第17話疑念

「こんばんは、愛美ちゃん。さっきぶり」


明るく入ってきた美奈瀬に、愛美も笑顔で応えた。


「お疲れ様です!すっごくタイミング良いですね、今からちょうどご飯なんですよ」


「やったぁ、お腹ぺこぺこだったの。瑛太に連絡したのに返事来ないから、外食でも行っちゃったかと思ったよ」


美奈瀬は我が家のように、キッチン横にあるテーブルの椅子に座った。


愛美もソファーに座っていたが、美奈瀬の前の席に座り直した。


「ちょっと、兄妹で話し込んじゃって」


キッチンでは瑛太がパスタを茹でながら、ミートソースを作っていた。


「仲良しね」


「羨ましいか?」


そう言って、茶化すように笑う瑛太に、美奈瀬も安堵したような笑みで見つめた。


「はいはい、そんな兄妹の仲を割くようで悪いけど、お腹すいたー」


「もうすぐできるから、本当、急にきても普通はないからな」


慣れた手つきで、お皿にパスタを盛り付ける瑛太は、美奈瀬に一番に渡した。


「美味しそう、ありがとう、瑛太」


愛美も瑛太からパスタをもらい、三人の分がお皿がテーブルに並ぶと、三人で


「いただきます」


と、合わせて言うとそれぞれ食べ始めた。


他愛のない会話をしながらご飯を食べ、愛美の前に座る瑛太と美奈瀬の仲の良い雰囲気を見ながら、微笑ましく思えた。


両親がいない間宮家にとって、美奈瀬は気づいた時には瑛太と付き合っていて、愛美も美奈瀬が家にいることが、自然に感じていた。


「そろそろ私は部屋に戻ろっかな。美奈瀬さん、ごゆっくり」


「あら、もう戻るの?」


「ミュージカルの練習しなきゃ」


「そっか、また公演日教えてね。絶対行くから」


「はい、是非。ありがとうございます」



愛美は、自分の部屋へ戻っていった。


台本を見つめ、中を開いてみた。


しかし、練習に集中出来ない。


一人でベッドに仰向けになった愛美の脳裏には、マッドの姿がちらついていた。


その度に、鼓動が速くなり胸が苦しくなる。こんな気持ちをどこかで感じたことがあるような、初めて会った彼が、頭から離れないなんて、こんな状況に戸惑いながら、いつのまにか愛美は眠りについていった。



そのころ、瑛太と美奈瀬はお酒を飲みながら、真剣な表情で話しをしていた。


「それって、もしかして…」


「ああ、やっと姿見せてきたかもな。ついにアイツに近づいてきたか。しかも、悲しいという感情を取られちゃったらしくてさ、本当どんな技使う奴なんだよ…同じ姿はしていないかもしれないな…人のこと言えないけど」


瑛太の言葉に、美奈瀬は引き攣ったように瑛太の顔を見る。


「感情をとられたの?だから、愛美ちゃん今日様子がおかしかったの?姿が違うのは、下界にいるんだから当然よね。でも、感情を取るなんてなんてどんな意味があるのかしら」


瑛太はことの重大さに少し動揺しているのに対し、美奈瀬は冷静に現状分析をしていた。


瑛太と美奈瀬にとっては、ようやく探していた人物に会えるかもしれない。そして、その時平凡な世界が平凡でいられる保証がないことも、二人はよく知っていた。



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