第75話 答エル

「準備は良い?それじゃ、いくよ。せーのっ」


 私たちは、一斉に通話ボタンを押した。


 ——―ピリリリリリリリリリ


「……!」


 繋がった。話し中になるはずなのに……。

 他の面々を窺うと、同じように驚愕の表情を浮かべていた。

 どうやら十人全員、繋がったらしい。

 となると……。

 息を呑んで、携帯を耳に押し当て、相手が電話に出るのを待つ。

 すると、数コール後、


「…………はい、アンサーです」


 電話口に出た人物が、老人とも、若者とも、男とも、女とも取れない声でそう言った。


「……っ!」


 沈黙が続く。

 質問してこない。ということは……私は、アタリを引いたわけだ。


「あ、あの、アンサーさん。……私は、第一志望の大学に合格することができますか?」


「……無理です」


「えっ―――」


 瞬間、電話が切れてしまった。


「……そんな」


 携帯を片手に、呆然と立ち尽くしていると、


「ちょ、ちょっと」


「どうしたの」


「大丈夫?」


 他の面々が、一人を取り囲んでいる。


「……どうかしたの?」


「こ、この子が、質問されたんだって」


 ハズレを引いたのは、クラスメートのタエのようだった。えぐえぐと、顔を押さえて泣きじゃくっている。


「タエ、どうしたの?」


「うっ……ひっ、ぐっ……ごめんなさい、ごめんなさい……」


「何を訊かれたの?」


「うっ……ひぐっ……」


 なぜだか、無性に腹が立った。

 何をメソメソとしているのだ。こっちは、それどころではないのに。


「タエ!しっかりしてっ!なんて訊かれたのっ!?」


 思わず、怒鳴りつけると、


「……こっ……この場にいる全員、持って行ってもいい?って……」


「はあ?どういうこと?」


「わ、分かんなくてっ……でも、怖くてっ……切ったの」


「……切ったって、じゃあ、質問に答えなかったってこと?」


「ううっ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい―――」


 タエが壊れたおもちゃのように繰り返し続けていると、


 ——―ピリリリリリリリリリ


 全員の携帯が、一斉に鳴った。

 息を呑み、画面を見つめる、

 そこから、ぬらりと黒い腕が伸びて―――。

 教室に、十人分の悲鳴が響き渡った。

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