第37話邪魔者
その瞳に、マッドも見覚えのある感覚を感じていた。しかし、それを思い出そうとすると、息が苦しくなり、頭が割れるかと思うほどの激痛がまたマッドを襲った。
「う…う、わぁ…」
マッドは崩れるように頭を抑えながらしゃがみこんだ。愛美は急いでマッドに駆け寄る。
「マッド」
愛美がマッドに触れようとした瞬間、教会の扉が開いた。
「愛美ちゃん」
後ろから、夏目の声がして、振り向いた。すると、いつもの優しい表情ではなく、厳しい表情の夏目がそこには立っていた。
「夏目さん」
夏目に目線を一度向けたが、苦しむマッドをすぐにマッドを抱きしめるように、頭に手をかざした。すると、あの時と同じ、光が灯りマッドの頭痛を和らげていった。
マッドはあの時と同じように、眠りについた。
その様子を、夏目は不思議に思うことなく、見ていた。
「愛美ちゃんは、マッドの正体を知っているね。僕も知っているよ」
さっき、稽古中の会話の答えを夏目は答えた。そんな夏目を真っ直ぐ愛美も見ていた。
夏目は優しい男を演じながら、瞳の奥が笑っていないことを愛美は感じ取っていた。そして、夏目はさらに愛美に残酷な言葉を放つ。
「マッドに感情を持たせようとしないでほしい、マッドはその瞬間消えてしまう。人の感情を奪い、使命を果たせたらマッドは戻るべき場所へ戻らなければならない」
「戻るべき場所?」
「そうだよ、マッドはここにいるべき存在ではない」
強い口調で言い放つ夏目に、愛美は何も言えなくなった。
夏目がマッドを必要としていることがひしひしと伝わる。
そんな夏目の声が、マッドに聞こえたのかうっすら目を開けた。
「っ、夏目…」
マッドは、体を起こして夏目に向かう。フラつく身体を夏目は支えた。
「愛美にこれ以上余計なことを言わなくていい」
マッドは夏目にもたれかかりながら、耳元で囁いた。そんなマッドを夏目は複雑な表情で抱きしめるように背中をポンポンとした。
「はいはい、…それじゃあ、愛美ちゃん。またね」
「待ってください。マッドは、いったいどこから来た人なんですか?どうして、私の力を見ても、夏目さんは驚かないんですか?」
愛美は去ろうとする背中に、必死に畳み掛ける。
しかし、夏目は愛美を一瞥して何も言わずに再び前を向き、マッドを支えながら去っていった。
愛美も答えてくれない夏目に、これ以上かける言葉が見つからず、そのまま立ちすくんだ。
「マッドはここにいるべき存在じゃない?どういうこと?夏目さんは何者なの?」
愛美は一人、二人が去った扉を見つめていた。
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