21ページ目 隠したい悪事と隠し切れない想い
アカリとの魔術勝負から1日が経ち、ボクは嫌々ながらも登校した。
「大ニュースだ! 校舎で飛び降りたヤツがいたんだってよ!」
2時間目の休み時間。クラスメイトの1人が大声で教室に駆け込んできた。
「えっ、だれだれっ!」
「嘘だろー?」
「ホントだって、3年にデカくてコワイ先輩居るだろ。ニワトリみたいな頭の!」
「ああっ、バスケ部の」
「そうそう。部活棟の屋根上にポツンと立ってたから、仲間が止めようとしたんだけど飛び降りたらしいぜ」
「見に行こうぜ!」
「先生知ってんの?」
「ていうかマジヤバくね?」
などなどの言葉が飛び交う。
バスケ部で鶏みたいな先輩? もしかして以前、黒魔術をくらって便器に顔を突っ込んだアイツか?
もしかして、ボクの黒魔術が原因か……?
いや、そんなわけない。黒魔術を掛けてからもう何日経ったと思っているんだ。
これまで黒魔術が原因で不登校になった人間や精神に異常をきたした人は居ない。これはただの偶然だ。
「もしかして、前に黒魔術をフルパワーで使った相手ですか?」
ノミコは生徒手帳に化けたままボクに話してきた。
「そうだよ。でも黒魔術とは関係ないだろ」
「何を言ってるんですか。黒魔術のフルパワーは一生消えないトラウマを生むんですよ。きのうの白魔術師の女は魔術の耐性があるから、あの程度で済んだんです。普通は黒魔術をフルパワーで流し込んだら精神崩壊しますよ」
「怖いこと言うなよ!」
「怖いも何も、ワタシを持つことの恐ろしさについては、最初から忠告したはずですよ。今さら何をビビってるんですか」
「しっ、知ってるよ。今さら言わなくても」
「クラマどうした? なんかおかしいぞ?」
「あっ、いやなんでも……」
佐咲の言葉も耳に入らなかった。
くそ、これはなんかの間違いだ。ボクが自殺に関与したなんて。
気が付くと手が震えていた。
――*――
昼休み、体育館裏にアカリを呼び出し、今日のことを相談した。
「十中八九、黒魔術ね!」
「いや、でも」
「どう考えてもそうじゃない。そのトサカ先輩って、悩みなんか無縁だったんでしょ」
「ボクが見た限りでは……」
「じゃあ、ほぼ決まりじゃない。黒魔術が完全に解けてなかった影響で、トラウマを植え付けられて、ふとしたことがきっかけで死にたくなった。っていうのが筋じゃない?」
「そんな……」
アカリにバッサリと希望を断ち切られた。やっぱりボクのせいなのか?
