第13話 フォルテロ家とリッターナ辺境伯家 その2

「シャルリア様、カルム様!改めて本日はお出迎えが出来ずに申し訳ありませんでしたな!」


「いえ、事前に伺っておりましたし……こちらこそ、お忙しい時期に申し訳なかったですわ」


「何々!!フォルテロうちがお役に立てることなら、何なりとですよ!」


がはは、といった感じのこの元気な太マッチョオジサマは、お察しの通りフォルテロ家家長のシスのお父様。お隣ではシスに似た美人の奥様がたおやかに微笑んでいる。


お二人は、今日まで毎年恒例の、お隣リッターナ辺境伯の騎士団との合同合宿訓練があり、私達が到着した時はまだ不在だったのだ。


「私どもまで晩餐に招待していただき、感謝する。シャルリア様、カルム様、お久しぶりでございます」


「リッターナ卿。ご無沙汰しております。ご健勝そうで何よりですわ」


リッターナ卿は細マッチョオジサマだ。シスパパもリッターナ卿も、やっぱり鍛えてるとアラフィフでも素敵。イケオジ。お隣の奥様ももちろん美人。


そしてこれから、私達の歓迎会と合宿お疲れ様会を兼ねた晩餐がフォルテロ家にて、始まろうとしている。


「先だってはうちの愚息が失礼をしたそうで」


「そんな、構いませんわ。楽しいひとときでした」


「そう言っていただけると、ありがたい」


うーん、イケオジいいなあ。落ち着きがあって、枯れ専じゃない私でもドキドキしちゃう。……のは、置いといて。そう、それぞれの息子さん達も参加しているのだ。


ハルマン様は、お兄様の横で大きな体を小さくして座っている。ちょっとかわいい。


シスは……うわあ、まだ不機嫌そうだわ。隣に座っているシスのお兄様が、ちょっと困り顔しているわ。


実はまだ、シスの気持ちは聞けていないのだ。


あの後すぐに荷物の片付けが済んだとお呼びがかかり、シスのご両親も帰宅されて軽く挨拶をし、この夜の晩餐の準備となったからだ。いつもは私の支度はシスがしてくれるけど、今日はシスも正装しなきゃなので、話す時間もなかった。まあ、バタバタと聞く話でもないし、夜にでも時間が取れたらいいかな。


「それでは、改めまして。ようこそ、シャルリア様、カルム様、フォルテロ家へ!リッターナ卿、本年も大変お世話になりました。ささやかではございますが、本日は皆様、楽しんでくだされ。乾杯!」


乾杯!と、晩餐が始まる。乾杯と言っても、私はお酒に弱くて、一応成人しているのだけれど未成年のカルムと一緒で、まだお酒は嗜めないのだけどね。この葡萄ジュース、美味しいわ。


和やかムードで、晩餐はつつがなく進む。シスも始めは不機嫌そうだったけど、そこは貴族令嬢。リッターナ卿の奥様と楽しそうにお話している。


その様子を、ハルマン様がチラチラ見ている。大型犬が飼い主に構って欲しくてそわそわしているよう。訓練が終わって、あの早さで会いに来たことを考えても、相当会いたかったんだろうなあ、シスに。そう思うと、このシスの塩対応は可哀想すぎる。


余計なお世話かもしれないけれど。


「リッターナ家とフォルテロ家の皆様は、本当に仲がよろしいのね。我が国が平和なのも、偏にご両家の絆のお蔭ですわね」


「シャルリア様にもそう言っていただけますと、ますます気合いが入りますな!」


「まったくですな」


私の言葉に、イケオジ二人が相好を崩す。私ももちろん笑顔で応える。本心だしね。


えーっと、それで、シスとハルマン様の関係をね、聞き出したいんだけど。どう切り出すべきか。仲良し幼馴染みには違いないのだろうし、久しぶりに帰ってきた訳だから、ハルマン様ももっとシスと話したいだろうし。


普通に考えても、お隣同士の領地で幼馴染みで同い年で、両家の繋がりも深くて男女の子どもと言ったら、婚約話は出るわよね。


ハルマン様のためにも、ちょっとこう、何とかしてあげたいのだけれど、私が余計な事を言い出したら、シスの火に油を注いでしまうかしら?



……なんてツラツラ考えていると。



「シスとハルマン様はずいぶんと仲が良さそうでしたが。ご婚約はされてないのですか?両家の絆を考えても話が出そうなものですが」


お、弟~~~!!ずっと笑顔でしれっとしていたクセに、急に爆弾を落とすわね!


「ね?姉上」


そして上目遣いのかわいい顔で、私に丸投げしないで!何てことしてくれんのよ!


