第13話 罪人ダンジョン
王城
冷たい目をした王が、目の前に平伏しているフローラの前に轟然と座っている。その後ろには黒い翼を持つ神官たちがいた。
フローラがやってくると、王は冷たい目で彼女を睨んだ。
「新教の神官殿から聞いた。聖女フローラよ。貴様のせいで世界は混乱しておるそうだな。何か申し開きはあるか?」
「わ、私のせいとはどういうことでしょうか?」
フローラは震えながらも、気丈に言い返した。
そのとき、王の後ろにいた黒い翼を持つ神官たちが出てきて、冷たく告げる。
「貴様が新たな天空王の怒りを買ったせいで、世界から治療魔法が消えたのだ」
「誤解です!ルピンは私を助けてくれました」
フローラは必死に教皇たちに捕らえられたときに、ルピンによって助けられたことを説明する。
それを聞いた国王はため息をついて首を振った。
「では、新たな天空王は怒っていないといいたいのか?」
「そうです!ルピンは未だに私を愛しているはずです」
奇妙な自信をもって断言する彼女に疑いをもつ王だったが、万一本当だった場合彼女を処分したらよけいにルピンの恨みを買ってしまう恐れがある。
どう処分するか頭を悩ませる王の耳元で、黒い翼を持つ神官がささやく。
それを聞いた王はほっとした表情を浮かべた。
「では、お前に命じる。ここから北にいったダンジョンに、何の魔法もこめられてない透明なオーブがあると聞く。しかし、そこには血に飢えたグール共が生息しているので、誰も近寄らないらしい」
それを聞いているうちに、フローラの顔色が悪くなっていく。
「ま、まさか?」
「そうじゃ。お前はそこにいって透明なオーブを持ち帰れ。それを手に入れたら、あらたな治療魔法の根幹となるオーブを作り出されるであろう。ただし、勇者や聖戦士は魔王に対する備えとして動かせぬ。お前一人でいくがいい」
「そんな!せめて勇者パーティ全員でくことをお許しください」
フローラは必死に訴えるが、、勇者ウェイとほかの二人も首を振った。
「フローラ。天空王に愛された君なら穢れたグール共も近寄ってこないだろう。がんばれよ」
「聖女様。がんばれ」
「ご武運お祈りしますわ」
他の二人も冷たく顔をそむける。
フローラは勇者たちに見捨てられたことを知り、絶望するのだった。
彼女は王の前から引きずり出され、黒い羽を持った神官たちに引き渡される。
そのまま縛り上げられ、王都の北にあるダンジョンにつれてこられた。
「ここは貴様を罰するための『罪人ダンジョン』だ。中に入ってあの方のありがたみを実感するがいい。万が一あの方が許してくれるなら、命だけは助かるだろう」
「まって!誤解なの!ルピンは私の恋人なの!」
わめくフローラだったが、相手にされずにダンジョンにつながる魔方陣に放り込まれてしまった。
罪人ダンジョンとは、この世界を支配している天空人に対する冒涜行為を行った罪人を収監するためのダンジョンである。
天空人が地上人への試練として作ったほかのダンジョンと違い、一切の宝箱などもなく、出てくるモンスターも制御が利かない失敗作ばかりである。
その最新部のボスを倒せば、いかなる罪も許されるとされているが、今までクリアした者なといなかった。
そんな危険な場所に、フローラは転移させられていた。
天空城でそれを見ていた俺は、フローラの末路を近くで眺めるために罪人ダンジョンに転移した。
「なんとも悪趣味なところだな」
俺はダンジョンの壁に手をふれてつぶやく。壁は岩や土ではなく、ピンク色の肉の塊でできていた。
「さて……フローラはどうしているかな」
辺りの気配を探りながら進んでいくと、地面に一人の美少女が倒れていた。
「おい……大丈夫か?」
俺が回復ポーションを与えてやると、美少女ーフローラはうっすらと目を明けた。
「うっ……ルピンなの?」
「ああ。フローラが罪人ダンジョンに落とされたと聞いて、助けにきたんだ。ごめんな。何か誤解があったみたいだ」
俺がそういってやると、フローラは涙を流してすがりついてきた。
「ありがとう!お願い!ここから連れ出して!」
「そうしてやりたいが、この中では転移魔法は封じられているみたいだ。底まで行って脱出するしかない」
俺はフローラに手を差し伸べると、立ち上がらせる。
「いこう。底までいけば脱出できるはずだ」
フローラは藁にもすがる思いで、俺の手をとるのだった。
薄暗い罪人ダンジョンを二人で進んでいくと、フローラが緊張に耐えられなくなったのか話しかけてきた。
「ここから出たら、私を見捨てた王や勇者に復讐してやるわ!」
「復讐って……お前の恋人だろう?」
俺が意地悪く突っ込むと、フローラはばつの悪そうな顔をした。
「あ、あの、ごめんね。勇者にだまされていたの。あなたは悪くないのに、追放なんてして」
「全くだぜ。婚約破棄の上に俺を振ってウェイの愛人になるとはな。しかも王と一緒になって俺を処刑しようとした」
俺が指摘すると、フローラは真っ赤な顔をして謝ってきた。
「ご、ごめん。私は自分が天空人の血を引いていると知って、つい思い上がっちゃったの。地上人のあなたは私にふさわしくない、ウェイこそが私の恋人にふさわしいって」
「ほう……?そんなお前が、なんでウェイと離れて行動しているんだ?」
意地悪く聞いてやると、フローラは怒りの表情を浮かべた。
「治療魔法が使えなくなると、あいつらは私を追い出したの。無能な奴はいらないって。勝手なやつらよね。今まで散々私に頼っていたくせに、用がなくなるとポイ捨てするなんて」
「……お前は奴らと違うといいたいのかな?」
それはそのまま俺を見捨てたフローラにも当てはまることを指摘してやると、彼女は慌てて謝ってきた。
「本当にごめん。私は目が覚めたの。どんな時にも私を見捨てない本当のパートナーはあなただけだって。ここから出たら、二人で一緒に幸せになろう!」
「その言葉が本心であることを祈っているよ」
俺は皮肉たっぷりに笑ってやった。
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