間章

フリ素@素材推定





     ※





 オレはエマに頼んで、自身の姿を見せてもらうことにした。部屋の隅に置いてある大きな姿見まで運ばれる。


「どう? 見える?」


 これは──フランス人形。いわゆる、ビスクドールか。目がクリッとしていて、可愛らしい。オレ自身だが。


 ということは素材は、磁器だったか。いや、この世界で、厳密に磁器があるかは分からない──原料は、主に粘土だが、つるつるした表面は、釉薬うわぐすりが高温でガラス化しているんだったか。土器や陶器等の他の焼き物に比べ、磁器はより高い温度で仕上げられる。磁器の大きな特徴だ。


 また、なぜエマの人形にはまぶたがあるのかという件について、どうやら、あの子供用のおもちゃでよくある、体を起こすとまぶたが上がり、寝かせるとまぶたが下がる仕組になっているらしい。銃を持っていながら子供用とは笑える。いや大して笑えない。オレが中に入っていれば、まぶたは好きに動かせる──オレがエマの人形の方にいるかどうかは、まぶたがどう動くかに注目すれば、分かるだろう。


 オレの体で自由に動かせるのは、まぶたと、眼球だけである。鼻は多少ひくひく動くが、特段意味はない。耳は元々動かせないし、動かせても何の意味もない。口は──ぴくりとも動かない。しかし話せている。謎は深まるばかりだ。





     ※





 アリアにも頼んで、自身の姿を見せてもらうことにした。部屋の隅に置いてある大きな姿見まで運ばれる。


「どう? 見える?」


 これは──フェルト生地だろうか、独特の質感の布で作られている。フェルトだとすればやはり羊毛か。そういえば本物の羊を見たことがないなと思い出す。羊肉は食べたことがあるが。ちなみに、持っている銃は別の素材で作られているようだが、拳銃で、さほどの大きさはない。


 目はただ布が張られているだけであり、まぶたがないのは頷けるが──これで周りが見られて、目を動かせるとはどういうことだろう。エマの人形なら、眼球が人間と似た設計になっているということなら納得できる。しかしアリアのは──もしかしたら、オレが生身でやっている『見る』という動作と処理が異なるのかも知れない。この目は覗き眼鏡のようなものだとか、実はそもそも目以外の場所で見ているとかいう可能性はあるだろう。


 大きさはアリアの広げた両手の上に乗るくらいで、デフォルメされているため高さはそれほどない。エマは寝る時にオレ、いやザンダンと一緒に寝るが、それはある程度の大きさで、頑丈だからであって、この人形では寝ている間に体が圧し潰れたりねじ曲がったりしかねない。




 ……結局、なぜオレは人形の中に入っているのか。この世界は、何なのか。まだまだ、分からないことだらけである。

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