第3話 魔王殺害

魔王城

魔王バラストは、玉座に座って勇者との戦いで負った傷を癒していた。すでに巨大な化け物から、黒い翼の生えた貴公子の姿に戻っている。

「ふふ……勇者め。逃げるとは情けない。まあよい。次にきた時が奴らの最後……ん?」

いきなり玉座の後ろに気配を感じて、さすがの魔王もギョッとする。

振り向くと、勇者パーティの仲間で戦いには加わらなかった少年が立っていた。確かルピンとかいった、無能なただの人間だ。

「お前は?なぜここにきた?」

その問いに答えず、ルピンはいきなり「聖生水の雫」を魔王にふりかける。

魔王を包んでいた「闇のオーラ」がはじけとび、魔法がつうじるようになった。

「よし。『転移』」

俺は魔王が身構えるより早く、やつの背中に手を触れて転移する。あっさりと魔法が通じて、いきなり俺たちの周囲の光景が変わった。

「こ、ここは……まさか……」

魔王はそのうめき声をあげる。白い雲が広がる神々しい景色で、はるか先に光り輝く城が見える。

そう、ここははるか空のかなたに浮かぶ城、天空城の入り口だった。

「ぐぅぅぅぅ……」

聖なる力が伝わってきて、魔王の邪悪な魔力を押さえ込んでいく。魔王は力なく雲の上にへたり込んだ。

「思ったとおりだな。ここの門番がえっらそうに「ここは聖なる城、邪悪なる者は入れぬ」なーんていうから、魔王であるあんたを連れてきたら弱体化すると思った」

俺はニヤニヤと笑いながら、魔王の後ろに回りこむ。その背中に生えた黒い翼に向けて、残った「聖生水の雫』をぶちまけた。

「ぎゃああああああ!」

さすが伝説の聖水。魔王の翼を綺麗に溶かしていく。

翼をなくしてただの人間のような姿になった魔王は、怒りの表情を浮かべて変身しようとした。

「魔装変身……ばかな!なぜ本来の姿に戻れない!」

あわてる魔王を、俺はあざ笑う。

「ここをどこだと思っているんだ。聖なる結界が張られた天空界だぞ。今のてめえは変身どころか、人間と大差ない状態だ」

「ぐぬぬぬ……」

歯軋りして悔しがる魔王を、俺は蹴り飛ばす。雲の端までころがっていって、落ちそうになった。

魔王はかろうじて雲をつかみ、転落を防ぐ。

「ぐっ……落ちる!余を助けろ。そうしたら、世界の半分をやろう」

「残念だが、俺は世界なんかに興味ないんでな」

必死に雲をつかんでいる手を、容赦なく踏みつけてやった。

「や、やめろ!この高さから落ちたら……」

「普通に転落死するだろうな。よかったじゃねえか。魔王が雲から落ちて死ぬって聞いたこともないぜ。ずっと間抜けな魔王として伝説にのこるかもな」

俺がギリギリと足を踏みつけてやったら、魔王は命乞いを始めた。

「待ってくれ!命だけは助けてくれ!」

「白々しい。そうやって命乞いする人間を、お前たち魔族は何人殺したんだ」

俺が鼻で笑うと、魔王は弁解を始めた。

「ち、ちがう。誤解なんだ!俺たち魔族がお前たち人間を迫害していたのは、すべて天空王の命令なんだ!」

魔王は泣きながら弁解を始める。

それによると、魔族とは犯罪を犯して天空界を追放された元天空人で、罪滅ぼしとして人間を迫害していたとのことだった。

「意味がわからん。なんで人間を迫害することが罪滅ぼしになるんだ?」

「魔族が人間を迫害すればするほど、彼らは助けを求めて天空界に祈りを捧げる。その祈りが魔力となって、天空界を支える力になるんだ。あとは頃合を見て、天空人の血を引く勇者や聖戦士を作り上げ、彼らに魔王を倒させる。すると、よりいっそうの信仰が集まるというわけだ」

