第39話音楽科

「音楽科の雰囲気はどう?調子はいいかな?」


夏目の質問に、優香は少し俯いた。


正直、指揮者になれたことは喜ばしいことだが、やはり、ここでも嫉妬をむき出しにしてくる生徒もいる。


真剣に音楽と向き合っている者同士なのに、足をひっぱるように、優香の指示を無視する生徒もいる。


優香はそんな生徒に対してどう接していいか分からなかった。


「みんな、目指すところは同じなんですが…私の伝え方が下手なのか、なかなか伝わらなくて」


優香の弱音を聞き、夏目は気づかれない程度に、一瞬ニヒルな笑みを浮かべて、すぐに元に戻った。


「みんな、仲間でもライバルだからね。大変そうだ。でも、きっと、君はうまくできるよ」


嘘でもそんな優しい言葉をかけてくれる夏目に、優香は微笑み「ありがとうございます」といった。




音楽室に入ると、音楽科担任の先生が夏目に気づき笑顔で近づいて来た。


「夏目先生じゃないですか!」


優香は夏目に会釈して自分の席につくと、「ありがとう」と、すれ違い様に夏目は言った。


優香はチラッと夏目をみると、微笑んで頷いてくれた、そんな夏目に頬を紅潮させながら楽譜と向き合った。


担任の先生は、当たり障りのない雑談を夏目と交わしていた。


チャイムが鳴ると、皆、担任に注目している風に見せて、皆、夏目を見ていた。


「ようこそ、夏目先生。さあ、皆さん、こちらは今回『アリア』の脚本を手がけてくださった夏目先生です。皆さんの演奏を見に来てくれました」


夏目は爽やかな笑顔で挨拶をした。


「皆さん、初めまして、脚本を書かせていただきました夏目です。音楽科の中でも優れた方達が集まって、曲に携わって頂けるということで、ご挨拶させていただきに参りました。よろしくお願いします」


夏目が笑顔で挨拶すると、女子生徒たちはひそひそと話しながら、輝く眼差しで夏目をみていた。優香も一人頬を赤らめながら見ていた。


それから、夏目は椅子に座り、皆の演奏の様子を見ながら、優香とその周りの生徒の様子を見ていた。


指揮者である優香は、指揮をしながら、みんなにも指摘をしていた。


「今、トランペット入り遅くなかった?」


「ごめんなさい」


トランペットの男子生徒は、自分のミスをわかっていたのだろう、素直に謝った。それを、女子たちは面白くなさそうな顔で見ている。


先生はほぼ優香に任せて、とくに指導はしなかった。そのため、注意をする優香の立場だけがここでは悪役になっていた。


夏目はその様子を、企んだ笑みを浮かべて、見学する。そして、人間にはみえない緑色に光る粉を手のひらにのせ、ふぅと息を吹きかけると、優香にその粉がまとわりついた。


「じゃあ、続きからもう一度」


自分に何かついたことなど、気づくわけもなく、優香は真剣に指揮棒を振り続けた。

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