第14話消えた悲しみ
愛美はカヤが入院している病院へ行った。
最近のカヤは体調が悪く、いっても会えない場合が多かった。
今日だって、会える保証はない。
不安を抱えながらナースステーションの前に着いた。
「愛美ちゃん、待ってたわよ」
ナースステーションに寄ると、美奈瀬が愛美に気づき、笑顔で歩み寄った。愛美もその笑みに応えるように笑顔で会釈した。
「こんにちは、カヤの様子どうですか?」
美奈瀬は複雑そうに口元だけ微笑んで見せた。その表情で、本当にあまりよくないことを愛美は察した。
「そうね、今日は調子いい…かな」
「そうですか、ありがとうございます」
「ゆっくり、話してあげて」
優しい美奈瀬は、それだけ言うと仕事へ戻っていった。
そして、愛美はカヤの病室へ向かった。
ノックをすると、中から「はい」と、力無いカヤの声を聞いた愛美は、自分の中で違和感を感じた。
「カヤ、久しぶり!きたよ。体調どお?」
カヤは愛美の顔を見て、嬉しそうに笑顔になった。しかし、前よりも痩せた身体と生気の薄いカヤをみて…
なにも感じない自分に気づいた。
「愛美じゃない、最近来てくれてるのに会えなくてごめんね。看護師さんに来てくれてること聞いてさ、そーいえば、オーディションとかあるとか言ってたけど、どうだった?」
愛美の異変に気づくことなく、カヤは身体を起こして少し息を切らしながら話した。
愛美は、自分の異変に気づき、冷や汗をかきながらも、平然を装って、カヤと会話する。
「ああ、いいの。こうして今日は話せるんだし!オーディションは見事合格だよ、主役のアリアやることに決定」
違和感を打ち消すように、明るく元気の良い素振りをして言った。
「凄いじゃない!愛美のアリアみたいな。絶対綺麗だし、歌も上手いし」
弱々しいカヤの話し方に、何とも思わない…
そんな自分に変な焦りを感じた。
「観にきてよ、カヤ。私、頑張るから」
観に来れないそんなこと、分かっていた。
この痩せ細ってしまったカヤが、自分ではもう動けないことも。
それでも、望みがあるなら、言霊があるなら前向きな言葉を伝えたい。
「ありがとう、愛美」
愛美は、それから少し話すと、カヤの部屋をでた。
そして、またナースステーションに寄ると、美奈瀬に声をかけた。
「美奈瀬さん、帰りますね。お兄ちゃん、明日休みだからきっと、来てくれると喜びますよ」
普段から、瑛太が休みの時に美奈瀬と家で一緒に過ごすことが多かった。
愛美も本当の姉のように慕っている。
「そうなの?私も明日休みだから朝から行こうかな」
「待ってます。じゃあ、お仕事頑張ってください」
「ありがとう、じゃあ、気をつけてね」
こうして、愛美は帰宅していった。
誰にも言えない、自分の異変に気づかないフリをして。
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