第8話イジメ

愛美が教室に入り、稽古のため台本を机の中から探していると、なかなか見つからなかった。


愛美は一気に血の気が引いた。


「クスクスクス…」


周りの女子たちの嫌な視線が突き刺さり、愛美は慌ててゴミ箱の中を覗くと、無残に切り刻まれた台本が捨ててあった。


愛美はその無残な姿になった台本を拾いあげた。落書きと切り刻まれた台本に、絶望に打ちひしがれる。


愛美は憤りと悲しみが混ざり合い、涙が溢れてきた。そして、その首謀者には検討がつく、愛美は真っ直ぐその本人である亜香里の前に立ちはだかった。


「あんたね、どうしてこんなことするの?」


泣きながら、そういう愛美に、亜香里は蔑むような表情を愛美に向けた。


「そんなの、私がやったって証拠あるの?すぐに人を疑うなんて、ありえない」


その言葉に、周りの群がる女子たちも笑い出す。


「そうそう、コネで主役勝ち取るあばずれさんは、敵ばかりじゃないの?」


「コネ?どうゆう意味?」


愛美は、涙を止め周りの女子たちの顔を見まわす。ここには敵しかいない。亜香里だけが犯人ではなく、ここにいるみんなが犯人なのだと悟った。


そんな愛美に、亜香里は詰め寄り、冷たい目で愛美に言い放つ。


「あんた、夏目さんのお気に入りだもんね。昼休みよくご飯食べながら一緒にいること、知らないとでも思った?」


愛美の中で、先程一緒にいた夏目の顔が思い浮かんだ。


誰も見ていないと思っていた教会、確かに、校内にあるのだから、誰に見られてもおかしくはない。


しかし、夏目といることが、彼女たちの反感を買うことになるなんて、思いもしなかったのだ。


「それは、たまたま夏目さんもチャペルに来るだけで、やましいことなんてないわ」


「どうだかね?おとなしいくせに、自分の利益になる男のことは知ってるんじゃないの?」


「でなきゃ、あんたが主役になんて、なれるわけないじゃない」


「卑怯者」


次々と飛んでくる野次に、愛美は哀しくてこれ以上何も言えなくなった。


こんな人たちとじゃ、素敵な脚本も台無しだ。


「こんなガキくさいことするようなあんたたちより、私は努力してるわ。妬むなら演技で勝負しに来なさいよ」


愛美は言い捨てるように、ボロボロの脚本を持って教室から出ていった。


彼女たちの嫉妬した目線に、これ以上反論しても無意味だと悟った。


この先、どうやって素敵な舞台を作り上げたらいいのだろう。


愛美は悩みもがきながら、誰もいないベンチに座った。


セロハンテープで刻まれた台本の修復を行いながらも、切られたところは繋ぎ合わせれても、落書きされたところは、もう文字も浮かんでこない。


絶望だ。

今日もらったばかりの脚本なのに…

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