第18話 スレ違ウ

「ねえねえ、最近ね、ここで殺人事件が起きたんだって」


「へー。こんな何にもない通りで?」


「うん。まさに通り魔だって噂だけど」


「そうなんだ。気を付けよ……って言ったって、気を付けようなんてないよね。通り魔なら」


「……うん。周りに家とかあるけど、あっという間に襲われちゃったら意味ないもんね」


「ねー。あっ、そんなことよりさあ。そこの家のワンちゃんがね、この間私に向かって吠えてきたの」


「そうなんだ?珍しいね。あの犬、普段は大人しいのに」


「また吠えられるの嫌だから、今日はここで別れよ。じゃあね」


「……うん。じゃあ、また明日ね。ばいばーい」




 別れた後、一人歩きながら、内省する。

 ……はあ。今日も言い出せなかった。「通り魔に襲われて死んだのは、あなたなんだよ」と。

 早く、あの子を成仏させてあげたいのに。




「……ばいばい」


 通りに一人取り残された後、ポツリと呟く。

 ……上手く話を逸らすことができて良かった。

 あの子が毎日来てくれるから、自分が死んでることに気が付いてても、成仏できなくなっちゃった。

 楽しみだなあ。明日は何を話そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る