第83話 異ナル

「こちらの部屋なんですけど……」


 依頼主に通されたのは、妙に薄暗い和室だった。設けられている掃き出し窓のカーテンは開いていたが、ほとんど陽の光が差しておらず、空気がどんよりとして黴臭い。


「それで、声がするというのは?」


「あの仏壇の中からです。開くと、声が聴こえてくるんです。よくも殺したな、よくも殺したな、って。だから、今は扉を閉めているんですけど……」


「ふむ……」


 仏壇をしげしげと眺めた後、扉を開いてみた。外扉も、内扉も。


「……あっ、ほ、ほらっ、聴こえるでしょうっ?」


「……ええ」


「よくも殺したな、よくも殺したなって……。あの、これってやっぱり、ご先祖様がお怒りになってるんでしょうか……?」


「うーん……」


「お願いします。私には、どうすればいいのかが分かりません。もう、霊能者さんだけが頼りです。どうか、この声を止める方法を……」


 ……どうすればいいのか分からないのは、こちらもだ。

 確かに、声は聴こえるが、


「おぎゃぁああぁあああぁあああおぎゃぁあああぁぁああぁあああああっ」


 この、けたたましい赤ん坊の泣き声が、「よくも殺したな」と聴こえるというのは、一体どういうわけだ……?

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