第84話 分カレル

「おはよう」


「おう、おはよう」


「どうしたんだよ」


「え?」


「いや、眠そうな顔してるからよ」


「ああ、昨日あんまり寝れなかったんだよ」


「ハハ、いい加減に慣れろよ。ここで過ごすの、何日目だ?」


「そんなの、覚えてねえよ」


「そりゃヤバいな。普通は、覚えてるもんだぞ」


「そうなのか?」


「だってよ、他にやることなんかねえだろ」


「まあ、そうだけどさあ」


「仕方ねえな。今度から、俺が教えてやるよ」


「そうかい、ありがとうよ」


「なあ、今まで聞かなかったけど、あんたはなんでこんな所に来る羽目になったんだ?」


「なんでって、人殺しだよ」


「ほお、何人殺した?」


「六人……いや、八人だったかもしれねえな」


「ハハハ、それも曖昧なのかよ。お前の記憶力、どうなってんだ―――」




「……どうした?新人」


「い、いえ、独居房の方で声がしたので、行ってみたら、囚人が窓に向かって話しかけてまして……」


「ああ、気にするな。期間が長いと、大概の奴はああやって一人で会話するようになるんだ。珍しいことじゃない。放っておけ」


「は、はい……」


 ……報告しても、取り合ってはくれないだろうか。

 窓に向かって話しかけている囚人の後ろに、薄らぼんやりと透けている、その囚人の姿があったことなど……。

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