第124話 再び相まみえる強敵
『さあ、第一走者がスタート位置に着きました!』
一番内側の第一レーンに俺、第二レーンに
俺は実行委員として体育祭を成功させたいし、体育祭を壊そうとしている奴は風紀委員会と協力して捕まえたい。しかしそれと同じくらいか、あるいはそれ以上に、二年B組の一人として優勝したいと思っている。
俺の出場する個人競技はこの障害物競走だけ。一点でも多く取るために、絶対に負けられない。
「志那都様ー! 頑張ってー!!」
「志那都様が走るわよ! みんな、カメラを構えて!」
「きゃー! こっち向いた!」
生徒用テントが並ぶ一角からものすごく黄色い歓声が飛んでくる。その数と声量は、もはや黄色を越えて黄金だ。黄金の声援だ。
流石は志那都を愛してやまない
「大丈夫だいじょーぶ。
そんな中でも、俺を応援してくれる声が聞こえる。いろんな声にかき消されて他の人には聞こえてないだろうけど、俺にはハッキリ聞こえた。何なら、すぐ近くから聞こえる気がする。
「打倒2位だよ! 目指せ一着! ふぁいとー!」
いや、『気がする』にしてはハッキリ聞こえすぎている。しかも上から。
試しに真上を向いてみた。
日光を遮るようにして、
「お前どこから見てるんだよ!?」
「へへ、特等席だよ」
『彩月さーん、危ないので競技中はレーンから離れてくださーい!』
「はーい……しょうがないなあ」
すかさず放送席から注意され、彩月はしぶしぶB組テントの方へ戻って行った。
相変わらずの自由人っぷりだが、おかげで緊張が解れてきた。
足を開いて体を下げ、中腰姿勢になる。今なら最高のパフォーマンスを発揮できる気がする。
『それでは気を取り直して……二年生の障害物競走を始めます! 位置について、よーい――』
思い出せ。
毎朝当たり前のように走っていた体で、一番速く走れる動かし方を。
そして考えろ。
妨害ありの障害物競走で、相手が何をして来るのかを。
『スタート!!』
戦いの火蓋は切られた。
放送部部長の声と共にブザーが鳴り、それと同時に、隣で爆風が吹き荒れる。
「!」
俺は前へ踏み込むのではなく身を屈めた。直後に、人ひとり簡単に吹き飛ぶような暴風が頭上を通り過ぎる。考えるまでもなく、志那都の仕業だ。
追い風で自分のスタートダッシュを加速させつつ、風の渦を作り出して俺が打ち消せないような『余波』をぶつけようとしたのだ。風を自在に操る志那都なら、それを同時に行うくらい朝飯前。
「そう来ると思ったぜ……!」
一番面積の広い胴体が狙われると踏んで、俺はあえて中腰のままスタートの合図を待っていたのだ。そして志那都が仕掛けて来た瞬間に身を屈めて攻撃を回避し、そのままクラウチングスタートの構えで今度こそ踏み出す。
志那都相手に二秒のロスは大きいが、挽回のチャンスは十分にある。
『志那都選手の烈風が炸裂! C組の上埼選手は派手に転んでしまったが、B組の
この障害物競走にはくぐり抜けるべき障害物が四つ存在する。例年は能力による的当てだったり鋼鉄の靴を履いたうさぎ跳びだったりと、どこにでもありそうなものばかりだったが、今年はあるお坊っちゃんの実行委員が大きな金を動かしたおかげで今までにないほど本格的な障害が用意されている。
『第一の障害は最新式の改造を施された高性能ドローン! 四本のアームから繰り出される攻撃を避け続ける試練です!』
最初の直線を走りながら前を見る。立ち止まった志那都の先には、二枚のプロペラで飛行するドローンがホバリングしていた。
本体の正面には『30』と表示されたディスプレイが付いており、四本も伸びるアームの先端には、投影装置によって光の刃が浮かび上がっている。
『さあ、一番乗りの志那都選手にドローンの刃が襲い掛かる!』
志那都の前に立ちはだかるドローンが動き出す。上空を機敏に飛び回りながら、光の刃を志那都めがけて振り回し始めた。
最初の数撃を華麗に避けていた志那都だが、立て続けに迫る刃のひとつが当たってしまったようだ。薄く伸びた光が彼の腕を通過すると、ディスプレイの数字が『24』から『29』に変化した。
『ホログラムの刃に当たってしまうとセンサーが反応して、残り時間が五秒増えてしまいます! 時間いっぱいまで避け切らないと次に進めないので、気を付けてくださーい!』
『あ、もちろんドローンの破壊は禁止だからな。俺たち情報部と電子部、それから技術開発部が合同で改造からプログラムまでこなした最新ドローンだ。ぶっ壊したらただじゃ済まねえぞ』
『だそうです! 選手の皆さんは気を付けてください!』
解説のケンの脅しを聞きつつ、俺もようやくドローンの前までやって来た。俺の接近を感知し、第一レーンに鎮座していたドローンが浮かび上がる。すぐに四本の刃が繰り出された。
最初は顔めがけての突き出し。それを除けると二本のブレードで挟むように横から迫る。屈むと動きを制限されてしまうので、一歩下がってやり過ごした。
次は右下からの切り上げ、からの横回転斬り、そして四連続の突き攻撃……。大丈夫だ、これくらいなら十分避けられる!
