第87話 喰ワレル

「……はあっ、はあっ。


 ―――ザッ、ザザッ……


 ……ふう。この辺でいいかな?

 ええ、これが、最後のログになると思います。意識を失うギリギリまで記録してみようと思うけど、どうなるかな……。

 じゃあ、薬を飲みます。


 ——―キュリッ……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……


 ぷはっ……ふう……。

 多分、十分か二十分ぐらいで死ぬと思います。それまで、ログを残してみたいと思います。三十分で自動的に切れるようになってるから、多分、大丈夫だと思うんですけど……。


 ——―カァ、カァ、カァ……


 カラスが鳴いてますね……。

 死んだら、食べられるんですかね?まあ、こんな所まで来たんだから、覚悟の上ですけどね。でも、誰かが見つけてくれるといいなあ……。

 こうやって記録してるけど、あんまり言うこともないんですよね。遺言を残すような人はいないし、未練もないんで。

 でも……このログだけは、誰かに聴いてほしいですね。

 これが、僕がこの世に残せる、唯一の足跡だと思うんで。

 あの、警察の方。これを、ネットに上げてもらっても構いませんから。

 どんな感じになるかは分かりませんけど、こういうのを実際に聴いた方が、自殺しようとされてる方々の抑止力になると―――、


 ——―カヒューッ、カヒューッ


 えっ?

 ……あ、あの、


 ——―カヒューッ、カヒューッ、カヒューッ


 すいません。いつから、そこに……、


 ——―カヒューッ、カヒューッ、カヒューッ


 だ、大丈夫ですか?


 ——―カヒューッ、カヒューッ、カヒューッ、カヒューッ


 あの……それ、どうなってるんですか?


 ——―カヒューッ、カヒュッ、カヒュッ、カヒュッ


 足が、折れてるんじゃ、


 ——―カヒュッ、グウッ、カヒューッ


 あ、あの、苦しいんですか?

 まさか、あなたも僕と同じように、


 ——―カヒューッ……グルァアアッ!


 え、


 ——―グァアアアアアアアアアアアアアッ!


 ぎっ、げ、げえっ……げほっ、げほっ……ひっ!


 ——―グルルルルルッ!グルァアッ!


 ……ザザッ……ビシャッ、ザザザッ……、バギッ、ニチャッ、ザザザッ……


 ——―グルルルルルルァアアアアアアアアアアアアアアアッ!


 ……ザザッ、ザザザッ、ザリザリザリザリザリザリザリ……ガガッ―――」




 青木ヶ原樹海にて発見された、渇いた血が大量に付着しているスマートフォンのボイスメモアプリに残されていた音声記録より。

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