「まぁ一度情報を集めてからでも結論を出すのは遅くないわよ」
「そうだね。一度調べてみるよ。ありがとう峰岸さん」
「なっ、何言ってンの? あなたが、間違いを犯さないよう監視するのがあたしの役割なんだから」
アカリは、いつの間にかボクの保護者的な役割になったらしい。
「今日、屋根上から落っこちたバスケ部の先輩? あぁ、東郷ね。あいつなら死んでないよ。奇跡的にかすり傷で済んだんだって、建物二階分の高さから落ちてかすり傷って、ホント化け物だよな?」
「東郷くん? そういえば最近、「人生理不尽だ」とか「死にたい」とか「俺の高校生活は何だったんだ」言ってて、思い悩んでいたフシはあるわね」
「あいつ授業態度は悪かったけど、最近、特にサボり気味だったぞ?」
――*――
「十中八九、黒魔術ね!」
5時間目後の休み時間、屋上でまたもアカリに宣告された。二度も言わなくても。情報収集もむなしく、さらに状況証拠を積み上げるだけだった。
「誰も居ないからってあんまり大声出さない方が。だけど、そうか……。なんてことをしてしまったんだボクは。もう少しで人を殺すところだった……」
「これに懲りたら、黒魔術を使うのは止めなさい。今回の件は黙っておいてあげるから」
「そういえば峰岸さんは、大丈夫なの? トサカ先輩以上に、強力なのを食らったじゃないか」
「わたしだって影響あったじゃないの。それもとびきりのを。だけどあたしは白魔術師。魔術への耐性は常人より遥かに強いし、トラウマにもなっていない。少なくとも自殺したいなんて衝動はこれまで起きてないわ」
風で舞い上がる髪を抑えながら、冷静に話すアカリ。黒魔術に関することなのに、以前のようにボクに対する敵意を持っていないようだ。
「それはよかった。だけど……」
「もう、辛気臭いですねぇ。いいじゃないですか、あなたに危害を加えた相手が痛い目を見るのは因果応報ですよ。もっと気楽にいきましょう」
話に割り込むノミコ。今はアカリと話しているし、コイツは場をかき乱すから、あまり割り込んでほしくなかった。
「そんな簡単に割り切れないって」
「割り切ってください。黒魔術師がその程度で凹んでいてどうするんです。もっと冷淡になってくださいよ。そうしないとワタシの力を100%発揮することなんて出来ませんよ? 昔は魔術で人が死ぬなんて日常茶飯事だったんですから、かすり傷なんてケガの内に入りませんよ」
ノミコの価値基準では、人間は等しく道具かゴミ程度でしかない。
しょせんは人の心を持たない本だ。人間が持つ倫理観や罪悪感と言うものが著しく欠如している。
「ちょっと駄本!」
「何ですか?」
「黙って聞いてたら言いたい放題じゃない。あなた、椎音くんの気持ちを考えたことがあるの?」
「ありますよ。この人は、他者に認められたい。自分が特別だと思われたい。という考えばかりが溢れているんです。偉そうに『自分に降りかかる火の粉を振り払うだけだ』と言っていますが、本当は自分が高みに立って皆が右往左往するサマを見下したいだけなんですよ。だからワタシがその手助けをしてるのに、このぐらいで
ノミコの言葉が、グサグサと突き刺さる。
「ノミコ。もうやめてくれ」
「なにをです? あなたの願望についてですか?」
「頼むから、やめてくれ……」
「気に病むことでも無いのになんで? あぁ……なるほど。そりゃあ好きな人の前で、自分の弱みを暴露されるなんて、クラマくんのプライドが耐えられないですもんねー」
「ッ! おまえっー!」
「ホラ図星――」
「いいかげんにしろおおおおおおぉぉぉ!」
「あっ! ああああああぁぁぁぁぁぁっ――」
ボクは怒りに任せ、ノミコを屋上から全力で放り投げた。
ノミコもとっさの出来事だったためか姿勢を制御することが出来ず、校舎裏の茂みに放物線を描きながら、フリーフォールしていった。
「はぁ、はぁ……」
「いっ、いいの?」
「いいんだよ! あんなバカ魔術書。有ること無いことしゃべりやがって!」
「椎音くん、落ち着いて? ねっ? 魔術書なんてどれもあんな性格よ」
必死になだめるアカリに、ボクは徐々に落ち着きを取り戻した。
「あぁ。ごめん取り乱した」
「ところで、その……あの本『好きな人の目の前で』とか言ってたんだけど」
「あっ、あぁ、そ、それ、ノミコが口から出まかせ言ったんだよ! そういう意味じゃないから!」
再度ボクは取り乱し、手足をバタバタさせ必死にごまかした。
「そうなの?」
「ホントホント! あっ、ボク次の授業が体育だった。それじゃあ!」
「あっ」
つい、逃げ出してしまった。
クソッ、ノミコの奴どさくさに紛れて、なんてこと言うんだよ。
ボクがアカリのことを好きなワケ、好きなワケ……。
あぁもういい! 考えるのはヤメだっ!
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