「そ、そうね。私もお似合いと思うわ」


とりあえず、相槌を返す。


視線の端で、ハルマン様がちょっと嬉しそうなのが見える。けど、シスの方は怖くて見られないわ。


「まあその……出てなくはないと申しますか……」


シスパパが、苦笑しながらモゴモゴしている。リッターナ卿も、それぞれの奥様も、一様に同じ様な表情だ。


……まあ、先程のハルマン様の滑った言葉を考えても、原因であろう私の前ではいろいろ言いにくいわよね。


「私は、考えておりませんわ」


シスが憮然と答える。あ、ハルマン様が死にそうな顔をしているわ、痛々しいわ。


「何で?仲良しそうだったじゃない。……ああ、さっきハルマン様がちょっと言ってたね?姉上が心配なんだっけ?」


カ、カルーーーム!!人畜無害みたいな顔をしてるくせにーーー!!


「それは」


「だったら良くない?クズは排除したし。僕も戻ったし。シスが嫁に行っても、姉上は守れるよ」


「しかし」


ちょっと、シスコンをチラつかせるの止めて下さい。シスもちょっと折れて!……だって、あんな自分のことで感情的なシス、初めて見たもの。ハルマン様が特別な人には違いないのだ。


「私はずっと、お嬢様のお側にいたいのです!」


「うん、だからこそさ。姉上が結婚して子どもが生まれたりしたら、誰が乳母をやるの?僕的には、護衛もできて、何より全幅の信頼を寄せられるシスになってもらいたいのだけれど」


「!」


「そうなると、やっぱり姉上より先に子育てしてくれてるとありがたいと思うんだけど、違う?」


「!!」



カルムの言葉に、一同がシーンとなる。



「え、何、この反応。まさか誰も考えなかったの?」


そのまさかです。


「いや、恥ずかしながら、そう、そうですな……」


「本当に、私は母ですのに……恥ずかしいですわ」


シスパパママを始めとした皆んなが、何とも言えない顔をして、それぞれ顔を見合わせている。この様子を鑑みても、両家の懸案事項だったのだろう。何だかごめんなさいだわ、私のせいで。


「シス、私のせいよね。ごめんなさい。ハルマン様も」


「そんな、お嬢様!違います!!私が勝手にしたことであって、」


「そうです、シャルリア様!俺はお嬢様第一のシスもひっくるめて惚れているんです、勝手に待っているだけですので!!」


「ハ、ハルマン……っ、」


ハルマン様のストレートな言葉に、シスは頬を染めてハクハクしている。玲子時代からクールだったから、珍しい表情に萌えるわ。ツンデレ好きよ。


「うん、じゃあ、もう待たなくていいよね?リッターナ卿、確認なのですが、跡目はハルマン様の兄上ということで相違ないですか?」


「え、ええ。それは」


「それなら、ハルマン様をうちにいただいても?僕が戻ったので、新しい護衛が必要になりまして。うちの騎士団も鍛えてくれるとありがたいですし、何よりシスの道場を支えてもらえるしね」


「それは、ありがたいお話ですが……よろしいのでしょうか?」


「ええ、勿論。今回の視察で自分で護衛を見つけるよう、父からも許可をもらっておりますので。ちょうど良かった。いいよね?二人とも」


シスとハルマン様はお互いにチラっと視線を合わせて、小さく「はい」と頷いた。


その後の晩餐は、一気にお祝いモードになった。


「アネシス。私と結婚してください」


「……はい。よろしくお願いします。……今まで待っていてくれて、ありがとう……」


ハルマン様は片膝をついて、改めてシスにプロポーズをした。花束も指輪もないけれど、皆に祝福されて二人ともとても嬉しそうだ。シスはさらにようやく素直にお礼が言えたとはにかんでいる。クール美女の照れ顔、最高。


ご家族の皆様も、安堵と嬉しさいっぱいの笑顔だ。私もとっても嬉しい。大好きな人の幸せって、最高。


「一時はどうなるかと思ったけど、ありがとう、カルム」


「どういたしまして。拗れた時って、第三者が入ることも必要だからね」


「そ、そうね」


「姉上は昔から苦手でしたね」


クスクスと14歳の弟に笑われる。屈辱。いくら前世もあるとはいえ……。くそう。でも事実だから仕方ない。


それにしても。


「……またあのクズなんかと婚約してしまって……仕事も学校も忙しいから、しばらく婚約だの恋愛だのはごめんだわ、って思っていたけれど。こう、幸せそうな二人を見ているとやっぱりいいなと思うものね」


「姉上も前向きになってくれたなら良かったです」


「カルムは……私が結婚することには反対しないのね?」


シスコンのくせに、という言葉は飲み込む。


「もちろんです。姉上には幸せになっていただきたいですから。ああでも、精査はしますよ?クズは排除します」


「お、お手柔らかにお願いします……」



キラキラ笑顔で怖い弟には逆らわないことにした。

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