第9話 袖振り合うも多生の縁? その3

フリーダの話は、こうだ。


フリーダは、ルト様の友人として城に来ていたロイエに初めて会った時に、全てを思い出したらしい。


彼女は以前は私の大学の後輩で、サークル仲間だった。


女子大だったので、サークルも女子ばかり。そうだった、奴がやりたがって何回かコンパを開いたっけ。奴が楽しそうだからと協力した私。かなりのダメ女だったと自覚する。本当に盲目って怖い。


まあ、リカちゃんはその時に口説かれた訳だね。先輩の彼氏だし、と最初は断ったものの、奴のしつこさと憧れの(憧れてくれていたらしい)先輩の彼氏から言い寄られる優越感もあって、絆されたと。後はまあ、言わずもがな、だったようだけど。最初はものすごく尽くすんだよね、あのクズ。奴にとってはゲームみたいなものだったのだろう。


『それでも今生で幸せを願えるのね。優しいわね、フリーダ』


私の言葉に、フリーダは首を横に振る。


『優しくなんて……これは、私の意地でもあるのかもしれません。……ただ、彼にいい顔を見せたかっただけかも』


『フリーダ……』


『私ね、先輩が別れる直前から付き合い始めたんです。それから割とすぐにお二人が別れて。これで彼は私だけを見てくれると思ったのですが……』


『ああ、奴だからね。あちこちキョロキョロでしょ。本当、ダメな奴』


『……それも、そうなのですが。一番は貴女です、先輩。彼は先輩が忘れられなくて……二言目には、彼女はああだったのに、とか、こうしてくれたのに、とか、結婚するなら彼女と思っていたのに、とか』


『何それ!そんなことを、今付き合ってる人に言うの?最低どころの話じゃないわ!』


『クズの中のクズですね。奴ごときがモラハラとか生意気な』


怒り心頭の私とシスの言葉に苦笑するフリーダ。


『そう、なんですけれどね』


……分かってしまう。フリーダも……リカちゃんも、盲目的に嵌まってしまったのだ。


『憧れの先輩でしたから、分かる部分も多くて。彼の一番はずっと先輩で。それに彼、先輩の声が聞きたくて番号非通知にして何度か携帯にかけていたんですよ。そんな姿を見ていたら……』


『いや待って、怖いわ、それ』


そういえば何度かあった。誰か非通知にしちゃったのかな?と思って出ると、無言なのだ。あまりに続くから、しまいには非通知は着信拒否したわね。あれ、奴だったのか……。未練がましいと言うか、何と言うか。


『結局、腹が立つわね』


『分かります』


『それだけ!先輩を想っていたんですよ!今だって、彼は私のことなんて思い出さないのですから!だから私、今回は二人を応援したくて……』


リカちゃんには……フリーダには、ただの自分勝手な奴の執着が、健気な気持ちに見えているのだろうな。今回の、を見ていなかった分、余計に。縛られた乙女心が悲しい。本当にあいつムカつく。しかも、ここまで想ってくれている子を思い出さないとか。悪気なく、許されて当然で、自分が悲劇のヒーローになるのだから。


忘れた怒りが再燃してきてしまう。


『フリーダ。貴女の気持ちを踏みにじるようだけれど、あいつのそれは、恋情ではないわ』


『そんなことは!』


『リア。そう全否定しないでやってくれ。……あいつは本当に後悔していたよ』


『……ルト様まで。あれの人たらしには困ったものですわね』


『時々いて困りますよね。天性のタラシ。悪い方の』


『本当。結構裁判とかになってたわよねぇ』


『ありましたねぇ』

私とシスの会話に、ますます眉を下げるルト様。


『二人の気持ちも分かるけどね。俺も何度も言ったんだよ。リアは覚えてないか。昔あいつ、俺に結婚したい人って君を紹介してきたんだよ』


『残念ながら、全く覚えておりません』


『そうか。そうだよな。あいつ、自由にしていたもんな。そう、だから何度も本命を大事にしろって言ったんだけどな……』


今度は、ルト様が話し出す。前世も奴と幼馴染みだったらしく、奴の女関係には振り回されていたらしい。けれど、天性の甘え上手な奴を突き放すこともできず、何だかんだと面倒を見ていたようだ。私とも何度か会ったみたいだけど、思い出せないわ。やっぱり、ロイエ関係の方は拒絶しているのだろうと思う。


『君と別れた後のあいつの荒れようは酷いものだったよ。来世で会ったら絶対に結婚するって、よく言っていた』


まさか本当に会えるなんて思っていなかったけど、とルト様は苦笑して。


『俺の友人作りのお茶会でロイエと初めて会ってね。すぐに思い出した。向こうもそうらしい。そしてロイエはリア、君に会えたと。今度は幸せにしたいと。嬉しそうに話して来た。……君は俺の婚約者候補一番だったけど、あいつの気持ちを俺はずっと知っていたし、今回はあいつの真剣さを、信じることにしたんだ』


『裏切られましたよね』


『……返す言葉もない。あれだけ、努力しておいて。何をしているんだ、あいつは……』


シスの言葉に、深いため息を吐きながらルト様が言う。


ああ、本当に同い年だけど弟みたいに見守っていたのだなあと思う。だけどね。


「お二人には大変辛辣なことを申し上げますが。奴の努力って何でしょうか?」


私はこちらの言葉に戻して、公爵令嬢然として話を続ける。


「公爵令息としての勉強と剣術の鍛練でしょうか?婚約者を大事にすることでしょうか?」


私の言葉に、ハッとする二人。そうよね、王族よね。分かるわよね?


「……そうです、全て当然のことです。お二人だって、そうでしょう?もちろん、私もです。それは王族として、公爵家としてしなければならない努力です。……婚約者を大切にするのも、至極当然ですわよね?そして、普通の人間としても」


ダメな奴が普通の事ができると、やけにちゃんとして見える、マジックのようなものだ。あるあるだけれどね。


「そうだ、な。当然だ。どうもあいつには甘くなってしまうらしい」


「リア姉様……。そう、そうですけれど……」


ルト様はすぐに納得してくれたようだが、フリーダは割りきれないようだ。今生はまだ14歳だもんね。そう考えると、この記憶は辛いなあ。今回は、奴に振り回されずに幸せになってほしい。


「フリーダ。貴女の気持ちは嬉しいし、分かってしまうこともたくさんあるわ。でもね、私はもう彼に囚われるつもりは全くないの。だから今回は、彼ではなく貴女の幸せを見つけて。世の中は広いわ、フリーダなら知ってるはずよ」


「姉様、私……。私の、幸せを祈ってくれるのですか」


「もちろんよ。可愛い妹だもの。……今まで幼い貴女を一人で頑張らせてごめんね。もういいから。ね?」


「リア姉様~!」


フリーダが泣きながら抱きついてくる。そうよ、まだまだ14歳。たまには感情を出さないと!


「フリーダ様、リアお嬢様のファンクラブがあるのですが、入会されますか?」


「ひぐっ、な、何それ!私の知らぬ間に、っ、ひくっ、もちろん入るわ!」


「ちょっとシス。王女様にまで何を言い出すの」


「姉様!ひくっ、私が入ると迷惑ですか?」


「そ、そんなことはないけれど……」


シスの粋な?お誘いで、フリーダに笑顔が戻って。


それを見たルト様も心底安心したようだった。彼も妹が14歳なのを思い出したようだ。



今回はみんながそれぞれに幸せをみつけられますように。

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