第19話友人の死
あれから、マッドが学校に来ることがなく、瑛太も状況が掴めないままの日々が続いた。
学校の先生には不定期で参加するときき、毎回練習がマッドではないことを残念がる生徒たちはたくさんいる中、愛美にはそういった感情は一切湧いてこない。
これも、悲しみの感情がないせいだろうか。
「今日、マッドがきたらちゃんと連絡するんだぞ?」
それが、毎朝瑛太が愛美に言う言葉だ。
「はいはい、分かってますって」
愛美と瑛太は朝各自で支度をしていると、瑛太のケータイが鳴った。
ディスプレイをみると、美奈瀬という文字が映し出され、瑛太は何気なくその電話を出た。
「おはよ、美奈瀬?どうした?」
愛美も髪をセットしながら、ふと、瑛太の電話が気になり視線を送った。
「…えっ?カヤちゃんが?…ああ、わかった。すぐ行く」
カヤちゃん…
その言葉に、愛美も不安げに瑛太を見ていると、血相を変えて、瑛太は愛美に駆け寄った。
「愛美、今日は学校休め。カヤちゃんの容態が急変したらしい」
「えっ、急変?」
焦る瑛太とは裏腹に、悲しい感情がない愛美は、焦る気持ちがあっても、どうしたらいいのかわからない。
非常事態なのに、普通なら大切な友人が居なくなってしまうかもしれない現実が、怖くて悲しくて泣けて来るくせに、愛美には何も湧いてこない自分が嫌になった。
「悲しいはずでしょ?愛美」
愛美は鏡に映る自分に苛立ちながらそう呟き、何も感じない自分への嫌悪と一緒に、瑛太と一緒にタクシーで病院へと向かった。
病院へ着き、一目散にカヤの病室へ走って向かった愛美と瑛太は、大きな医療設備がカヤを囲み、医師と看護師の忙しさに、圧倒していた。
「瑛太、愛美ちゃん」
そこへ美奈瀬が何やら持ってきて、それをほかの看護師に渡した。
先に到着していた、カヤの両親が二人の元へ歩み寄ってきた。
「こんな、朝早くからありがとうございます。愛美ちゃん、カヤ、頑張ってるわ。近くで見ていて」
その言葉は、もう、このままカヤがいなくなることを予言しているようで、瑛太は涙をこぼしていた。
「カヤ…」
泣けない代わりに、愛美は抜け殻のように感情が読めなくなっていた。
カヤの母もよほどショックなのだと、愛美を見てさらに涙を流した。
しかし、愛美の心は、もやがかかったような、感覚だけで、涙は出てこない。悲しみたいのに、悲しいはずなのに、マッドに渡してしまった感情を、今更自分にとって必要な感情だということを痛感していた。
悲しい時に、悲しめない。それがどれほど惨めで、悔しいか、この時初めて知ったのだ。
「要らない感情なんてないんだ」
愛美がポツリと呟くと、瑛太と美奈瀬は愛美を気の毒そうにみると、視線を逸らした。本当は悲しんでいるのに、悲しめない愛美の姿をみて、また心が締め付けられた。
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