第95話 許ス
「ねえ、ママ。入れてよ」
——―コン、コン
「ママ、ねえ、入れてったら」
——―コン、コン、コン
「ママぁ、入れてよお。入れてったらあ」
窓の外で、死んだはずの息子が物欲しそうな目で私を見つめている。
「ううっ……」
部屋の中で、罪悪感に苛まれながらへたり込んでいると、
「そろそろ、入れてやったらどうだ?」
背後で、男がため息混じりの声を上げた。
「……どうしろっていうの。今更、どうにもならない」
「そんなことはない。あの子を受け入れれば、お前は最後に、母親として認められるだろうよ。命ある者としての最後にな」
「……これが、あなたの望みなの?私が苦しむところを見られれば、それでいいの?」
「そう捉えてもらっても構わんが、すべてはお前のせいだ。この真冬に、泣き声がうるさいなどという理由で、あの子を三日三晩もベランダに閉め出しさえしなければ、私に目を付けられることもなかっただろうからな」
——―コン、コン
「ママぁ、入れてえ」
息子が、再度私を呼ぶ。
「見ろ。あの子は死んでも尚、お前のことを母親だと慕っているのだ。最早、選択の余地はないだろう。最後くらい、母親らしい振る舞いをしてやれ」
「……私は」
反論しようと思ったが、男の言う通りだった。
私が選ぶべき道は、ひとつしか無かった。
酷い母親だったが、最後は―――。
「……ユウト、中に入っていいよ」
許可すると、
——―カラカラカラ
「ママぁ」
ユウトが、部屋の中に入って来た。そのまま、私に抱き着くと、
「ママ、ありがとう」
首元に、痛みが走った。
ユウトが、私の首筋に噛みついている。
「……ごめんね」
ユウトを抱きしめながら、受け入れながら、呟くと、
「……朝が来る前に、陽の光が入らないよう、窓を塞いでおくことだな。もうお前たちは、命ある者ではなくなったのだから。この私のように」
男——吸血鬼はそう言い残し、姿を蝙蝠に変え、ユウトが入って来たベランダから深い夜闇の中へ飛び立っていった。
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