間章
フリ素@恋愛相談
※
「ザンダーン!」
ハルさんが、ベッドに置かれていたオレに突っ込んでくる。
昼過ぎのこの時間、ハルさんは毎日、エマの部屋を掃除しているのだが、こうしてすっかけてくることが多い。
大抵は、エマたちの兄、ガルイスさんの話で。
「聞いてよザンダン、ガルイス様が格好よかったよおおお!」
どうやら彼女は、彼にご執心らしいのだ。
「久し振りにお話ししたんだけど、動悸が止まらなかったよね。ガルイス様は国の宝!」
掃除もせず、エマのベッドの上でバタバタしている。というか、彼女はオレが話せることを知らないはずなので、ただただ壁打ちをしていることを自覚しているのだろう。変な人だ。
ちなみにエマは今、アリアと昼ご飯を食べている。
「ガルイス君とはね、同い年で幼馴染なんだよ! 言ったことあったっけ?」
それは──初耳だった。
「昔から優しかったんだよね、ガルイス君。あー、もう、結婚したい! ガルイス様あ!」
「召使となんて、結婚できる訳ないのに」
「それくらい分かってるよ! ──え?」
「え?」
声が──聞こえている?
ハルさんは、体をベッドから起こしてオレをじっと見る。オレはぱちぱちと瞬きをする。
「えーっと」彼女は顎に手を遣り、首を傾げた。「確かにエマ様が、『ザンダン』が喋ったと言っていた気がするけれど、人形が言葉を話すとはいかなる現象なのか。発声器官がない以上、声が出ているのは喉からではない──そもそも、生物なのか無生物なのか。生きているのかそうでないのか──」
「ハルさんそういう真面目枠じゃないでしょ」
「え!」彼女はショックを受けたようにのけ反る。「こ、こんなチビにバカにされた……わたしエマ様の専属召使なのに……」
「それエマが偉いのであって別に」
「はい、エマ様を呼び捨てにしない!」ハルさんはオレを掴んで持ち上げた。「王家の方々は高貴であって他と区別されなければならないの。気軽に呼び捨てないように」グィーテさんもそうだったが、どうも厳しくやっているらしい。まあ、とは言っているが。
「そっちも、さっき長男のコト、君づけしてたじゃん」
「あ、あれは──」
「ハル?」エマが──帰ってきた。
「あ、エマ様、この『ザンダン』、滅茶苦茶喋るじゃないですか!」
「ごめん、エマ。なんか、声、聞こえるっぽい」オレは謝っておく。
対してエマは、少しの間、固まり。
「つ──つまり、このザンダンの声は、わたしにも、ハルにも、同時に聞こえるってこと?」
「そうだと思います!」
「──やったーッ!」
「「え?」」
エマは、ぴょんぴょん跳ぶ。「シャード兄様と、姉上が共通して声を聞ける『ザンダン』が、羨ましかったんだよ! やった!」
「喜んでいただけたのなら何よりです!」ハルさんは急にオレから手を離した。オレは真っ逆さまにベッドに墜落する。やれやれ。これから更に、賑やかなことになりそうだ。
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