第86話 注グ

「おら、そっち持て」


「は、はい」


 ——―ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ……


「よっ、と……ん?引っ掛かってんな?」


 ——―ビチャンッ、ボチャッ、ピシャッ、ビチャッ……


「おーし、終わった終わった。帰るぞ」


「あ、あの、先輩」


「あ?」


「この樽の中に入ってたのって……」


「ああ、気にすんな。ちゃんとバレないようにやってっから」


「いや、そういうことじゃ……」


「何だよ。なんか文句あんのか?」


「だ、だって、あの岩穴って、繋がってるんですよね?うちの旅館の温泉の湯が湧き出してる元の、地下水脈に……」


「ああ、だから注いできたんだろ。あれを」


「そ、それって……」


「うるせえな。気にすんなっつってんだろ。うちが子宝温泉で有名になったのは、あれのおかげだ。ギブアンドテイクってやつだよ。おら、さっさと行くぞ」


 ……ギブアンドテイク?

 空になった樽の中を見つめる。

 まさか、やっぱり、僕たちが注ぎ入れた、あの赤黒いものは―――。

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