『これは意外だな。戦い慣れている志那都ならともかく、流輝がノーミスで十秒経過しようとしてるぞ』
『無効化能力である以上、対機械戦は不得意だと思っていましたが、素の回避スキルが磨かれているようですね!』
アームで物理的に繋がっている刃の動きを読むのは意外と簡単だ。
なんせ毎日の特訓で相手し続ける彩月の能力の方が、数倍は理不尽な挙動をしてるからな。空間の連続性を無視してくるテレポートや急に軌道を変える念動力に比べたら、関節の可動域が決まっていて慣性がしっかり働くアームなんて、予備動作を見れば避けられる。
『そして志那都選手も、最初のミス以外は全て避け切っています! 一度見切ってしまえば楽勝という事でしょうか!』
『能力で生み出した風の流れに手足を委ねて、自分で動くより素早く細かな回避を可能にしてるみたいだな。細かい微調整が必要な使い方だが……それをあっさりやってのけるとは、さすが2位って所か』
『おっとここで、志那都選手のスタートダッシュに巻き込まれてしまった上埼選手がドローンエリアに辿り着いた!』
俺のドローンのディスプレイに表示されている残り秒数は『19』。志那都は『18』だ。今到着した上埼が『30』からのスタートだから、残りを全て避け切れば、俺は一秒差で志那都の後を追う事ができ、C組とは十一秒も引き離す事ができる。
ここまでは順調だが――
「……っ!?」
目を疑う現象だった。
ドローンが小さく震え出したと思ったら、光の斬撃が今までの数倍のスピードで繰り出されたのだ。油断していた俺が急な加速に対応できるはずもなく、二度も当たったせいで十秒加算されてしまった。
『な、何が起こったのでしょうか!? ドローンの動きが急に速まり、芹田選手と志那都選手のタイムがそれぞれ十秒増えてしまった!』
『何だ?? あんなプログラムはしてないはずだけど……』
どうやら志那都の所でも同じ現象が起こっているらしいが、確認する余裕がない……!
と思ったら、ドローンがまたも身震いを起こし、一瞬後には途中までの遅い動きに戻ってしまった。
「二人だけの勝負だと思うなよ、天才共……」
声は隣。志那都のさらに向こうだ。
横を見る余裕ができたので声に反応して隣を向いた時、志那都のドローンの動きも元に戻っているのが見えた。
そして、さらにその右隣、C組の第三レーンからは鋭い視線。
「忘れられちゃ困るな。俺だって食らい付いてやるよ!!」
こちらを睨むC組の第一走者、上埼の額に小さなスパークが走っている。そして彼の前に飛んでいるドローンにも同じような電気が漏れ出ており、どういう訳か彼を襲わずに空中で待機しているではないか。
「まさか!」
気付いた瞬間、一時停止した俺のドローンが三度目の奇妙な振動を起こす。その一瞬、ドローン本体に同じスパークが発生したのを見つけた。
直後、動きが目に見えて機敏になる。
『なんと上埼選手、能力でドローンをハッキング! 自分のドローンの動きを止めるだけじゃなく、相手のドローンの動きを加速させた!』
『加速と減速が繰り返されているのは、回路の安全装置が働いてる影響だろうな。念のために準備しておいて良かったぜ全く』
『安全装置が無かったら、この苛烈な攻撃が無限に続いていたという事でしょうか!? 恐ろしい!』
『いや、高性能なはずのB3タイプ回路の安全装置が起動するくらいのハッキングだ。自動停止しなきゃ十秒と持たずに壊れるだろうな。というか今もマイクロプロセッサのトランジスタが壊れそうだしヤメテほしいんだけどなあ……』
『ふむ……? 何を言っているのかよく分かりませんが反則ではないのでこれもアリです!』
『ちくしょう』
まさか上埼が、機械を操れるまでに腕の立つ電子操作能力者だったとは。電撃を放つなりして足止めをしなかったのを見るに、高出力で放出するよりも機械の操作などの精密性に特化した能力なのだろう。どちらにしろ厄介な力だが……。
「……対応できない範囲じゃないな!」
ドローンが倍以上スピードアップするっていうなら、そのうえで全てを読み切ってやればいい。今までの特訓で培った全てを発揮して、突破してみせる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます