第8話 袖振り合うも多生の縁? その2

ルト様にばれずにフリーダ様の過去を聞き出す方法なんぞ、全く思い付かないまま、会議室に着いてしまった。


ルト様の侍従さんがいつの間にか許可を貰ってきてくれていたのだ。うーん、うちのシスも出来る子だけど、さすが王子様の侍従。仕事が早いわ。


先ほどはフリーダ様にぶっちぎられていた、王女様付きの侍女さんとシスで、お茶の準備もさっと整う。うーん、二人は二人でさすがよね!


いやいや、そんな感心している場合ではないな。


さて。えーと。お茶を一口いただいて。


「一先ずは……僭越ながら、私からフリーダ様へご説明申し上げてもよろしいでしょうか?」


まずはここからよね。


「そうしてもらえるか」


「ありがとうございます、姉様!ねぇ、姉様、今ここには私達しかいないわ!いつものように話してくださいな」


「分かったわ、フリーダ」


私の返事に、安堵したような笑顔を浮かべるフリーダ。先ほどの事を少し気にしているのだろう。


「……フリーダには酷かもしれないし、ショックを受けるかもしれない。それでもいいのね?」


「はい!お願いします!」


フリーダは真剣な顔で頷いた。私もそれに頷き返して、婚約破棄の顛末までを話した。その後のやらかしも含めて、だ。





「嘘よ、ロイエ兄様は、だって……」


全てを聞いたフリーダは、茫然と呟く。やはりショックを受けたようだ。


「残念ながら、事実だ。フリーダ。公爵家同士のことだからな。王家も裏を取った」


ルト様も妹に気遣うような表情をしつつも、フリーダにしっかりと事実を突き付ける。フリーダはそのまま俯いてしまった。


「………………にしてんのよ、あの人は……」


そして、何やらぶつぶつと呟き始める。が、こちらには聞こえない。フリーダ、何だかちょっと怖いわ。大丈夫かしら。


「そんなにショックか?やはり話すべきではなかったか……」


妹の様子のおかしさに、ルト様が優しく声を掛ける……と、同時に。


「何アホなことやってんのよ~!!あの人は!やっぱりちょっとお馬鹿なの?学習してないの?せっかくリア姉様と婚約できたのに!」


と、がばっと顔を上げてフリーダが叫んだ。ルト様は手を伸ばしかけたまま、固まっている。


そして、彼女はまた今回はと言った。きっと。


『あれだけ望んでいたじゃない……何してんのよ……カズ……』


日本語だ。確定ね!……クズの関係者だったのか。それにしては、私に突っかかって来なかったなあ。どちらかと言えば、と言うか、しっかりガッチリ応援!モードだったけれど。不思議。


ま、それはそれとして。


シスと目配せをし、ここはもう彼女に聞いてしまう他ないだろうと、私が口を開きかける。


『日本語?カズ?フリーダ、お前まさかロイエのを知っている……いや、覚えているのか?』


まさかのルト様の問いに、全員で目を丸くする。


『え、お兄様も……?』


『ああ、お前は……』


『……マナー違反を失礼致します。重ねて失礼な確認を致しますが、お二人のお付きの方は大丈夫なのでしょうか?』


まずシスが日本語で二人の会話に入った。王族同士の会話に横入りするのはマナー違反もいいところだけど、今はそれどころではない判断だ。


『君は、リアの……君もか?ああ、あの二人は大丈夫だ。口は固いし、私達が信用している二人だ。少なくとも、私の侍従は知っているしな』


『……私の侍女も知ってます』


『それはようございました。ちなみに、お付きの方は前世は……』


『ないな』


『私の方も』


『左様でございますか。ありがとうございます。……では、お嬢様』


シスが私の方を振り返り、先を促す。


そして、その意味を悟ったであろう二人が、先ほどよりも驚いた顔をする。だよね、私だってびっくりだよ!


『私も覚えている、と言うより最近思い出しましたの。お二人のお話を聞かせていただけるかしら?』


私のにこやかな問いに、お二人は何となく落ち着かない顔をしている。特にフリーダはクズの女関係なんだろうから後ろめたさとかあるのかな。今さら何とも思わないけどなあ。


『お二人とも、私はもういろいろとスッキリしていますの。昔のことは気になさらないで。ただごめんなさい、お二人は私をご存知みたいですけれど、私は思い出せなくて。話していただける?』


私の問いに、今度は二人が苦笑する。


『リア姉様、私を覚えていませんか?後輩の、リカです』


『……リカちゃん……?いた、ような?』


『覚えてないのですね』


『……ごめんなさい』


だって当時の奴の付き合いの広さは、今回の比ではなかったのだ。私の後輩も何人かいたし、向こうの学校関係者もいたし、その他もいたしで、広く浅~いことも多くて、把握なんてできなかった。


あれこれ嫌な思いもしたので、心が思い出すのを拒否しているのかもしれない。


『いいんです。でも当時、私は先輩に嫌な思いをさせました。謝りたかったんです。すみませんでした』


『大丈夫よ。あなただけではなかったから。って、ごめん。嫌味じゃなくて。……謝りたくて、覚えていてくれたの?』


『それもありますが……その、一番は彼に幸せになって欲しくて』


『は?あの外道に?どういうことです?』


シスが堪らずと言った感じで話に入る。私がかかわるとスイッチが入ってくれちゃうのよね。


『ね、姉様、あの、この人は……』


シスの迫力に圧されながらも、フリーダが聞いてきた。


そういえば、紹介を忘れたわ。


『ああ。彼女は昔から私の大親友だったの。今もよ!』


『そして、あのクズの専門学校での同級生でした』


『ああ!クラスに美人だけどおっかないのがいるって言ってたな、あいつ。今はフォルテロ家のご令嬢か。なるほど』


『そういえば、お兄様は……?』


『ああ、俺はあいつの友人だ。昔も今も、面倒を見る立場らしい』


『見きれていないですけどね』


シスがスパンとルト様を切る。


『手厳しいな~。でも、そうだよな』


ここで怒らないのがルト様だ。きっと昔も優しい人だったのだろう。あんなのと友人だったのだし、今生も面倒を見ていた訳だし。


それはそれとして。


二人は早くから私を認識していたようだよね。


その辺の話を聞かないと。

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