第16話経路

瑛太は優しく、愛美の顔を覗き込んで尋ねた。


「どうした?話したくなった?」


そんな優しい瑛太に、愛美も逡巡しながらも話し始めた。


「私、学校のミュージカルで主役に選ばれたの。オーディションに合格したんだ。でもね、妬まれちゃって…」


「オーディション合格はおめでとう!努力した甲斐があったな。でも、妬みも付きまとうものだよな。みんな真剣に臨んできても、選ばれた人しかなれないんだからな」


瑛太も、妬みは難しい問題のようで、頭をかいた。愛美も小さく頷き、言葉を続けた。


「それで、私の相手の人が夏目さんっていう、脚本家の方が連れてきてくれた、マッドさんっていう役者さんで、凄く不思議な雰囲気の人で、私の破られた台本を元に戻してくれたり…」


愛美は一呼吸置いて、自分の違和感を瑛太に話した。


「私の、私のイジメられて悲しいっていう感情を取り除いてあげるって言われて…私、悲しいって感情なくなったかも…どうしよう、お兄ちゃん、私、カヤをみても悲しいって思わなかった。あんなにやせ細った姿みたのに、何も感じないの」


話しているうちに、段々と動揺が隠せなくなり、愛美は縋るように瑛太に、必死に現状を伝えると、瑛太は表情を歪ませた。


「そんな人間離れしたことが出来るなんて…」


瑛太の表情は驚くというよりも、冷静に問題を受け入れ分析しているように思えた。


あり得ない出来事のはずなのに、真剣に考えてくれる姿が、愛美を安心させた。


本当に、味方でいてくれる。そんな姿を見せてくれるだけで、心が救われた。


瑛太は愛美の両肩を掴み、愛美の目を見た。


「愛美、そのマッドに明日会わせてくれないか?」


「私の話、信じてくれるの?」


愛美は茫然と瑛太を見つめていると、瑛太は安心させるように、笑みを作った。


「妹の味方になれないで、警察官なんてやってられないよ」


「ありがとう、お兄ちゃん」


微笑んで頷いて見せる瑛太だが、只事ではない現実が、ついに動き出したかと警戒心が強くなった。


自分が、愛美を守らなければいけない。

昔たら、守っていたように…


平和ボケしていた現実から、自分たちの立場を全うしなければいけない時が来たのだ。



それから、瑛太は夕飯を作り始めた。

愛美もリビングで洗濯物を畳んだりと普段の日常を過ごしていた。


ピンポーン


そのとき、チャイムがなった。


ふと、瑛太が自分のスマホをみると、美奈瀬から連絡があったことを知った。


「やべ、美奈瀬からの連絡気づかなかった。早く終わったから今日から来るって」


そう言って、メッセージを愛美に見せた。


「本当だね」


瑛太は立ち上がり、玄関へ行った。


愛美も先ほどより、安堵した表情に戻り、美奈瀬を迎えた。

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