第7話 袖振り合うも多生の縁? その1

フリーダ=アネーロ王女殿下。


もちろんこの方も幼馴染みで、私にとって妹のような存在だ。それはきっと、ロイエにとっても。彼女も私達に懐いてくれていて、姉様、兄様、と慕ってくれている。


そして、貴族社会の中ではかなりの貴公子ぶりだった、クズロイエの大ファンだったようで、私はちょくちょく、フリーダ彼女から見た、やつの素晴らしさを演説されたものだった。


『姉様。私この前、学園で他のお嬢様に囲まれているロイエ兄様を見てしまって、はしたないけれど、聞き耳を立ててしまったの。でね、そのお嬢様たちにいろいろお誘いを受けていたのに、リアがいるから行けません、って即答していたのよ!』


とか。当時はフリーダ様の可愛らしさも相まって、すごく嬉しく思ったものだったけれど、よく考えなくとも婚約者がいるのだから、何てことはない、普通の、当たり前の話だ。


『あんなに想われていて素敵』とか、『美男美女で羨ましい』とか、『姉様の為に、勉強もお仕事も頑張っているみたいですよ』とか、『誰にでも優しいですよね』とか、まあ、諸々。


あまりにロイエを褒めちぎるので、一度、フリーダ様は彼が好きなのでは?と勘繰って聞いたこともあったっけ。


彼女は、『いえ、私は!そういう好きではなくて!妹として、幸せなお二人を見ていたいんです』と言っていた。曰く、ロイエ様はリア姉様以外は妹とか義務のお付き合いとしか思っていないのが分かりますからと。


確かに、ヤツは貴族令嬢からは一線を引いていたけれど。それすらも隠れ蓑だった訳だし。最悪だ。


もう本当に関わりたくないのに~!



「……様。お嬢様。大丈夫ですか?」


「はっ!大丈夫、大丈夫よ」


シスが心配そうに声を掛けてきた。しまった、ちょっとトリップしてしまった。


「すまない、リア。フリーダ、いい加減にしないか」


ルト様が痛々しげに私を見て、フリーダ様を諌める。落ち込んでいた訳ではないのに、申し訳ない。


「だって!誰も私に理由を教えて下さらないのだもの!私だって王家の一員で、もうすぐデビュタントする大人だわ!」


確かに、あれだけ慕っていた人のことを知らされないなんて嫌だよね。周りなりの気遣いなのだろうけれど。


「フリーダ様」


私はルト様とフリーダ様の間に入って、とりあえずこの場を収めようとした。その時だ。


「彼はは頑張っていたはずよ!理由がないじゃない!」


……ん?こたび?って言った?フリーダ様、今。シスと目が合うと、彼女も頷いている。それって……?


「フリーダ」


「ひっ」


そこで堪忍袋が切れてしまったルト様が、地を這うような低い声でフリーダ様の名前を呼ぶ。さすがのフリーダ様もヤバい雰囲気に気づいたらしく、怯えた声を上げる。ルト様は普段温厚だけど、怒ると怖いのだ。


「ここはどこだ?そうだ、高等部の生徒会室だな?中等部のお前がいてもいい場所なのか?」


「そ、れは……」


「しかも、皆の休憩の邪魔までして。恥ずかしくないのか」


「……申し訳、ありません……」


フリーダ様がしゅーんとして、俯いてしまう。元気のいい猫ちゃんが叱られてしょげているみたいで可愛い、とか思っていたら怒られるかしら。


でも、登場の仕方は褒められるもんじゃなかったけど、フリーダ様の気持ちも分からなくはないか。私も面倒がって避けてしまっていたし。さっきの言葉も気になるし……。


「ルト様。フリーダ様も反省しておられますし、この辺にして差し上げてくださいな」


「しかし、リアにも失礼を」


「私は本当に大丈夫ですわ。……フリーダ様は心配して下さっているのよね?ここだと皆さまの休憩の邪魔になりますから、場所を変えてお話しましょう」


「リア姉様……」


私はフリーダ様が安心するように笑顔を向けて、シスに彼女のエスコート役をお願いしながら、ドアに向かって歩き出す。


「皆さま、またお先に失礼しまして、申し訳ないですわ。明日からまた、たくさんお仕事しますのでご容赦くださいな」


学園とはいえ、公爵令嬢にこう言われたらみんな頷くしかないわよねぇ。分かっているんだけどね、ごめんよー。本当に明日から頑張るからね!


「私も行こう。皆はもう少し休憩していても構わないよ。愚妹が迷惑をかけたからね。せっかくのアウダーシア家からの差し入れだ、仕事はほどほどでいい。明日、リアと私で取り返すよ。ね?リア」

「え、あ、はい。もちろんですわ」


「ありがとうございます!」と、役員のみんなの笑顔に、そりゃあ笑顔を返しますけどね。何なに?ルト様も来るの?フリーダ様にいろいろ聞きにくいじゃん!


「あの、ルト様。フリーダ様には私からきちんとお話しますけれど……」


「うん。それはそれで私も確認したいことがあるし。……いたら迷惑かい?」


「い、いえ!そのようなことは!」


「良かった。じゃあ、行こう」


シスが若干呆れた顔をしているけれど、仕方ないじゃん!王子の笑顔の圧に逆らうと面倒じゃん!


で、でもどうしようかな……。

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