第79話 迷イ込ム

「——―五時です。もうすぐ、黄昏時が訪れます。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきますので、早くおうちに帰りましょう。さもないと、怖い目に遭います」


「はあっ、はあっ……」


「五時です。もうすぐ、黄昏時が訪れます。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきますので、早くおうちに帰りましょう。さもないと、怖い目に遭います」


「はっ、はっ、はっ……ううっ……」


「五時です。もうすぐ、黄昏時が訪れます。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきますので、早くおうちに帰りましょう。さもないと、怖い目に遭います」


「くそっ……くそっ……!」


「五時です。もうすぐ、黄昏時が訪れます。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきますので、早くおうちに帰りましょう。さもないと、怖い目に遭います」


「やめろっ!」


 町中のスピーカーから発される声に対し、思わず怒鳴った。

 おかしい。

 こんな馬鹿げた放送が流れていることはもちろん――なぜ、誰もいない。

 走れど走れど、人に会わない。

 探せど探せど、一人も見当たらない。

 まるで、町から人だけが消えてしまったかのような――いや。

 消えたのは、俺の方か?

 俺だけが、別の世界に紛れ込んでしまったというのか?


「五時です。もうすぐ、黄昏時が訪れます。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきますので、早くおうちに帰りましょう。さもないと、怖い目に遭います」


 小学校の校内放送のような声が、俺を嘲笑うように、追い詰めるように、響き続ける。

 夕暮れに染まった町並みが、みるみる薄暗くなっていく。


「——―五時を過ぎました。黄昏時が訪れました。またの名を、逢魔が時ともいいます。その言葉の通りに、怪しい異なるモノがあちらこちらからはみ出してきます。おうちに帰れなかった方は、もう諦めましょう。おうちに帰れなかった方は、もう諦めましょう。おうちに帰れなかった方は、もう―――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る