それを聞いて、俺はさらなる怒りに震える。人間を何だとおもっているんだ。それじゃマッチポンプじゃねえか。

どうりで勇者がどんなに傲慢な振る舞いをして、俺を迫害しても教会も天空王も見てみぬふりをするわけだぜ。

「てめえら……許せねえ。人間をバカにしやがって」

「た、頼む。許してくれ!そ、そうだ。お前が新たな魔王になればいい!俺はお前の部下になるから!」

魔王は必死に命乞いをするが、もはや俺は相手にするつもりもなかった。

「じゃあな」

俺は容赦なく、魔王の手を踏みつける。

魔王は悲鳴を上げて、はるか下の地面に落下していった。



「ギャアアアアア」

魔王は叫び声をあげて落下していく。やがて断末魔の声が聞こえてきた。

「あばよ。まぬけな魔王め」

しばらすると、俺のカラダに強大な魔力が流れ込んできた。

「これが魔王の力か……悪くないな」

魔物を倒せば、その魔力は倒した者の体に宿り能力を強化する。それが魔王なら、莫大なレベルアップを果たすことができた。

「よし。試してみよう。『高速転移』」

その場で転移を繰り返してみる。まるで超スピードを手にいれたように、視界の範囲なら好きな場所に自由自在に転移できた。

「次に『転移』の力を掌に貯めて……撃つ!」

俺の掌から発せられた黒い玉は、天空城を支える白い雲の一部を切り取り、世界のどこかに転移させた。

何度も試してみると、だんだんコツをつかんでくる。砂粒ほどの

玉を大量に作ることもできるようになった。

『よし。これを転送魔法『オクル』と名づけよう」

俺が練習していると、天空城から殺気立った神兵がやってきた。

「き、貴様は?確か勇者様の転移士。なぜ貴様のような人間が、この聖なる天空界にいるのだ?」

俺を見かけるなり、上から目線で詰問してくる。

「先ほど、魔王の邪悪な波動が感じられたのだが、もしや……貴様が連れてきたのではあるまいな」

神兵が聖剣を突きつけてくるので、俺は言ってやった。

「ああ、そうだぜ。だけどな……」

「貴様!魔王に寝返ったか!天誅!」

問答無用で切りかかってくる。

「はあ……仕方ないか」

俺は10本の指先に『転送』の力をこめて黒い玉を作る。それを神兵に向けて放つのだった。

転移の玉は何の抵抗もなく分厚い鎧を着ている神兵たちの体を抉り取り、黒い穴を開ける。

血しぶきが舞い、神兵たちは一瞬で倒れた。

「な、なぜだ……勇者でもないただの人間が、天空人たる我々を!」

俺の周りには、どてっ腹にあいた小さな穴から血を流して倒れている神兵たちが喚くのを、気持ちよく見下す。

俺の魔法「オクル」は砂粒ほどの大きさながら、装備なと全く無視して体を貫き、神兵たちに致命傷を与えることができていた。

「神の兵と威張っていてもこの程度か。人間以下だな」

俺は冷たく笑い、とどめをさしていく。

彼らを倒したことで、さらに自分の魔力が跳ね上がるのを感じた。

「待てよ。この力があれば、地上だけでなく天空城も支配できるのでは?」

俺は今までの扱いを思い出す。天空人の血を引いてないというだけで、だたの移動道具として扱われ、入城すら許されなかった。

俺を人間だからという理由で、馬鹿にして嘲り笑った。

そもそも堕天した天空人が、魔族として人間を苦しめていたのである

「奴ら、思い上がった天空人たちにも思い知らせてやらないとな」

俺はゆっくりと門に向かって歩く。

天空界を守る巨大な門はすでに閉じられ、俺を拒んでいた。


「『オクル』」

転移の力を玉にこめて、門に向かって打つ。

聖なる力に守られた門は、あっけなく大穴が開いた。

「きゃああああああ!」

「魔王がせめてきた!にげろ!」

門に入ると、翼が生え、頭に輪をのせた一般市民たちが叫び声を上げて逃げ回っている。

しかし、初めてみたけど煌びやかな町だな。あちこち黄金や宝石で飾りたてられていて、住人たちの服装もきれいなものだ。

それらはすべて地上から捧げられたものである。

天空人の配下となっている教会は、何かと理由をつけて地上人たちに信仰と寄付を募り、天空界に貢いでいたのだ。

地上では魔王の侵攻で多くの人間が故郷を失い、塗炭の苦しみにあえいでいたのに、天空人というだけでこいつらは贅沢な暮らしを楽しんでいたんだ。それも地上人たちの犠牲の上に胡坐をかいて。

ムカついたんで、転送術で目に付いた住人を消していく。

「な、なに?私たちの体が消えていく……」

綺麗な服を着た美男美女は、頭の輪だけを残して俺の魔法で地上に戻されていった。

これでお前たちも地上の民の一人だ。無一文で放り出されてさぞかし苦労するだろうが、頑張れよ。

「さて、次は天空城だな。まっていろよ糞天空王」

俺は町を通り過ぎ、いよいよ本丸である天空城に乗り込んだ。

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