第3話 守ると決めた

国の騎士達と別れ私はミヤコを連れ普段泊まっている宿屋【エパプロビートン】の前に居た。

国に任せるとこの子は殺される可能性が高いため必然的に私に託された訳だが、ここに住んでいる人に気づかれては元も子もない。ずっと黙らせる訳にも行かないし、バレることなくこれから生活しなくてはならない。

ここでじっとしているのも怪しまれるので、私は思い切って宿に入った。


カラカラーン


宿のベルが鳴る。

宿の受付には普段から見慣れている小太りのおばさん(こんなこと言ったら殺される)"クレア"がいた。


「あら~。おかえりなさいメアリーさん」


すぐに気付いたクレアさんは私に笑顔で手をふる。


ミヤコはここまで来るまでずっと警戒を続けていた。ずっと私にくっついている(かわいい)。

可愛いネコは私の後ろに隠れていたが、すぐにクレアさんに気づかれてしまう。


「おや?その子はどうしたんだい?」


私はできるだけ平常心を保ってミヤコを紹介する。


「この子は、クエスト中に保護した子」


「あらあら。そうだったのね。可愛い子ね、それで一緒に泊まるのかい?」


「そんな感じ。この子の宿代は私が払う」


「そんなのいいわよ。保護してるなら仕方ないわ。それにあなたにはお世話になってるし」


(やった。いつも夜の酒場の手伝いしておいてよかった)


「それにその子、怪我してるじゃない。早く休ませてあげなさい」


そう言われ私はすぐにいつもの部屋へ向かった。


なんとか宿には入れたが、いつ獣語病のことがバレるかわからない。というかいつかはバレるものだからどう言い訳しようか考えなくては。


私はミヤコと一緒に部屋に入るとすぐに机に座り国営図書館の入場申請書に名前と理由を書く。国営図書館に行けば獣語病についてなにかわかるはずだ。

申請書を書いてる間ミヤコは部屋の中を歩き回っていた。


「ミャミャ」


ミヤコは窓から外を見たり、布団の感触を調べたりしている。


かわいい。


そう思った次の瞬間私の血の気が引いた。

ミヤコが私のバックを調べていると急に後ろに倒れたのだ。

私はすかさずミヤコの頭を抱える。


「ミギャーー!!」


ミヤコは胸を抑え苦しんでいる。

私は頭に魔法書の一文がよぎる。


《患部無痛魔法は12時間たてば効果をなくす》


すっかり忘れていた。私は自分の不覚に猛省し、慌ててクレアにこのことを伝え知り合いの回復術士の元へ急いだ。


────

──


数分で回復術士を連れ宿へ戻ってきた。




「これは胸骨が折れてるね」


知り合いの回復術士ケイトはミヤコに無痛魔法と診断魔法をかけるとそういった。


「それと、この子だいぶ弱ってるよ。どうやら患部無痛魔法で具合悪いのに気づかなかったんだね」


ケイトの話によると耳の怪我が原因でそこから細菌が入り病気に罹っているらしい。ミヤコを触ってみるとかなり熱くなっている。


「患部無痛魔法は許容量があるからね、今やった分でそれに達したから2、3週間はまた使えないよ」


苦しそうなミヤコを見ていると胸がキュとする。この子には後で謝らなくては。


「まぁ、応急処置としては完璧な方だよ。熱は高いけど、ちゃんと耳の傷も薬に漬けた布巻いてるし、すぐ回復するよ」


ケイトは私を心配して安心させようとする。


「落ち込まないで。この子も心配になるから」


ケイトの言葉で私は少し立ち直った。まずはしっかりとミヤコを看病しなくては。


「んじゃ。ちゃんと包帯は食後に変えて、薬は2錠朝と夜にね」


そう言いケイトは部屋をあとにする。

私は苦しそうなミヤコの頭をずっと撫でる。もがくミヤコを見ていると涙が溢れてくる。剣術を極めてきたが、まだまだ気遣い力は無いのだと悔やむ。


──────

────

──


日が沈み、ミヤコは夜の薬が効いたのか眠っていた。私は起こさないように優しく頬を撫でる。そこにクレアさんがドアを叩きゆっくりとドアを開け入ってきた。


「どうだい?落ち着いた?」


「はい…」


クレアさんは心配そうにミヤコの顔を見る。ミヤコはぐっすりと寝ている。薬が切れればまた苦しみだすだろう。


「ところで、この子名前は?」


「ミヤコ。私が勝手に付けたが」


「勝手に付けたってどうしてだい」


最初からミヤコが喋れないことは話そうとしていたが、いざ話すとなると緊張する。


「じっ、実はミヤコは猫のようにしか喋れない病気なんだ」


「まぁ!そんな珍しい病気があるのね」


良かった。どうやらクレアさんは獣語病のことを知らないらしい。

まぁ、知られたらすぐにこの街から出るつもりだが、とりあえず今は安心だ。


「んで、この子がどこの子か検討は付いてるのかい?」


そういえばこの子は必ず親がいて、いずれ見つかれば帰さないといけない。


「全く」


「獣人族の村なんてあんたが行った森の方にあったかしらね?」


私がクエストで騎士団と向かった森はよく魔獣が出る。その先に村はあるが、エルフの村だったはずだ。ましてやアウラー王国自体首都シュンフォニア以外ほぼエルフしか住んでいない。北の山へ行けば少しばかり他の種族もいるが、私が向かった森は南だ。

