第14話 友情か恋情か?(ルトハルト視点) 1

俺の幼馴染みは、前世時代もそして今生でも、華のある奴だった。


特に前世では、女性があいつを放っておかなかった。……いや、少し語弊があるかな。あいつはいわゆる、ものすごいイケメンだった訳じゃない。けれど、人好きのする、母性本能をくすぐるような容姿だった。そして、自分が気に入った女性は、とことん口説き落とす。見ているこっちが恥ずかしくなるくらい全力で、だ。始めはあいつの周りのの多さに警戒していた相手も、その全力さに自分には本気なのだと思うのだろう、次々と落とされていった。


ただ、その後が良くない。奴は手のひらを返したように、途端に全てにルーズになる。そして、全員が曖昧な関係になってしまうのだ。


リアも……彼女もその中の一人だった。


けれど、彼女の場合は少し様子が違って。


あいつの口から結婚なんて言葉を初めて聞いて、びっくりしたのだ。


彼女を紹介された時、いつもよりちょっとだけ格好つけてるあいつがいて。確かに彼女は他の子と毛色が違っていて。何て言うのか、こう、スレてないと言うか、遊び慣れていないと言うか。もの凄い美人ではないけれど、笑顔が可愛くて真面目で。あいつには勿体ないなと、チラッと思ったものだった。


リアは覚えていないみたいだけど、彼女にもあいつは結婚しようねと言っていた。周りからすると、かなり薄っぺらく見える覚悟だけれど、あいつはそれで、自分の中のゴールを決めてしまったのだろう。と、今は思う。さらりと言われたそれは、彼女からすると冗談のように流したのかも知れない。けれどあいつはきっと、しっかりと伝えたつもりでいたと思う。


だから、彼女が勝手に待っていてくれると思い込んで。


結婚までは自由でいたいとか遊びたいとか、勝手な理屈で彼女を放っておいたのだ。


何度も忠告した。他の女の子だって、可哀想だろうと。


でもあいつは自分がチヤホヤされる楽しさが優先で。


女性ともお互い様と言って、全然改めなかったのだ。


それで結局、リア……彼女にはフラれる訳だけど。


しばらくやけ酒して立ち直れずにいるあいつを、自業自得と思いながらも、やっぱり心配で側にいた俺も大概で、あいつの人たらしに嵌まってしまっていたのだろうが。


彼女が、あいつから離れられてホッとしたのも本心だった。


そして、今。


なんの因果か、いや、因果は沢山あるか?って、それはともかくとして、あいつとリアを中心に揃いも揃ってこの異世界に転生したとか。冗談のような話だ。


けれど、現実に起きている訳で。


またあいつの幼馴染みで生まれた俺は、どうもそのポジションが染み付いてしまっていたようだ。


あいつは今回も華がある。公爵令息で、やらかしがバレるまでは、完璧な貴族だった。周りの貴族女性からの秋波に目もくれずのあいつを見て、リアに対する真摯な気持ちを疑いもしなかった。今回はと思った。……だから、身を引いたのだ。なのに。


「何をしているんだ、俺は……。せっかくの第一王子をモブで終わらせる所だった」


「ルトお兄様。お言葉が乱れておりますわよ。……って、私たちだけだもの、いいわよね?何か、考え事?」


「うん、少し、昔を思い出してしまった。何もできなかったからなあ。……今回も何をやっているのかと、自己嫌悪中だ」


そう、リアは幼馴染みの……友人の想い人。だから、俺はただ見守っていた。自分の気持ちは見て見ぬふりをして。


「それにしてもリアは凄いよな。……昔を見ていた身からすると、もう少し情に流されるかと思ったが一刀両断だったな」


「ふふっ、本当よね」


「お前は大丈夫なのか?フリーダ」


「うん。顔を合わせても思い出されなかった段階で、ああ、そうよね、って」


今生ではまだ妹は14歳だ。この世界では16歳で成人で大人扱いをされるけれど、まだあどけなさの残る妹の、悟ったような微笑みに情けなくもなかなか言葉が出てこない。


「不甲斐ない兄貴ですまないな」


「ううん。優しくて自慢のお兄様よ」


「もうすぐ着くが……辛くなったら言えよ」


「うん、ありがとう。私が一緒に行くって決めたんだもん、大丈夫よ」


そう、フリーダと二人で向かっているのは、ロイエのいるバカヤーニ家の北の領地だ。


従兄弟を心配する気持ちもあるが、何より自分の気持ちの整理のためにも、あいつと話をしようと思ったのだ。


フリーダも、リアとロイエの狭間で考えることがあるのだろう。ついていくと言い出したのだった。



『あいつと別れたの?……本気で?』


『うん、今回こそ、本当の本当。……今までいろいろとフォローしてくれてたよね?ありがとう』


『フォロー……』


『うん。してくれてたでしょ?優しい君が、和博なんかに振り回されずに幸せになれることを祈るよ。なんてね!』


精一杯の強がりにも見えた笑顔が輝いていて。


そしていつも振り回されていた俺に気づいてくれていた事が、何だかとても嬉しくて。


「ルト様は周りを良く見ているよね!いい王様になれると思う!リアも頑張るから、頑張ろう!」


前と変わらぬリアが眩しくて。


ーーー今回は諦めたくないと、強く思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る