第38話不穏な足音

ある朝、学校の門をくぐると、愛美のもとへ優香が走ってやってきた。


「おはよ、愛美」


「優香、おはよ。なんか、元気いいね!」


いつも以上に笑顔が明るい優香は、愛美に嬉しそうにはにかみながら話した。


「実は、前に指揮者に行けそうって言ったじゃない?」


「ああ、いけたの?」


優香は嬉しそうに頷いた。それをみて、愛美も嬉しくなり笑顔で優香の肩に触れた。


「良かったじゃん!」


「それだけじゃないの、今度の愛美たちがやるミュージカルの曲、指揮者私がやることになったの。音楽科でも今回のミュージカルの音楽に携われるの凄く特別なんだよ!」


今回のミュージカルはいろいろな科で、優れていると言われた生徒が集められる、特別な名誉ある公演だった。


その中でも、指揮者は最も音楽科で優れていると認められた人が任されることが多い。


「凄いじゃん!指揮者って、一番優れている音楽科の生徒が選ばれるって言われてるのに」


「ありがとう。親友が主役だし、私も負けていられないと思って頑張った甲斐があったわ」


親友、そんな言葉を言ってもらえるだけで、愛美は嬉しくて照れくさくなった。


ふたりは互いに歓びを分かち合いながら歩いていた。楽しそうに話している二人を、校舎から夏目が眺めていた。


そんな二人を見て、不穏な笑みを浮かべていた。



校内で優香は音楽室へ行くのに一人で歩いていた。そこへ夏目が渡り廊下で外を眺めている姿を見かけ、優香は足を止めた。


夏目の姿は、愛美を介して見たことはあったが、遠目でしか見たことがなかったため、間近で夏目を見るのは初めてだった。


みんなが噂する講師だけあって、整った顔に銀縁メガネが秀才な雰囲気を醸し出されている。


そして、その哀愁漂う雰囲気に、妖艶さを感じ、見惚れるように茫然と立ちすくんでいると、夏目が優香に気づき、微笑んだ。


「っは…、す、すみません」


優香は頬が赤らめ、それを隠すように早足で夏目の横を通り過ぎようとすると、夏目は優香の手を掴んだ。


「待って?君、愛美ちゃんのお友達だよね?」


「えっ、は、はい」


夏目は優しく手を解くと、優香に微笑みながら話をした。


「音楽の指揮者を君がやると聞いてね、君の指揮をみてみたくて、特別に授業をみる許可をいただいたんだ」


優香は夏目の顔を直視できず、恥ずかしそうに俯きながら小さな声で、


「そうですか」と、呟いた。


「せっかくだから、案内してもらえるかな?」


そんな、優しい雰囲気の夏目に翻弄されるように、優香は頬を紅潮させながら、口許を綻ばせていた。


「は、はい。こちらです」


優香は、緊張しながら夏目の前を歩くと、夏目は何か企んだような笑みを浮かべながら、優香の後ろをついて行った。

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