第9話初めての稽古
なんとか、セロハンテープを貼り終えると、急いで稽古室へ向かった。ついた途端にチャイムが鳴り、なんとか授業には間に合ったが愛美は、憂鬱でしかたなかった。
少し経つと、先生とマッドが入ってきて、初稽古がスタートした。
「あれ?間宮、もう台本ぐちゃぐちゃじゃないか。大切な物なのに、どうしてそんなふうにセロハンテープを…」
そんな先生の言葉に、周りの女子たちはニヤニヤと愛美を見ていた。
悔しい気持ちを押し殺しながら、愛美はただ謝ることしかできない。
「すみません、たくさんみていたら、破れてしまって…」
本当のことを言えない弱い自分が、愛美は嫌いだった。悔しいけれど、イジメられているなんて、知られたくないと思ってしまう。
そんな愛美をマッドは感情の読み取れない表情で見つめていた。
「それじゃあ見にくい。僕は暗記してるからこれをみるといい」
無表情でマッドは自分の台本を愛美に渡した。
「いいんですか?」
「とりあえず、今日はね」
心の読めない人だけど、マッドの優しさが嬉しくて、愛美は微笑んだ。
「ありがとうございます」
そんなやりとりを、生徒たちは悔しそうに見つめていた。
練習が始まると、空気は一変する。
普段はそんなに厳しくない担任も、舞台稽古となると、かなり厳しくなる。
それでも、愛美には誰にも負けない演技と歌唱力があった。選ばれた理由を自負できる、愛美は夏目の褒め言葉を胸に秘め演じ切った。
マッドもまた、ルシファー役とあって、謎が多く、神秘的な人物として描かれているため、演じているようで、素で演技に参加することができた。
夏目の書いた作品は、アリアと恋に落ちるルシファーの物語だった。お城のベランダで月明かりに照らされ、歌を歌うアリアに、一目惚れしたルシファー。
そんなルシファーの片思いから始まり、二人が初めて言葉を交わしたのは、失楽園と楽園を結ぶ森だった。
内戦で負傷したルシファーは、森へ行き一人負傷していることを、内密にしたまま、木陰にもたれるように座っていると、アリアの歌声が聞こえてきた。
その声はやがてルシファーに近づき、アリアとルシファーは初めて目があった。アリアはルシファーの怪我に気づき、すぐさま自分の手を翳し、ルシファーの傷を癒していった。
アリアの持つ不思議な力は、傷を癒せることと、人に感情を与えることだった。アダムとイブが追放される前に、唯一楽園に残していったモノ、それが、アリアだった。
ゼウスは罪人の子供だと言い、失楽園へ追放しようとした。しかし、そんなアリアを助けるように面倒を見ると名乗り出たのが大天使ミカエルだった。
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