第89話 足リ得ル
「コノ、ヒトゴロシ!」
「コノ、ヒトゴロシ!」
「ヒトゴロシ!ヒトゴロシ!」
かつて義母が飼っていたタイハクオウムが、そんな鳴き声を発する。
「私が死んだら、この子の面倒を看てあげてちょうだい」
その言葉に従って、妻は甲斐甲斐しくこの鳥の世話をしていたが……。
「シッテイルゾ!シッテイルゾ!」
「ヒトゴロシ!シッテイルゾ!」
「ヒトゴロシ!コノ、ヒトゴロシ!」
……義母はきっと、興信所でも使って、俺の過去を調べ上げたのだろう。
確かに、俺はかつて、人を殺した。
だが、直接的に殺したわけではなかった。たまたま面倒を見ることになった部下が、精神的に打たれ弱い人間だっただけだ。あの程度の叱咤に耐えられないような奴は、どうせどんな環境に属しようと、生きてはいけなかっただろう。
だから、人殺しなどと言われる覚えはなかった。が―――、
「コノ、ヒトゴロシ!ヒトゴロシ!」
なぜ、このような鳴き声を発するのかを訝った妻が、その過去を知ることになるとは思いもしなかった。きっと、俺に恨みを持つ職場の人間の仕業だろう。コンタクトを取ってきた妻に、ペラペラと俺の所業を話したに違いない。
そして、その旨を問い詰められ、口論の末に―――、
「ヒトゴロシ!ヒトゴロシ!」
床に倒れている妻を眺める。首には、絞められた痕の赤痣がくっきりと浮いている。
これで俺は、立派な人殺しと成ったわけだ。
「……満足か?」
そう尋ねると、鳴き喚いていた鳥は不意に黙り込み、横を向いて俺を見遣った。
人間そっくりの、黒々とした眼で―――。
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