第81話 代ワル
「おい!」
——―ダン!
「おいっ!」
——―ダン、ダンッ!
「クソがっ!呼んでんだろうがっ!」
——―ダァン!
ひと際強く床を踏み鳴らすと、ようやく、ギシギシと階段を上がってくる足音がした。
——―コン、コン
「マー君、ご飯持ってきたよ」
「遅えんだよ、ババア。今何時だと思ってんだ。自分の子供を飢え死にさせてえのかよ、ああ!?」
「……ごめんね」
「うるせえよ!メシ置いたら黙ってさっさと失せろ!」
「うん……。でもね、マー君。今日は大事な話があるの」
「ああ?んだよ。ハローワークにはもう行かねえっつっただろ!あんな公僕の持ってくる仕事なんざ、絶対にやらねえ!大体、この国は生活保護で生きていけるように――」
「マー君、私ね。この家を、出て行くことにしたの」
「……はあ?」
「もう歳だから、施設で暮らそうと思ってね。介護してもらわないと、生活するのが大変で――」
「ざっけんなよ、ババア!何が大変だよ!親父の保険金、まだあんだろうが!専業主婦の癖に、ガタガタ言ってんじゃねえよ!俺はどうすんだ?見捨てんのか?実の親の癖に、見捨てんのかよ!?ああっ!?」
「マー君、お願い。話を聞いて」
「クソババア!入って来い!今日は許してやる!実の子供を見捨てる親がどうなるか、分からせてやる!」
「……マー君、安心して。マー君のお世話をしてくれる人ならいるの」
「ああ?」
「私の代わりに、この家にいてくれる人がいるの。だから、今日から、その人が、マー君のお母さんになるの」
「何わけ分かんねえこと言ってんだよ」
「その人、もうドアの前にいるから、お顔を見てあげて。ご飯を持ってきてくれてるから」
……やけにババアの声が遠いと思ったら、そういうことか。
舐めやがって。何が私の代わりだ。いつかみたいに、痛い目に遭わせてやらないと。代わりとかいう奴もろとも。
足音を大きく立てながら、扉の前に行き、
「ふざけん――」
勢いよく開けた。そこには―――、
「オアァアアアァアアアアァアアアッ」
明らかに人ではない何か――グズグズに腐った藁人形のような奴が、飯を乗せた盆を持って佇んでいた。
その向こうには、ガタガタと震えながらこっちを見ているババア。
「……今日から、その人がマー君のお母さんだから」
「オアァアアァアァアッ」
藁人形の顔の部分から、首を絞められた鳥のような声が漏れ響いた。瞬間、腐った藁がパラパラと剥がれ落ち、無数の目がそこかしこから覗いた。
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