第12話不思議な力
12時に合わせた懐中時計を台本の上に置くと、手品でも行うかのように、白いハンカチを上に被せると、その隙間から紫色の光が台本を包みむのが見えた。
「光が…どうなっているの?」
マッドは得意げに、光が消えると、ハンカチを取ってみせた。
そこには、ボロボロだった台本ではなく、もらいたての綺麗な状態の台本が置いてあった。
「そんな、こんなことあるなんて…」
愛美は驚愕しながらその台本を呆然と見つめていた。
そんな愛美をマッドは怪しげに微笑みながら見ていた。
「さあ、直りましたよ」
マッドは光が消えて、元に戻った台本を愛美に渡した。愛美は戸惑いながらも、その台本を手に取り、パラパラと中身を確認した。
何も変わらない、もらった時と同じ状態だった。落書きも綺麗に消えていて、本当に自分の台本が戻ったのだ。
何度も確認して、愛美は驚愕から悦びに変わっていき、笑顔になった。
「ありがとうございます」
愛美は笑顔でマッドにお礼を言った。
「どういたしまして」
マッドは、愛美の頬に触れると、愛美は一瞬で笑顔が消え、また、戸惑いの表情へ変わった。真っ直ぐ目を見ていると、自分じゃなくなってしまいそうな、感覚になり、愛美は急いで視線を逸らした。
しかし、マッドは目を逸らすことを許さないかのように、両手で愛美の頬を包むと、愛美も、もう一度、マッドに目を合わせた。
「あなたの悲しみを取り除いてあげたい」
その曇りのない声に、愛美はふとマッドの瞳をみると、霞んだピンクかかった瞳に、吸い込まれそうだった。
「悲しくなんか…」
愛美は身体がいうことをきいてくれなくなり、そのまま、マッドの瞳を見つめ続けた。
「こんな酷いことする者たちに、あなたが心を傷めることはない。悲しい、哀しいなんて感情を無くしてしまえば、あなたはもっと楽になる」
マッドの声は、催眠術でもかけているかのように、囁くように愛美の脳へと伝わっていく。
「悲しみを無くなったら、楽に…。そんなことできるの?」
愛美の中で、あのいじめっ子たちの顔が脳裏によぎる。自分より実力も努力もしないくせに、人を妬み陥れようとする。
そんな人たちに自分の心を傷つけられるなんて、不本意だ。
哀しいなんて思うことがなくなれば、自分はもっと自信をもって演技に集中出来るかもしれない。
愛美の中で、だんだん、哀しみなんて、悲しみに傷つく自分が消えてしまえばという思いに駆られていった。
その様子が、マッドには手に取るように伝わってきて、表面では優しそうな笑みを見せているが、心の中では勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
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