第80話 見ツカル

「私の勝ち」


「私の勝ち」


「私の勝ち」


 塩水にまみれたぬいぐるみに向かって、三回言い放った。

 これで、ひとりかくれんぼは終わりだ。


「……つまんないの」


 別に、何も起こらなかった。ぬいぐるみは風呂場にあったままだったし、変な声がしたとか、変なものを見たとか、そういうこともなかった。

 まったく、拍子抜けだ。


「はあ……」


 何かが起きるはずだと期待していたのに――と、その時、


「……え?」


 左手首が、赤い糸で縫われていることに気が付いた。まるで、ミサンガでもしているかのように。

 これは……ぬいぐるみを縫う時に使った糸?

 恐る恐る、それに触れると、


 ——―しゅるる、ごとん


 と、縫い目が解け、左手首が落ちた。


「……っ!?」


 まるで、人形の手がポロっと取れるかのように、私の左手が、痛みも無く―――、


 ——―ザララララ……


 その傷口からは、血ではなく、米が零れ落ちていた。

 これでは、まるで、私が―――、


「みーつけた」


 風呂場の戸口の方から、あどけない声がした。

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