第二章 秘めたる想い
第16話 気になるあの人
星天学園は、特殊能力の正しい使い方、そして安全な制御の修得を主な目的として設立された、国立の能力者学校だ。
そして、そんな星天学園の夏休みは八月から始まる。その夏休みを無事に迎えるためには、七月中旬にある期末試験を無事に乗り越えなければならない。
試験は主に二種類。どの高校でもある各教科の筆記試験と、特殊能力の正確性を測る実技試験。使い方によっては物を壊し、命すら奪えてしまう特殊能力をより精確に扱えてこそ、能力者としての実力があるとこの学園は考えているらしい。まあ、ランク戦のような力比べをさせておいて今更な感じではあるけど。
ともかく俺たちは今、筆記試験を終え、実技試験を行っている最中だった。この試験は全クラス合同で行われるため、クラスの違うケンや
「ケン、どうだった?」
「誤差0.4ミリ。点数は十分問題ないぜ。そっちはどうよ」
「今年からちゃんと測れるようになったっぽいぞ。平均値0.06ミリだった」
「数字小さすぎてよく分かんねぇなそれ」
「だよな」
集合場所である第二グラウンドの人工芝の上に腰を下ろして、試験中の生徒を眺めながら話す。念動能力者は的当てのような事をしたり、透視能力者は板越しの模様を当てたり、皆さまざまなやり方で試験を行っている。だが俺の場合は、触れさえすれば即無効化できるので正確性もなにもない。そう思われていたので今までは実技試験が行えず、代わりに追加で筆記試験を行っていたのだが、今年からは実技試験ができるようになった。
俺の能力が『触れた能力を打ち消す能力』ではなく、『触れた能力を打ち消す力場を体に纏う能力』だと気付いたおかげだ。なので今日の試験は、顕微鏡のようなもので俺の腕周りを拡大しながら、少しずつ能力で出来た針を近づけ、皮膚からどれくらいの距離で打ち消されるか、という測り方となった。結果はケンにも言った通り、皮膚から0.06ミリ。毛一本分だ。
何回か測った結果、無効化の力場は変動しているらしく、0.06という結果は平均値として出た数値となる。
それは考え方次第では、力場の範囲を拡大する事が出来る可能性がある、という事だ。また新たな伸びしろを見つけ、ちょっとワクワクしている。
「おい
「……おお、すっごいな」
ケンが指さす先では、志那都と
的当てと簡単に行っても、計測は俺のように百分の一ミリ単位で行われる。にも拘わらず、二人の数値は全くブレが無い。
「彩月さん、志那都さん、共に誤差0.01ミリ……!」
計測係の女性教師が驚いたように言う。周りからも感嘆の声が漏れた。
「なかなかやるねぇ
「望むところだ、彩月
1位と2位だからか、二人は対抗心を燃やして試験を続ける。新たに用意された的を、能力をバカスカ放って撃ち落とす。
「彩月さん、誤差0.001ミリ。志那都さん、誤差0.002ミリ……!」
「やったぁ! 一学期末もボクの勝ちだね」
「お前にだけは勝てないな……」
嬉しそうに跳びはねる彩月と、いつも通りのポーカーフェイスだか少し悔しそうな志那都。どうやら毎回競っているらしい。
「それでは、今回の実技試験は終了とします! 教室に戻って、ホームルームを行ってください!」
担当教師の言葉により、皆はぞろぞろとグラウンドを離れて行った。俺もケンと彩月、それから志那都と共に教室へと戻る。
「試験の日は速く終わるから良いよなー! 一学期最後の学内掲示板、きっちりまとめないと」
「頑張れよ、ケン副部長」
「
「まあなー。でも、この前のお前達二人のランク戦はちゃんと見たぜ? 取材として」
「はは、結局部活じゃん。撮影用ドローン総動員してたもんねー」
みんなと話ながら校舎に入り、ケンと志那都とはクラスが違うので別れ、それぞれの教室に入って行く。
その間、俺はずっとどこからか視線を感じていた。
グラウンドからずっとだ。さすがに俺もスパイやエージェントでも無いから「むむ、これはヤツの気配……!?」みたいな感じで勘付いたりはしない。それとなく見渡してみても、俺たちをジッと見ているような人は見当たらない。気のせいだろうか。
「流輝君、どうしたの?」
「んー……いや、何でもない」
教室のドアをくぐる際、もう一度振り返ってみるが、やはり誰もいない。
二年生のランク2位である志那都と戦った事でほんの少し注目されていた日もあったが、それも過去の話。負けた89位の事など、今や誰も話題にしなくなった。まだ誰かに見られていると感じるのならば、それは俺が自意識過剰なだけだ。俺は諦めて忘れることにした。
* * *
期末試験が終わり、いつもより早い放課後。今日は彩月が用事があるとのことで、特訓の時間は無くなった。寮に戻って自主練でもするかな。
と言ってもひとりじゃ能力はぶつけてもらえないし、筋トレぐらいしかやる事ないけど。久しぶりに未知のおにぎりを探して、行った事のないコンビニに足を運んでみるのも……。
「ねえ、ちょっといい?」
「ん?」
校舎を出て寮への道のりを歩いている時、ふと呼び止められた。たぶん別のクラスの、話した事のない女子生徒だ。先輩だったらどうしよう。
「ちょっとあんたに話があるんだけど」
「……俺、ですか?」
「あんたしかいないでしょ。ていうかタメなんだから敬語いらないわよ。同じクラスでしょ?」
「えっ」
ヤバい。クラスメイトだった。話した事が無いからって記憶しなさすぎだろ俺。
案の定相手も呆れたようにため息をついていたが、俺に覚えられていないことはどうでもいいのだろう。すぐに顔を上げた。
「とにかく、ちょっと来てくれる?」
「……分かった」
どうやら長くなるのか、場所を移すらしい。カツアゲとかされないよな? 数十年前の現金社会の頃よりかは落ち着いていると聞くが、スマートバンドに入っている電子マネーも渡そうと思えば渡せる。全然カツアゲとかあり得るぞ……?
彩月と初めて喋った日、いきなり話しかけられたあの時と同じくらい冷や汗を流している。本能が警戒を訴えているのか、これは。
そして、連れて来られたのは日当たりの悪い校舎裏。絶対カツアゲだコレ。たぶん最近目立ってきた俺が気に食わないからとか、そういう
言われてみればこの子も鷹倉に似た髪色をしてるし。マリーゴールドとかそこら辺だろうか。そういや最近、鷹倉のやつ突っかかって来ないな。もう俺をからかって遊ぶのには飽きたのだろうか。だとしたら嬉しいけど。
「それで話って?」
……と、このまま鷹倉の話題で現実逃避をするわけにもいかない。諦めて現実を受け入れよう。せめてもの先制攻撃のつもりで、俺から話を切り出した。
大丈夫だ、特訓の成果を活かして猛ダッシュすれば逃げ切れるはずだ。能力で脅されようとも俺には効かないしな。
「まどろっこしいの嫌いだし、単刀直入に言うわ」
しかし、気が付けば俺の背中は校舎の壁に触れていた。意識する暇もなく、いつの間にか俺は追い詰められていたらしい。これが狩り慣れているヤツの技だというか……!?
しょうがない。少々気が引けるが、あの1位に鍛えてもらい、あの2位とそこそこ渡り合った俺の実力を今ここで見せて――
「あなたが知ってる志那都さんの好きな物、今ここで教えて」
「……え?」
覚悟を決めた俺に投げかけられた要求は、あまりに予想外すぎるものだった。
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