第4話 天空城制圧
意外なことに、天空城の扉は開いていた。
一人の翼が生えた美少女が、びくびくしながら俺を迎えた。
「い、いらっしゃいませ。魔王を倒されたルピン様でございますね。私は天使ルイと申します」
「ほう。知っていたか」
「も、門番たちの無礼をお許しください。あなた様のことをお伝えする前に、彼らが勝手に誤解して暴走したのです」
ルイは言い訳しながら、俺を天空城に招きいれる。通路に整列した神兵たちからは憎しみの視線を向けられ、その後ろで天使たちがヒソヒソと俺のことを話し合っていた。
玉座の間に入ると、年取った爺さんが玉座に座っていた。
「よ、良くぞ来た。魔王を倒した者よ。さあ、前に進み出て、ひざまずくがいい」
俺はそれにしたがって一歩足を踏み出すと、いきなり後ろを振り向いて、ついてきていたルイに手を触れた。
「『転移』」
「ふえっ?」
ルイの姿が消え、玉座の目の前に現れる。次の瞬間、床に魔方陣が広がり、ルノーを拘束した。
「ふええん。これはどういうことでしょうか?うごけませーん」
ルイは情けない声を上げる。
その様子を見て、天空王が吐き捨てた。
「無能な天使め。こいつを罠に誘い込むこともできぬとは!こうなれば力づくじゃ!者ども、この汚らわしい人間を殺せ!」
同時に、殺気だった神兵たちがなだれ込んでくる。
「いいねぇ。さあ、パーティをはじめようか!」
俺は両手の掌に、意識を集中されて無数の転移球を作り出した。
「ひとり!」
俺がはじいた一粒の転移球が、一番前にいた兵士の頭を貫く。
「10人!」
10本の指先から出た転移球が、高速の弾丸として神兵たちをなぎ倒す。
さずかに神兵たちがひるんだ隙に、俺は玉座に座る天空王の後ろに転移していた。
「ひ、ひいっ!」
あわてて立ち上がろうとする王のうなじをつかむ。
「動くな!動くとこのジジイの命はねえぞ!」
俺の脅しを聞いた神兵たちは、悔しそうに動きを止めた。
「くっ……卑怯者め!」
ひげを生やした将軍が悔しがるが、俺の知ったことではない。
「ま、待て……何が望みだ!」
俺に生殺与奪のすべてを握られた天空王は、情けない声を上げた。
『望み……俺の望みか。とりあえずはお前たちに復讐することだな」
俺がおどけた声でいうと、王は情けない声で懐柔にかかった。
「ふ、復讐だと?お前を天空城に入城させなかったことを怒っておるのか?な、なら、特別にお前にも天空人としての資格を与えてやるから……」
「バカかてめえは。その程度で俺の気持ちが収まるかよ。勇者を崇めた王都の人間たちも、それを煽った王侯貴族たちも、勇者を生み出したお前たち天空人もすべて責任をとってもらわないと、俺の気が晴れないんでな」
俺は片手を上げると、全身から黒い魔力が立ち上る
「な、何をするつもりじゃ!」
「お前たち天空人は、この天空界にいるかぎり、この天使の輪のヒーリング効果で永遠に生きられるらしいな」
俺は天空王の頭の上で輝いている黄金の輪を奪い、自分の頭の上に乗せる。
すると、輪から強烈な治療魔法が発せられ、俺が今まで負った古傷をすべて治してくれた。
「か……かえせ。それは天空人の証なのじゃ」
聖輪を奪われた天空王は、だたの無力な爺さんとなって絶望のうめき声をあげる。
「あばよ。せいぜい残りすくない余生を地上で苦しみながら生きるがいい。「転移」」
俺の声とともに、天空王の姿が消えていった。
「そんな!王が人間などに!」
「天空王とは、この世界の秩序を守る神だぞ!貴様はなんと言う不敬なことをするのだ!」
神兵や天使たちが騒ぎたてるが、うざったいとしか思えない。
「うるせえ!手前ら全員消えちまえ!広範囲転移魔法『オクルーア』」
俺を中心として、巨大な黒い球が生まれる。その球は天空界のすべてを飲み込み、天空人たちを一人残らず地上に送る。天空城の床には、消された天空人たちの聖輪が転がるのだった。
俺は空になった城で、玉座に座って回りを睥睨する。
こうして、俺は新たな天空王になったのだった。
「さて。俺が天空王になったわけだが。これがどうしようかな?」
玉座に座ってこれからのことを考えると、地上の光景が脳裏に流れ込んできた。
「勇者さまーー!」
民にあがめられ、すっかり調子に乗っているウェイたち勇者パーティ。彼らは英気を養うといって、王都で遊んで暮らしていた。
彼らの楽しそうな声。そして勇者をあがめる声を聞いていると、心にどす黒い思いがわき上がってくる。
「いい気になりやがって。勇者もやつらをあがめた奴らも、どいつもこいつも破滅させてやる」
天空王になった俺は、早速俺を迫害した者たちへの復讐を始めることにした。
手始めに天空城を動かしてみることにする。
「ほら!さっさと案内しろ!」
「ふええん。わかりましたぁ」
天空人の中でただ一人だけ残ったルイを脅しつけて、天空城を案内させる。
巨大な城の地下には、「天空のオーブ」制御室」と書かれた看板が掲げられた部屋があった。
伝説によると、「魔法」とは天空人から地上人に与えられた技術だという。
世界の各都市に魔法を強化するオーブがあり、それほ独占している教会や国が権力を振るっていた。
そして唯一、天空城に残されているの輝きを放つ巨大な玉である。
「これが『天空のオーブ』か。この天空界を地上から浮き上がらせている伝説の宝。なるほど、綺麗なものだな」
城の奥の台座には、虹色に輝く宝玉が安置されて、ふわふわと浮いていた。
高価そうだな。売ったらいくらになるんだろう。
オーブに触れてみると、大空に浮かぶ島である天空界の動かし方や、地上の気象をコントロールする方法が伝わってきた。
「なるほど。これを使えば、雨を降らすことも日照りにすることも可能というわけだ」
魔族出現前は、神様に祈ると雨が降ったり気温が暖かくなったりといった奇跡が起こることもあったという。それで農作物を豊作にしたりして、信仰を集めていたんだろうな。
俺はゆっくりと天空城を見て回る。ある部屋では金属製のゴーレムが大量に待機していたり、また別の部屋では見覚えがある魔物たちが透明なカプセルに入れられていた。
「これは、魔族の手下として人間を襲っていた魔物たちか。ここで造られた魔物を地上に送り込んでいたんだな」
改めて俺は天空人たちの所業に怒りを感じる。
「これもすべて、人間の天敵を作って、信仰を集めるためか。何が天空城だ。ここは魔王城よりタチが悪いぜ。人間の真の敵は天空人だったか」
やっぱり奴らを追放してよかった。この城こそが諸悪の根源だったんだな。
「俺がやつらを地上に追放することで、人間は救われた……はずなのに。どうして嬉しいと思わないんだろうか」
確かに人間は救われた。だが、そもそも救う価値などあったのだろうか。天空人たちとその手下となった教会に乗せられたとはいえ、勇者たちを崇めて俺を貶めたのは人間なのだ。
「決めた。俺を逃げるだけの無能と馬鹿にした人間たちから、『魔法』を取り上げてやろう」
今の世界は魔法によって成り立っている。それがなくなれば、地上人、特に魔力がつよい貴族たちほど困るに違いない。
そうやって彼らを苦しめた後、俺に従う者だけに魔法の力を分け与えてやるようにすれば、世界は俺のものになるだろう。
「待っていろよ。人間たちめ」
そういって笑う俺を、ルノーは恐怖の目で見つめていた。
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