だとするとシュンフォニアからの可能が高い。しかし、門を過ぎてからは初めてここに来た感じがした。

まぁ、シュンフォニアは大きな街だ。偶然ここの地域に来てないだけかもしれない。


クレアさんとミヤコの出自についてしばらく話してから私はミヤコの側で寝た。


────

──


「ミャー…」


ミヤコの弱々しい声で目を覚ます。目の前で胸を痛がるミヤコが見える。


「ミヤコ…」


私はベッドから起き、ミヤコに新しい水に濡らした布を額に置く。熱は昨日よりは引いていたがまだ熱い。食事を取りに行こうと部屋を出ようとするとミヤコが手をこちらに伸ばし鳴く。


「ミャー…ミャー…」


「ご飯取ってくるからね。少し待ってて」


私は急いで階段を駆け降りる。


「メアリーさんおはよう。ミヤコちゃんの分も用意してあるからね」


「ありがとう。クレアさん」


クレアさんから2つの皿をお盆で受け取るとすぐに2階に戻り部屋の扉を開ける。


「ミャー!」


扉を開けるとミヤコがベッドから這いずって扉の前まで来ていた。


「ミヤコ!無理して動いちゃダメだよ」


私はミヤコをベッドに戻し、クレアさんにもらったピュロス(小麦のような稲植物)をお湯でふやかしたものをスプーンでゆっくり食べせた。

力が入らないのか結構こぼしてしまったがなんとか少量は食べれたようだ。薬を2錠ケイトに言われたとおりに飲ませ、消化できるように完全には横にしたいように寝かせる。それから私は自分の朝食を食べた。

そして、改めてこれからのことについて考える。

ほぼ毎日クエストへ出ていたが、ミヤコがいるからにはしばらく行けそうにない。貯金は一応あるが、持って1〜2ヶ月だろう。最近物価も上がってきているのでもっと早いかもしれない。そして、ミヤコもいるとなると予想ができない。そういえばミヤコの服を買ってあげなくてはならない。いつまでもこのボロボロの布ではダメだ。今日服を買いに行きたいが、ミヤコをここに置いて行ってもいいだろうか。他にも色々用意しないことがある。


あれやこれやと、やらないといけないことが沢山出てきた。どうやら今から忙しくなりそうだ。まずは色々買い出しに行かないと始まらない。


さて、ミヤコを置いていく訳だがなんとか説明しなくては。

私は慣れない絵で外に出かけることと、日が沈む前には帰ることをミヤコに説明した。するとミヤコはすぐにうなずき私に弱々しく手を振った。


(良かった。理解してくれたようだ)

私は安心して部屋を出た。


まずは服を買いに行こう。残念ながらミヤコは連れていけないが、ある程度のサイズはわかる。

私は早速大通り沿いにあるこの街で複数展開している服屋【スケウェー】にやってきた。


「いらっしゃいませー。あれ、メアリーじゃない。クエストお疲れ様」


なぜ私が最初にここに来たかというと、学校からの友人の【ルカ】がいるからだ。


「今回はええっと…3週間くらいかな?だいぶ長い期間のクエストだったね」


そう、今回のクエストはただ街の周りを警備するというものだったが、3週間という長い期間のものだった。普段ならば長くても1週間なのだが、最近魔物が増えてきたというのもあり、警備の人数を増やしたところ、人員不足になってしまっているといったところだ。


「んで、今日はなんの用?」


「子供用の服を探してる」


その言葉にルカは驚愕して、目を丸くした。


「大体5歳位の女の子用を…」


私はルカが驚いているのに気付き、買うにあたっての経緯の説明を先にするべきだったと反省した。


私はルカに経緯を説明した。


「なんだ。驚かせないでよ。そんなことだったらちょっと待ってて」


ルカは店にずらりと並んだ服の中からまるですべての商品を覚えてるかのように素早く服を選んだ。


「これらの服なら5歳くらいの子にピッタリかな」


私の前に出された服は5枚、どれもミヤコに似合いそうだが、これからのことを考えると2つに絞る必要がありそうだ。


(できるだけミヤコの可愛さを引き立てるのは…)


「全部買うわ」


「まいどありーー」


(!?私今何って言った?)


流されるように会計を済ませ店を出る。


「ありがとうございましたー。またねー」


(買ってしまった…)


ミヤコがこれらの服を着ている姿を想像していたら無意識のうちに…

とりあえず、荷物を宿に預けて次は靴を買いに行く。


────

──


結局色々買ってしまった。

靴を3足とアクセサリーを沢山、玩具などなど。ミヤコのことを考えるとどんどん買ってしまう。


両手に買ったものを抱え、お土産のオーク肉串を持ちミヤコの待つ宿に向かった。


「ミヤコ、帰ってきたよー!」


私は勢いよく部屋の扉を開ける。すると天使がベッドから私の方へ両手を広げ『おかえりと言ってくれた』←たぶん


「ミャーーーー!」


🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾🐾

『にゃーにゃにゃみゃ。にゃーみゃーみみみゃー。』(いつもお読みいただきありがとうございます。モチベーション向上のため『いいね♥』や『フォロー』おねがいします)

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