第14話 魔物への転生

「はあはあ……えいっ!」

フローラは持っているメイスで、出てくるミミズのようなモンスターを必死になって倒している。

さすが勇者バーティの一人だけあって、純粋な戦闘力もそこそこ期待できた。

「頑張れ。さすが聖戦士だ!」

そして俺は彼女の後ろで応援しているだけで、戦いには加わらない。たまに手持ちの回復ポーションを与えてるだけだった。

「あの……ルピンも戦って欲しいんだけど……」

最初は助けにきた俺に感謝していたフローラだったが、だんだん戦わない俺にイライラしてきたのかそう要求してきた。

「え?なんで?」

「なんでって……あなた男でしょ?私を守ってよ!」

フローラは八つ当たり気味に言うが、もちろんそんな要求にこたえるつもりはない。

「だって俺って勇者パーティを追放された無能で無力な転移士だし」

俺はそういって、断固として戦いを拒んでいた。

『くっ……あなたって、やっぱり無能ね」

「よくいうぜ。その無能に何度助けられたんだ?お前が危機になる度に、俺が「転移」で逃がしてやったはずだぞ」

俺がそう返すと、フローラは黙り込んだ。

「逃げられないって辛い状況だよな。あー、俺の力さえ使えれば、こんなところからすぐに脱出できるんだけどなーー」

チラチラとフローラを見ながら煽ってやったら、彼女の怒りが爆発した。

「もういいわ!回復ポーションちょうだい!」

「残念だけどさっきので終わりだ」

俺は道具袋を開けて、中が空であることをみせてやった。

「なんでもっと持ってきてなかったのよ。使えないわね!あんたなんかに頼った私がバカだった」

そういい捨てると、俺をおいて先に進もうとする。

ついていこうとすると、拒絶された。

「こないで!役立たずのアンタなんか守っていられないのよ!」

「おいおい、さっき言ったことを思い出してみろ。散々俺に頼っておきながら、使えなくなるとポイ捨てするのか?」

俺はフローラの手のひら返しを攻めるが、彼女はプイッと顔を背けて先にいってしまった。

「あーあ。このダンジョンで俺を守りながら出口までいけたら、許してやろうと思っていたのに、もうだめだな。あばよフローラ。お前にはふさわしい末路が待っているだろうぜ」

俺はそうつぶやくと、罪人ダンジョンから転移して天空城に戻った。



「はぁ……はぁ……」

天空城の「観察オーブ」には、ボロボロになりながらもダンジョンを進んでいるフローラの姿が映っている。本人は気づいていないが、その姿は先へ進めば進むほど変化していった。

「ここはいったいどのへんなのかしら……早く出たい。喉が渇いた」

フローラは独り言をつぶやきながら進んでいく。その皮膚が少しずつ溶け、変異していっていた。

「あのダンジョンは、生物を変化させる機能がついているんだ。底までつくころには、どうなっているだろうな」

俺はフローラが変貌していくのを、高みの見物としゃれこむのだった。

そして数時間後、ついにフローラは最深部にたどり着く。そこは大きな唇のような裂け目が広がっていた。

「つ、ついた……これでこのダンジョンから脱出できる」

フローラは何のためらいもなく、裂け目に飛び込んでいく。もにゅもにゅ、ねちねちゃと音をたてながら、フローラの体は外に排出されていった。


王都

どこともしれぬ路地の奥に、一人の生き物が倒れていた。

その目が開き、胸いっぱいに空気を吸い込む。

「あ、あはは……出られたんだ!やったわ!あははははは!」

狂ったような笑い声を上げながら、大通りに飛び出す。

その途端、周囲の通行人は顔をしかめた。

「あれはなんだ?モンスターか?」

「化け物!」

「臭い!」

周囲の人間は鼻をつまみ、目を背けた。

「騎士隊を呼べ!」

たちまち大騒ぎになり、屈強な騎士がやってくる。

「そこの不審者、おとなしく縛につけ!」

騎士たちから槍をつきつけられ、女ーフローラは憤慨した。

「無礼な!私は聖戦士の一人、フローラです」

「フローラ様だと?ふざけるな。あのお方は天空人の血を引いているだけあって、美しく可愛らしい。お前のような化け物など、その名を口にするのも穢れるわ!」

「なっ!」

騎士たちからは本気の殺気を感じ、フローラは慌てて逃げ出す。

「追え!」

フローラは追いかけてくる騎士から必死に逃げ回るのだった。

「はあ……はあ……どうやら逃げ切ったようです」

スラム街の奥、王都から出たゴミを捨てる場所で、フローラはやっと一息つく。

ゴミの中に身を隠すことで、ようやくやりすごすことができたのである。

「ですが、どうして私のことが分からなかったのかな……」

疑問に思ったフローラだったが、ふと足元を見ると割れた手鏡が落ちていた。

「もしかして……身なりを整えてなかったから?」

そう思ったフローラは、割れた手鏡に自分の顔を映してみる。

「キャアアアアア!」

ゴミ捨て場にフローラの絶叫が響き渡る。鏡に映ったのは、全員の皮膚が醜く爛れた化け物そのものだった。

「いやぁぁぁぁぁ!」

絶叫するフローラに、天空からルピンの声が響く。

『魔物への転生おめでとう。お前が変貌したモンスターは「グール」というアンデットの一種だ。何をしても死なないし、何を食べても満たされることはない。永遠の人生を楽しんでくれ。いや、魔物生かな?」

「いや!助けて!」

フローラは天を拝んで謝罪するが、ルピンの声は遠ざかっていった。



「さて……フローラはどうしているかな?」

数日後、「観察オーブ」を覗くと、ゴミ捨て場で生ゴミを食べ、ぼろきれに包まって眠るフローラの姿が映し出された。

たまに顔と体を隠して大通りで乞食をやっているようだが、顔を出さないせいでうまく同情を誘えず、苦労しているらしい。おまけに全身から臭い匂いを発しているので、誰からも嫌われて相手にされなかった。

「聖女とよばれた女があの有様か。みじめなもんだな」

俺はフローラへの関心を無くすと、観察のオーブで地上を見る。

旧教会は慌てて奴隷聖人や民間から奴隷にされた天空人の子を買い戻し、聖都エルサレムに送り込んでいた。

彼らはエルサレムの教会で新たな洗礼を受けると、治療魔法が使えるようになる。その後、再び全世界に派遣されていった。

「旧教会は新たに治療魔法を使えるようになった天空人の子たちを、神官に任命することで権威を保とうとしているみたいだが、奴隷にされた彼らがおとなしく従うはずはない。黙っていても、いずれ教会は「新教会」に統一される。つまり、かれらを通じて俺は世界を支配できるな」

計画が順調に進んでいることを知り、俺は満足する。

「さて、次の復讐対象は誰にするかな?」

俺は天空城から王都の勇者パーティを見下ろし、奴らの出方をうかがった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る