとは。今後の課題としよう。


「ブギャッ」


 筋肉兎は2メートルほど後ろに吹き飛んだ。まだ倒しきってはいないようだが、見ると筋肉兎は少しビビっているように見える。これはあれだ。クラスのいじめっ子がいつもいじめてた奴に反撃されてびっくりしちゃってる奴のあれだ。ふふふ、ざまぁでござる!


 俺はそのまま筋肉兎に向かって走り出し、もう1発、渾身の力を込めて蹴りをくれてやった。


「ブギャッ、ブギ……」


【マッスルラビットを倒しました。経験値10を獲得しました。レベルが4になりました。SP1を獲得しました】


「勝ったどおおおお!」


 見てますか?スライム先輩。あなたのおかげであの筋肉兎を倒すことが出来ました!てかあいつマッスルラビットっていうのか。勝手にデーモンラビットとか言って悪かったな。中々に強敵だった。さすがの俺も苦労したというものだ。


 目の前にはピクリとも動かないマッスルラビットの死体が1体。


「ぐるるるるるる」


 うわ!びっくりした。死体が蘇ったかと思ったら、俺のお腹の音でした!てへぺろぺろ。


「そういえば、こっち来てから何にも食べてないな。こいつ食えんのか?」


 見た目普通に兎だし、兎肉って異世界の割と定番じゃない?まあ物は試しだ。食べてみることにした。


 ふむ。


「どうやって食うんだ?」


 致命的に道具が足りなかった。まず切る包丁がない。あと肉を焼く火もない。どうしよう。え、生肉は嫌だよ?俺、日本人だし。最低限の衛生管理の知識は備わっているつもりだ。


 いやここは異世界だ。日本の常識に囚われてはいけない。そう、俺はハーレム王国の頂点に立つ男。常識など恐れていては、男の名折れというものだ。さっそくかじりついてみた。


「オロロロロ」


 キラキラと口から幻想的な虹が架かっていた。ワンダフォー。


 これは無理だ。腹は減っているが、まあ死ぬほどでは無い。悪いがこのマッスルラビットはそのまま放置することに決めた。


 その時だった。


「プルンプルンっ」


 スライム先輩がいた。しかもなんか色違い。なんだが赤っぽい感じ。なんだ?照れてるのか?まさか!俺に惚れて、ハーレムの一員に入れて欲しいというのか!こいつ、なかなか見る目がある。だがすまない、俺はスライムは対象外だ。


 まあ気にせずいつも通り、えいっとしようとしたら色違いスライム先輩はなんと火の玉を打ってきた。突然のことに焦ったけど、幸いにも距離があったので避けられた。


【取得条件を満たしました。〈火魔法〉〈水魔法〉〈土魔法〉が取得可能です。SP消費は2です】


「まFOOOOOO!」


 いかん。あまりの衝撃にどこかのHGなレーザーなラモンになってしまった。魔法だ!魔法だ!魔法だ!俺は湧き上がる喜びに身を任せて、色違いスライム先輩をえいっと叩き潰した。


【スライムベッスを倒しました。経験値8を獲得しました】


 はっ!気づいたら色違いスライム先輩がお亡くなりに!誰だ!こんな酷いことをする奴は!まあ僕なんですけど。


 ステータスを確認すると、確かに取得可能スキルの欄に、火魔法、水魔法、土魔法の文字があった。これは来たんじゃないか?俺の時代が。止まらない興奮を何とか抑え、俺はまず火魔法を取得しようとして気づいた。俺の保有SPは1。


「SPが足りぬ!」


 ああジーザス!なんて残酷なんだこの世界は。まるで目の前に可愛い女の子のおっぱいがあるのに、上手く体を動かすことが出来ない悪夢を見ているようだ!まあ目の前に可愛い女の子のおっぱいがあるだけで幸せなんですけど。


 はっ!そうか!つまり魔法を取得できることがわかっただけでも俺は幸せ者だということだな。さすがはおっぱいだ。こんな大事なことを気づかせてくれるなんて。どうかおっぱい大先生と呼ばせてください。


 というわけで、SPが足りない以上はレベルを上げるしかない。まあ俺はレベル上げ大好き人間なので、微塵も苦にならないんだけど。


 レベル上げと同時に、スキルの方のレベルも上げていきたい。体術は普通に戦ってれば上がるとして、痛覚耐性も上げたいから、ちょくちょく攻撃を受けてみよう。痛いのは嫌いだけどしょうがない。強くなるため、そしてハーレムのためだ。なんだってやってやるさ。


