第40話音楽科 孤立
授業が終わると、優香のもとに、女子生徒が三人でやってきた。
「どうしたの?」
優香が尋ねると、三人は言いにくそうに顔を見合わせて、真ん中の女子生徒が話し始めた。
「ねえ、優香。ちょっと厳しすぎない?通しでとりあえずやってみないと、私たちも途中途中で止められちゃうと分からなくなっちゃうよ」
一人がそういうと、二人も同調した。
本日の授業は一度も通しで行うことなく、前半の2分ほどの尺を一時間の授業で何度も繰り返し行っていた。
それに、飽き飽きしていた生徒もちらほらいて、ミスが増えていたのも、優香自身気がついていた。
「でも、その場で直さないと、どこが悪かったかわからなくなっちゃうし」
優香は、強気な性格なため、あっけらかんと答えた。しかし、そんな優香の態度に、納得いかない三人は顔を見合わせた。
「でも、明日は通しで一回はやりたい。でないと、練習にならない」
一人が強気でそういうと、優香も悩んだ表情をした。しかし、これ以上もめたくないため、渋々三人の意見を受け入れた。
「わかった」
そういって、去っていく優香三人は見送り、いなくなると、
「なんか、急に偉そうになったよね」
「本当、感じ悪い」
「自分がまとめる力ないだけなのにね」
そう口々に優香への愚痴をいいながら、三人も教室から出ていった。
そんな様子を面白そうにみていた夏目は、優香の後を追うように、姿を消した。
優香は一人、ため息をつきながら渡り廊下で中庭を眺めていた。
自分の不甲斐なさも感じる。
けれど、みんなでいいものを作りたいのに、心がバラバラなメンバーをどうまとめたら上手くいくのだろう。
そんなことを考えていると、自然と溜め息が出てきてしまう。
「優香さん」
夏目はさも、後ろから追ってきたかのように、優香の前に現れた。
「夏目さん、先程はありがとうございました。どうでしたか?」
優香は慌てて笑顔を作り、夏目に向き合った。
夏目も優しく微笑み、優香の目を見た。
「あなたのようなしっかり者が、指揮者になって安心しました。期待してます」
「ありがとうございます。でも、このやり方でいいでしょうか?みんな、なんか、私と考えが違って…」
優香は自信なさげに俯いた。
そんな、弱気な優香の両肩に触れて、夏目は優しく囁くように話した。
「あなたのやり方で大丈夫ですよ、僕の目を見てください」
夏目に言われた通り、優香が夏目の目を見つめると、夏目の瞳は緑色に光、一瞬で優香の表情は朦朧となった。それを、満足げに微笑む夏目は、手を優香の顔にかざした。
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