第20話取り返したい感情

カヤはまもなく永眠した。


眠っているような穏やかな表情は、先ほどまでみんなが忙しくカヤの命を繋げるために動いていたことが、ずっと、昔のように感じさせる。


立ち会えたことは、良かったと言い合ったが、愛美の中で、悲しみがない分、ただ無感情で永眠したカヤを眺めていることしかできなかった。


「愛美、大丈夫だ。本当は悲しいよな。絶対取り返そう、お前の感情を」


瑛太は涙を拭き、愛美の肩に触れそういうと、愛美は頷いた。


なくなったのは、悲しみだけなのだろうか?

全ての感情がなくなっていないか不安に思ってしまう。でも、不安に感じれる自分がいるということは、まだ、全てではないと実感でき、安堵した。


それでも、大切な友人が亡くなり、無気力になった愛美は瑛太とカヤの両親と挨拶を交わし、これ以上一緒にいると、愛美の異変に気づかれそうで、早々に帰ることにした。


家に帰ってからも、自分の部屋に行く気力のない愛美は、リビングのソファーに寝そべった。


そんな無気力な愛美を心配そうに眺めながら、瑛太はコーヒーを淹れてテーブルに置いた。


「愛美」


「ああ、コーヒーありがとう」


愛美は重そうに身体を起こすと、少し茫然として、マグカップに手を伸ばした。


静寂が2人を包む。

気まずく感じているのは、瑛太だったが、考え込む愛美にかけてあげれる言葉が見つからなかった。


「私、今から学校行ってくる。もしかしたら、マッドが来るかもしれない」


愛美は、焦燥したような表情で呟いた。


「それなら、俺も…」


「今は、一人で行きたいの」


瑛太の言葉を遮るように言った。


「愛美…」


愛美は、すっと立ち上がり、ふらりと玄関へ向かった。


瑛太は、そのまま動けず、玄関が開き閉じる音だけ聞いていた。


「ほっとけるわけないだろ」


瑛太は愛美にバレぬよう少し時間を置いてから、家を出発した。



学校に着くと、愛美は教室ではなく教会へ向かった。


ここのほうが、マッドに会える気がして、扉を開けた。


しかし、誰もいない。


愛美はマリア像をまっすぐみながら、近づくとその場に跪いた。


「どうか、カヤを天国へ導いてください。そして、私に悲しみの感情を取り戻させてください」


「それは、マリア像にはできないお願いだな」


愛美はその声に驚き、振り返るとそこには、マッドが立っていた。


「マッド…、いつからここに?」


物音もなにも聞こえなかったことに、疑念を抱きながらも、愛美は立ち上がり、真っ直ぐマッドに向き合った。


「マッド…あなたに会いたかったわ。私の感情を返して欲しいの」


愛美の怒りのこもった真っ直ぐとした瞳を、マッドは嘲笑った。

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