 そういえばHPの回復も確認しないとな。さっきのマッスルラビットとの戦闘で確か3のダメージを食らったけど、最大HPは14で、今は13まで回復してる。あれから大体20分は経ってるから恐らく10分に1回復する程度だろう。なんとも言えん数字だ。まあ回復するだけ良かった。寝ないと回復しないとかだったらちょっと不便だった。


 ではでは、早速、


「レッツレベリング!」


 狙うのは、マッスルラビットとスライムベッス。マッスルラビットの方が経験値は高いがスライムベッスの方が倒しやすいので、スライムベッスを中心に倒していこう。ただ痛覚耐性を上げたいのでたまにマッスルラビットとも戦うつもりだ。火の玉は受けたくない。めっちゃ熱そうじゃん。やけど怖いもんっ!




【スライムベッスを倒しました。経験値8を獲得しました。レベルが5になりました。SP1を獲得しました】


「FOOOOOOO!」


 あれからレーザーなラモンになっていた俺は、1体のマッスルラビットと2体のスライムベッスを倒したところでレベルが上がった。保有SPは2。はい来ました!ではさっそく火魔法を取得してしまいましょう!いや待て、火魔法でいいのか?他にも水魔法か土魔法という選択肢もある。ただ俺は火魔法を選ぶ。なぜなら、


「兎肉を焼いて食いたい!」


 腹が減っているのだ!兎肉!兎肉を食わせてくれぇええ!てことで早速、


【SP2を消費して〈火魔法〉を取得しました。〈火魔法Lv1〉を取得しました】


 おおおお!やばい泣きそう。色違いスライム先輩、見てますか?俺、魔法使いになれました!30歳にならなくても魔法使いになれました!


 よくよく考えるとスライム先輩達は本当に俺の役に立ってくれているな。よし、決めた。いつかハーレム王国にスライムの銅像を建てて守護神として奉ろう。


 火魔法を取得したので、先程倒しておいたマッスルラビットを料理していく。ちなみに、自慢では無いが俺は料理なんてしたことが無い。だってコンビニに行けば良かったからね。まあなんでも焼けば美味いってもんだろう。さあ、レッツクッキングだ!


 てれてってってってって♩

 てれてってってってって♩


 完璧だ。今俺の脳内ではあの3分クッキングのミュージックが爆音で再生されている。なんでも雰囲気ってのが大事なんだよ。俺は割と形から入るタイプ。


 まずはその辺に落ちていた枯れ木を集めて、その上にマッスルラビットを置く。


 そしていよいよここで魔法の出番だ。ああドキドキする。初めての魔法だ。失敗する訳にはいかない。ちなみに魔法の使い方はさっき取得した時に何となくわかっている。


「燃え上がれ!ファイアー!」


 ブオオオオオオオオ


 おぉ!燃えた!めっちゃ燃えてる!すっげぇええ!あれ、なんか頭クラクラする。しかし今は我慢だ。料理中に気を抜くと怪我するからな!さて、続きを始めようと思うのだが、


 俺の目の前にあるのは、マッスルラビットの骨と灰だけだった。


「…………」


 ふはははは!料理をしていたつもりが、いつの間にかマッスルラビットの火葬をしていたようだ。しっかり成仏できただろうか。ふむ。俺はなんて善良な行いができる男なんだろう。マッスルラビットよ、生まれ変わってもまた俺と戦おう。そして俺の経験値となりやがれ!げはは。


 うん。どうやら燃やしすぎてしまったらしい。ついつい初めての魔法だから張り切りすぎてしまった。次はもう少し威力を抑えてみることにする。というか先程から頭のクラクラがやばい。MPを見てみると残りが1になってた。なるほど、これが魔力欠乏症か。なかなかにキツいものだな。腹は減ってるし頭はクラクラだし、なんて日だ!と叫びたい気分だ。


 またマッスルラビットを狩りに行かなければならないのだが、ちょっと今の状態じゃ無理がある。魔力欠乏症が落ち着くまで少し横になることにした。




 ルティンコ日記

 まほうはいりょくのちょうせいがたいせつだということがわかりました。つぎはがんばります。

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